ガールズトーク

 

 どうにかリエルを丸め込んだ。


 なんとなくだけど、ヴァイアとノストが上手くいっている感じだからな。リエルは焦っているのかもしれない。よそはよそ、うちはうち、という言葉を知らんのか。


 だけど、説得が終わって、ふと、思った。


 私は何をやっているんだろう。


 別にいいんだけど、これは私のやることなのだろうか。セラと戦った時よりも疲れた気がする。


 早く寝よう。今日は色々疲れた。


『フェル様、聞こえますか? アビスです』


「アビス? ダンジョンの外に念話を飛ばせるのか?」


『バージョンアップしました。それはともかくですね、その、魔王様? が来てほしいようですが、大丈夫でしょうか?』


 なんで魔王様を疑問形に言うのだろうか。それに魔王様が呼んでいるならいつどんなときだって行かないと。


「わかった。すぐに行く。少しだけお待ちいただく様に伝えてくれ」


『わかりました』


 さて、すぐに向かわないとな。魔王様をお待たせする訳にはいかない。


「すまないがアビスへ行ってくる。ちょっと呼ばれたんでな」


 そう言うと、周囲から「お開きにするか」という言葉が出てきた。結構遅い時間だ。ボチボチ注文もしなくなったし、これ以上は明日に響くのだろう。私に向かって「ごちそうさま」と言って村の皆は帰っていった。


 残ったのはこのテーブルにいるメンバーだけだ。他にもヤトやロンが後片づけをしているけど。


 ヴァイアが不思議そうにアンリを見ている。


「あれ? アンリちゃんは帰らなくていいの? もう遅い時間だよ?」


「今日はフェル姉ちゃんの部屋にお泊り。ガールズトークをする予定」


「アンリだけズルい。私も同じ部屋に泊まる」


「お前らは小さいけど、ベッドも小さいんだ。さすがに三人で寝るのは狭すぎる。それにスザンナは大人だろ。一人で寝ろ」


 スザンナが頬を膨らませた。どうやらご立腹のようだ。


「わかった。それならガールズトークだけ参加する。泊っているのが隣の部屋だから眠くなるギリギリまで大丈夫」


 まあ、それくらいならいいか。でも、ガールズトークってタダのお喋りだよな?


「じゃあ、先に部屋に行っていてくれ。二階の一番奥だ。アビスでの対応が終わったらすぐに帰るから」


「分かった。ガールズトークのテーマはピーマン撲滅について。フェル姉ちゃんも考えておいて」


 それは無理なんじゃないか……?


 あれ? なんでヴァイア達も二階に行くのだろうか?


「二階に何か用があるのか?」


「俺達もガールズトークする。時間が遅いって言ってもまだ寝る時間じゃねぇからな」


「テーマはピーマンだけどいいのか?」


「ずっとその話な訳ねぇだろ。アンリ達に男と女ってのを教えてやるぜ!」


 急いで帰って来よう。どうせロクな事を教えないからな。




 アビスに着くと、エントランスにドレアと従魔達がいた。あと、獣人達もいる。さっきは見なかったけど、アビスの奥の方にいたのかな。


 私に気付いたドレアが近づいてきた。


「フェル様、勇者はどうなったのですかな?」


 詳しくは私も知らない。ここはアビスに聞いておこう。多分、魔王様からの指示で何かやっていたはずだから、私よりも詳しく知っているはずだ。


「アビス、セラはどうなった?」


『はい、出口のない空間に閉じ込めました。私の許可なくそこから出ることはできませんので、隔離したと言えますね』


 凄いな。そのままずっと隔離しておいてもらいたい。


「それは素晴らしいですな。それに勇者を二度も退けるとは。魔族にとって偉業と言えるでしょう」


 確かにそうだな。魔王様に助けられたのも二度目だ。……そうだ、説教されるんだった。魔王様に謝らなければ。


 謝ると言えばドレアはニアに謝っていたようだな。もう、謝らなくていいとニアが言っていたから伝えておかないと。


「ドレア、ニアから聞いた。すでに謝ったんだな。もう謝らなくていいと言っていたぞ」


 ドレアは顎に手をやり、目を瞑った。


「謝罪したのですが、逆に礼を言われてしまいましたな」


「礼? 何でそうなる?」


「私がニア殿の情報をルハラの貴族に漏らしたことで、これまでの問題をすべて解決できたと。きっかけをくれた私と、解決したフェル様に感謝しているとおっしゃっていましたな」


