一回戦第二、第三、第四試合

 

 モニターに大狼とアラクネが映っている。お互いにやる気が漲っているな。


「まさかとは思うが、我に勝てると思っていないだろうな?」


「負ける理由なんてないクモ」


 火花が散っている。目を逸らしたら負ける感じだ。


 アンリがモニターに映る大狼とアラクネを何度か交互に見てから、私の方へ顔を向けた。


「フェル姉ちゃんの予想だとどっちが勝ちそう?」


「私の予想か……」


 スキルで言えば大狼の黄昏領域というのが厄介な気がする。ジョゼフィーヌはなんとかできたけど、アラクネにどうにかできるのかな? それさえ何とか出来ればいい勝負になるとは思うんだけど。


 私だったらスキルを使わせないように、接近戦で息もつかせぬ攻撃をするぐらいしか思いつかない。


 ただ、アラクネの手の内は良く知らないな。以前、リーンで面接した時に罠が得意とか言ってたし、スキルを使われたとしてもなんとかなるのかも。でも、スキルが何とかなったとしても、アラクネは進化してないから身体能力的に負ける可能性があるか。


「大狼が優勢だと思う。ユニークスキルというのは強いからな。下手すると大狼が一方的に勝つかも」


「ならアラクネ姉ちゃんを応援する」


「うん、私もアラクネを応援する」


 私はどっちでもいいかな。一方的にならなければいい。


 モニターを見ているとアビスが出て来た。


「……では一回戦第二試合開始です」


 そう言いながら鐘を鳴らす。


「【黄昏――」


「させないクモ!」


 始まったとたんに大狼がユニークスキルを使おうとした。だが、そこにアラクネの糸が襲い掛かる。それを大狼は慌てて躱した。だが、躱した先にも糸が伸びて襲い掛かっている。息もつかせぬ連続攻撃だ。


 私の考えと同じようにスキルを使わせない気か。まあ、それしかないよな。大狼のユニークスキルは技名に魔力を乗せて発動するタイプだ。言葉を口から出さないと使えない。だから技名を言う前に邪魔をする。


 でも、大狼は随分と余裕をもって躱しているな。危険だったのは最初だけで、それ以降は危なげなく躱してる。


「……では、この試合の見どころはどこでしょうか?」


 アビスがジョゼフィーヌに話を聞いているようだ。


「そうですね、アラクネからしたら黄昏領域を使われたら厳しいでしょう。なのでアラクネはスキルを使わせないように連続で攻撃しているようです。おそらくですが、アラクネは糸で口を塞ごうとしているのだと思います」


 なるほど。口さえ塞げばスキルを使えないからな。


「ですが、ナガルもそれは分かっているはずですので、今は回避に専念しているようですね。アラクネの攻撃が途切れるのを待ってからスキルを使うつもりなのでしょう。スキルを使う、使わせないの攻防が見どころでしょうか」


 ナガル……? ああ、大狼の名前だっけ。


 大狼からすればアラクネがスキルを怖がっているのが分かるのだろう。慌てなくても攻撃が落ち着いたらスキルを使って反撃と。うーん、やっぱりアラクネが不利かな。


 アラクネは随分と糸を出したが大狼にはかすりもしない。そろそろ、攻撃が止むころか? アラクネが肩で息をし始めたし、糸の攻撃にキレがない。でも何だろう? 糸での攻撃に違和感がある。そもそも大狼の方へ向かっていない糸がいくつかあるような?


 大狼が襲い掛かる糸を躱すと一気に距離を詰めてアラクネを爪でひっかいた。


 アラクネは横に転がりながら躱した。傷はかすった程度だろうが、攻撃は止まってしまったようだ。


「ここまでだ、【黄昏領域】」


 大狼の姿がうっすらと背景に溶け込み始めた。


「【魔力妨害】クモ!」


 アラクネがそう言うと、大狼のユニークスキルがキャンセルされた。消えかかっていた姿が今度は浮き彫りになってくる。


「なんだと!」


 すごいな。魔力妨害の魔法って結構高度な術式のはずだ。仕込みもなしに使える物じゃないんだが。


 服が引っ張られる気がしたと思ったら、スザンナが服の裾を引っ張っていた。


「ねえねえフェルちゃん、今の何? どうなったの?」


「えっと、大狼がスキルを使おうとしたんだが、アラクネがそれを妨害した。魔力妨害っていう魔法だ」


「聞いたことある。でも、それってすごく難しいよね?」


「そうだな。術式が複雑で頭の中で組み立てるのは難しいと聞いたことがある。どうやったんだろうな?」


 もしかしてアラクネもヴァイア並みにおかしいのか?


「アラクネ! 貴様、何をした!」


「手の内をばらすわけないクモ。これで対等に戦えるクモ」


 今度はアラクネが距離を詰めて足や腕で攻撃している。一撃が重そうだ。それに大狼は動きづらそう。アラクネが攻撃で使った糸が地面にあって足を取られるみたいだ――ん? 地面の糸?


