服とポーションと魔物

 

 食事をしながら予定を考えるなんて高等技術は無理だった。美味い物を食べながら他の事を考えられるか。


 それにキラービー印のハチミツが美味すぎる。さらに高級そうなロイヤルゼリーはどんな味がするのだろうか。キラービーは私の従魔なんだから横流ししてほしい。


 さて、村にいるのは久しぶりだから色々回ってみるか。用事があればその時思い出すだろ。


 そんなことを考えていたらニアがやって来た。


「おはよう、フェルちゃん。昨日は良く寝れたかい?」


「おはよう。ああ、昨日はぐっすりだ。ガールズトークも無かったしな。早めに寝て早く起きたのだがロイヤルゼリーは買えなかった」


「そりゃ残念だったね」


 その後、ニアと雑談してから、魔物達への料理をお願いした。お金は要らないと言っていたがそういう訳にもいかない。きちんと食事代を払った。何食分もあるから大変だし、食材以外にも手間賃が必要だろうからな。


 よし、村を回ってみるか。




 まずは冒険者ギルドだ。服はもうできているだろうか。今日とは言っていたけど、夕方頃かな。


「たのもー」


「フェルちゃん、いらっしゃい。仕事はないよ」


「知ってる。服を取りに来たんだが、もうできてるか?」


 このやり取りも久しぶりだ。だいたい、このギルドに仕事を探しに来る奴はいない。仕事があったらディアの方から来る。


「こんな朝早くから来るなんて楽しみにしててくれたのかな? もちろんできてるよ。微調整がすぐに終わったからね」


 ディアはギルドの奥に行き、マネキンに着せた服を持ってきた。


「ここで着替えてもいいか?」


「もちろん。着てから感想を聞かせてよ」


 早速ギルドの奥にある部屋に移動した。今着ている服を亜空間にしまって、新しいズボンをはいてベストを着る。そしてジャケットに腕を通した。


 昨日も着たがやはり軽い。そして動きが阻害される感じがしない。昨日着たよりも快適な気がする。仕立服ってこういうモノなのか。なんというか服を着ているような感覚がない。


 もしかしてディアって裁縫の腕がすごいのか?


「どうだ? 私個人としてはかなりいい感じなのだが」


 奥の部屋から戻って来た。ディアの目は真剣だ。普段からそれぐらい真剣だといいのだが。しばらく観察していたようだが、急にサムズアップしてきた。合格ということだろうか。


「見た目は大丈夫だけど、着心地はどうかな? 動きづらくない?」


「快適だ。いままで着ていた服とは比べ物にならない。重宝する」


「うん、長く着てあげて。何かあったら修復するから」


 正直これを着て暴れるのは避けたいな。汚したくない。どこか破れたりしたらさらに暴れるかもしれん。そう考えると戦闘用の服じゃないな。


 そうか、もっと強度の高い布とか革で作って貰えばいいんだ。確かオリハルコンの針があれば、ドラゴンの革でも縫えるとか言ってた気がする。


「また後で服を作ってくれるか?」


「もちろんいいよ。ただ、布とかは用意してね。用意してもらっても値段が高い物は保証金が払えないからダメだけど」


「大丈夫だ。魔界にあるものだからタダだし」


「それならいいかな」


 よし、オリハルコンも魔界の宝物庫にあった気がする。それも持ってきてもらって、ドワーフのおっさんに針にしてもらおう。


「ところでこの胸ポケットに描かれているマークなんだが」


「ニャントリオンのロゴマークだよ。妥協に妥協を重ねて小さくしたんだから、それ以上は小さくならないよ」


「あ、そう」


 大きくないか? でも、目立つ色でもないから大丈夫かな。恥ずかしいわけじゃないんだが、こう、シリアスに向かないマークのような気がしないでもないんだが。それに猫だし。できれば犬がいい。