 ドレアは目をつむったまま、すこしだけ口元を緩ませた。


「フェル様の言う通りですな。人族は面白い」


「そうだな。セラが暴れたのも魔族のせいなのに、村の皆は気にしていないと言ってくれた。この村の人族がおかしいのかもしれないがな」


 ドレアが「確かに」と言って笑った。


 そうだ。大半の従魔がいることだし、ここで言っておこうか。


「聞け、お前達」


 全員がこちらを注目する。


「この村は魔族や魔物、それに獣人にだって分け隔てなく接してくれる。そして、私やドレアが起こした問題も笑顔で許してくれた。私達はその恩に報いなくてはいけない」


 全員が頷く。まあ、こんなこと言わなくても分かっているとは思うが、言葉にしておかないとな。暗黙の了解ではなく、言葉にする事が大事だ。


「全員、この村と住人を命懸けで守れ。個人的にそう思っていた奴もいるとは思うが、私からの命令として覚えておけ」


 また全員が頷く。真面目な顔だ。命令をちゃんと理解してくれたのだろう。


「ドレア、魔界にも連絡しておいてくれ」


「畏まりました」


 ドレアはうやうやしく頭を下げた。


「ジョゼフィーヌ、魔物達の方は任せた。命令を守らない奴はいないと思うが万が一ということもある。よく言い聞かせておいてくれ」


「お任せください」


 ジョゼフィーヌも丁寧に頭を下げる。頼もしい。


「獣人達はヤトに任せるつもりだ。ヤトに恩を返したらウゲン共和国に帰るかもしれないが、この村にいる間は命令に従ってもらうぞ」


 黒っぽい獣人が一歩前に出た。


「ハッ! ヤト様からフェル様の命令は厳守するように言われておりますので、獣人一同、その命令に従います!」


 いつの間にか獣人達が統率されている。ヤトがやったのかな?


 そういえば、ルハラ帝国とウゲン共和国は和睦を結ぶ感じだったよな。ドレアの案だっけ? ここの獣人にもなにか力になって貰えば楽になるかも。


「ルハラ帝国はウゲン共和国と和睦を結ぶつもりだと聞いてる。そのためにルハラ帝国に居る獣人達は全員解放しようとかの話も出ていたはずだ。戦争していたから憎い国かもしれないが、協力してやってくれ。これは命令というか、お願いだな」


 獣人達の目が点になっている。どうした?


「そ、それは本当ですか?」


「本当だ。今の皇帝はどことも戦争しないと言っている」


「しかし、我々の土地は食糧がなかなか育たないのです。食糧を得るためには他国へ攻め込まないといつか滅んでしまいます」


 魔界と似たような状況なんだな。でも、陸続きなのだろうし、魔界のダンジョンよりはマシだと思う。


 それに獣人達は人族よりも身体的な能力は高い。戦力や労働力として重宝するはずだ。


「なら、ズガル、お前達がいた町だな、あそこで働いて食糧を買うといい。あの辺りは私の国になったからな。治めるのは魔族だ。獣人だからと言って迫害なんかさせないぞ。今はまだ無理だが、しばらくしたら行ってみるといい」