「あ、そういう事か」


 その言葉にアンリとスザンナがこっちを見た。


「フェル姉ちゃん、なにか分かったの?」


「地面に糸があるだろ? アラクネが攻撃で使ったヤツ。あれで魔力妨害の魔法陣を作ってあるんじゃないかな。よく見えないけど」


「攻撃していると見せかけて魔法陣を作っていた?」


「多分な」


 二人とも「おおー」と興奮している。


 アラクネはこういう戦い方をするのか。なるほど、これでもうあのコロシアムはアラクネの巣みたいなものだ。罠が得意と言っていたのは本当だったな。


「ここは私のテリトリークモ。このまま引導を渡してやるクモ」


 アラクネが大狼を追いつめている。大狼は防戦一方だ。でも、大狼は意外と余裕そうだな。


「やるなアラクネ。だが、魔法を使えるのは貴様だけではないぞ? 【発火】【発火】【発火】」


 大狼が糸に対して発火の魔法を使った。あっという間に糸が燃えだす。糸がコロシアムの至る所にあるから火の勢いがすごい。


「あちちクモ! こんなことしたら一緒に焼けるクモ!」


「負けるよりマシだ。それに気づいたぞ? この糸を使って私のスキルを妨害したのだな?」


 あ、バレてる。アラクネが汗をかきだした。周りが熱いと言うのもあるけど、バレたからだろうな。


「これだけ糸が燃えたならもう出来まい。【黄昏領域】」


「【魔力妨害】クモ!」


 ダメだ。アラクネの妨害が発動していない。糸が燃えて魔法陣を形成してないのだろう。大狼の姿が背景に溶けていき、全く見えなくなった。


「まずいクモ――」


 アラクネがそう言った瞬間に空中に吹っ飛んだ。あれは場外コースだな。空中で糸を地面に伸ばし戻ろうとしたようだが、その糸も燃えた。見えないけど大狼が燃やしたのだろう。


「クモー!」


 アラクネはそのままコロシアムの観客席に落ちた。場外だからこれでアラクネの負けだな。


「……アラクネ選手が場外となりましたので、勝者はナガル選手です」


 村の皆が盛り上がってる。まあ、面白い戦いだったかな。火も派手だったし。


「……今回もいい試合でしたね」


「そうですね、お互い手の内が分かっていたら、また別の結果になったかもしれません。それにアラクネは、まだ進化していませんから、進化したらさらに結果が分からなくなりますね。今後に期待です」


 進化した魔物相手に戦えるのは凄い事だからな。頑張って進化してほしい。


「手に汗握る戦いだった。ベストバウト」


「うん、よかった。私もアラクネみたいな戦い方をする」


 スザンナは水を操作できるから色々やれそうだな。水で魔法陣も組めそうだし。


 まあ、頑張ってくれ。




 次の試合はシャルロットとオークだったが……試合は一方的な展開で終わった。


 そもそもシャルロットに物理攻撃は効かない。オークは最初から涙目だったけど、試合で色々な槍のスキルを使って盛り上がるだけは盛り上がった。


 そして負けたオークの奥さんが「今日はうまいもんを食って、明日からまた頑張ればいいんだよ!」と言って励ます姿がモニターに映った。村の男達が泣きながら頷いている。負けたら夕食抜きとか言ってたのに、優しさ溢れる叱咤だったからかな。




 その次の試合はミノタウロスとカブトムシ。


 これはパワー勝負だった。ミノタウロスは斧を持っていたけど、それを使わずに力任せの押し合い。カブトムシも飛ぶような無粋な真似はせずに真っ向勝負。


 勝者はカブトムシ。ミノタウロスを場外に押し切った。さすがに進化していないミノタウロスじゃ厳しい。


 ミノタウロスもつがいに頑張って進化しようと声を掛けられていた。そして村の男達が泣きながら頷く。なにかの様式美なのだろうか。




 とりあえずこれで一回戦は全部終わった。


 残ったのはロス、大狼、シャルロット、カブトムシの四名だ。


 シャルロットと大狼が残る気がする。でも、皆、手の内は見せていないのかな。どうなるか分からないから、ちょっとドキドキしてきた。


「……一回戦はすべて終了しましたので、次は準決勝です。いったん休憩にします。しばらくお待ちください」


 アビスがそう言うとモニターの内容が切り替わり、アビスの中と思われる映像を流し始めた。


 さて、どうしようかな。料理はまだあるけど、私が食べ過ぎるのもなんだしな。残ったら全部貰おう。


「フェル姉ちゃん。デザートの臭いがする。すぐに戦場になるから行こう」


「そうだな。一番槍を渡してなるものか」


「私はここでアビスの名所案内を見てる」


 スザンナはここに残るようだな。よし、準決勝が始まる前にアンリとデザートを確保だ。

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