「それじゃフェルちゃん。ちょっと今日から忙しいから仕事しちゃうね」


「雨が降るだろうが」


「たまには降らなきゃ駄目でしょ? あれ? もしかして珍しいって意味で言った? どういうことかな?」


「冗談だ。仕事と言うのは、昨日言ってたギルド会議の用意とかのことか?」


「そうなんだよね。もう少ししたら冒険者ギルドの本部に行かないといけないから資料を作らないと。あ、その時はしばらく留守にするから」


「そうなのか。どれくらい留守にするんだ?」


「二週間ぐらいかな。場所がオリン魔法国の王都だからね。会議よりも移動している時間の方が長いんだよ」


 それは大変だな。でも移動ならカブトムシを使う手がある。


「カブトムシに運んでもらうと言うのはどうだ? 王都に行ったことはないが、普通の移動手段よりは早く行けるぞ」


「目立つけどそれもありかな? でも、飛ぶんだよね?」


「昔は荷台だったがゴンドラになってからは安全性が増したと思うぞ。ワイバーンに襲われてもカブトムシは勝てるし、それほど危険じゃない」


「ワイバーンに勝てる方が危険だと認識して? まあ、フェルちゃんの部下だから、意味もなく暴れたりしないだろうけどね。うん、ちょっと考えてみるよ……フェルちゃんの権限で割引とか効く?」


「……私じゃなくて、ヴァイアの権限なら効くかも」


 その後、ディアは資料を作ると言って仕事を始めた。本当に仕事をしている。明日は雨だな。




 次にヴァイアの雑貨屋に来た。ここに来るのも久しぶりだな。


「たのもー」


「いらっしゃい、フェルちゃん。今日はどうしたの?」


 あれはハタキという掃除道具だろうか。棚に置いてある商品に対して使っていたようだ。掃除をやめてこちらに近づいてきた。


「そうだな、まずはポーションの代金を払いに来た。あとは雑談」


「もー、代金はいらないって言ったじゃない」


「そういう訳にもいかん。ケジメみたいなものだ。親しき中にも礼儀ありというやつだな」


 ポーション一つで小銀貨一枚。それを十本貰った。なら、代金は大銀貨一枚だな。


 亜空間から大銀貨一枚を取り出してヴァイアに渡す。


「ポーションがあって助かった。今後も使うかも知れないから預かった分は全部買い取る」


「うん、わかったよ。なら、ご購入ありがとうございました。それで、なんだっけ? 雑談しに来たの?」


「特に用があるわけじゃないんだ。久しぶりだから村を見て回ってるだけだ」


 セラと話をするためのネタも探っているが、これは言わなくてもいいか。


「フェルちゃんが仕事を探していた時みたいだね」


 そういえばそうだったな。来た頃は仕事を探して色々村を歩き回っていた気がする。よく考えたら無職に戻ってしまった。しばらくはお金に余裕があるけど、また食糧を買って魔界に送らないといけないから仕事を探さないとな。


 そういえばルネの奴はウロボロスへ戻れただろうか。戻れずに魔物にやられたと言うことはないと思う。でも、念のため魔界へ連絡しておこうかな。


「そういえば、商人さんの話をしたよね?」


「ああ、昨日聞いたな」


「明後日には来るらしいよ。今日、西の町を出たみたい」


 西の町と言うとルハラに行ったときに最初に攻撃した町か。帰りも寄ったけど怯えていたな。あれはニアをさらったのが悪いんだ。私は悪くない。


 そんなことよりも明後日か。その日はダンジョンに籠っていよう。面倒だから。でも、何日も滞在するのか? 一週間とかいられたらさすがに困るんだが。


「ここに来る商人はいつもどれくらい滞在するんだ?」


「特に決まってないよ。一日の時もあれば、一週間いた時もあったね。でもそれは天候の理由かな。雨が降ると視界が悪くなって護衛さんが大変だからね。そういう時は晴れるまで滞在するんだよ」


「護衛か。冒険者がそういう事をしているのか?」


「そうだね。お抱えの護衛さんを持てるのはよほどの商人さんだけど、そういう商人さんはここに来ないからね」


「なんで来ないんだ?」


「今は違うけど、フェルちゃんが来る前って、この森は魔物が強くて危なかったんだよ」


「そうなのか。あれ? 今は違うのか?」


「今、その魔物達は村の防衛をしているから危なくないね!」


 ヴァイアが笑いながら私を見ている。


 それは私のせいだと言いたいのだろうか。ちょっとは影響しているかもしれないけど、ちょっとだけだ。積極的に介入はしていないと思う。多分。


 ヴァイアは引き続き店の掃除をするそうだ。店を閉じたままだったから商品がホコリを被ってしまったらしい。そのホコリを払っている最中だったようだな。


 これは邪魔しちゃまずい。よし、移動しよう。次は教会だ。

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