 目が点になった上に、口が開きっぱなしだ。


 その後、前に出てきた獣人が膝をつく。それに合わせて他の獣人達も膝をついた。


「フェル様、感謝致します」


「さっきの命令を守ってくれるなら感謝なんてしなくていい。そうだ、ドレア。ディーンのサポートをするなら、獣人達も必要か?」


「そうですな……ルハラ帝国にいる獣人達との話し合いや、共和国への使者として行ってくれると話がスムーズになるかもしれませんな」


「それなら獣人達と話して何人か連れて行くといい。できるだけ早く話をまとめた方がいいだろうからな」


 ドレアは頷くと、獣人達の方へ近寄って話を始めた。


 おっといかん。魔王様をお待たせしてしまった。


「よし、解散だ。なにかあれば明日にでも報告してくれ。さて、アビス、私はどこに行けばいい?」


『お待ちください。今、転送します』


 すこしだけ浮遊感を味わうと、どこかへ転移したようだ。


 なんだここ。


 遠近感がよく分からない部屋だ。広いし壁や床、天井まで白一色だからだな。中央には牢屋があり、その中にはセラがいる。牢屋の中にベッドがあって、そこで寝ているようだ。


「フェル、皆には許してもらえたかい?」


 背後から魔王様に声を掛けられたので、そちらを振り向く。


「はい、許してもらうと言うよりも、誰も気にしていない感じでした」


「それはフェルが頑張った結果だと思うよ。信頼関係を結んでいなかったら、そんな事にならなかったと思う」


 魔王様は笑顔でそんなことをおっしゃった。案ずるより産むが易し、と言ってくれたのは、この結果を見越しての事なのだろうか。


「それでね、フェル。ちょっと話をしておきたかったんだ。セラの事でね」


 セラのこと? 特に聞きたいことは無いが、セラは変な感じだった気がするからな。魔王様とセラの会話を聞いていた限りでは、なにか変な事をされていたような感じだったが。その件かな。


「どんなことでしょうか?」


「セラなんだけどね。あまり嫌わないでやってほしいんだ」


 ちょっと私の時間が止まってしまったようだ。数秒、いや数分? 思考が空白になるってたまにあるけど、今回は長かった気がする。


「ええと、セラは勇者なので、嫌わないというのは、その、難しいです」


「まあ、そうだね。でも、セラも言ってたけど、彼女と対等といえるのはフェルぐらいなんだよ」


「たまにセラと戦え、という意味でしょうか」


「戦わなくてもいいんだ。話し相手になってあげてほしい」


 セラとガールズトークをしろと言う事だろうか? でも、セラと何を話せばいいのだろう?


 話題が全然思いつかないな。だいたい、セラは普段、何やってんだ?


「ものすごい顔をしているね。難しいかな?」


「お言葉ですが、難しいよりも不可能、かと」


 難易度がハルマゲドン通り越してビッグバン。


「そう言わずにお願いするよ。セラはちょっと体内の魔素をいじられて精神的に追い込まれているんだ。フェルに対する言動がおかしいのはそのせいだからね」


 勇者って本当に迷惑な奴だな。


「しばらくは僕もここでセラの治療とかしないといけないんだけど、フェルも毎日ここへ来てセラと話をしてやって欲しいんだよ」


「魔王様はしばらくここにいらっしゃるのですか?」


「そうだね。セラの治療が終わるまではいるつもりだよ。それよりどうかな? セラとの話を頼めるかい?」


「魔王様の頼みなら当然やります。ただ、私と話をすることでセラに何か変化があるのですか?」


「寂しさが紛れる、かな」


 寂しさ? そう言えばセラがそんなことを言っていたな。私も両親を亡くした時に寂しかったし、楽しかった後の静けさは寂しいと思う。でも、セラはそんな感じじゃないような気がする。死にたいとか言ってたし。


 寂しいなら誰かと居ればいいんじゃないか? 私でなくてもいいと思う。


「……納得していない感じだね。そうだね、説明しておこうか」


 説明? 何の事だろう?


「セラはね、今年で七十歳なんだよ。普通の人族と同じように歳を取ることはできないんだ。それが寂しさに繋がってる」


 この外見で七十歳? なるほど、魔王様のお茶目がでましたね? 騙されませんよ?

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