食事は昨日みたいに広場で食べるようだ。食欲をそそる匂いが広場を包んでいる。


 ニアとヤトが広場で食事の準備をしていた。ロンもなんだか色々と手伝っているようだ。ロンは料理なんかできないだろうに。ニアのそばを離れたくないというのは、何となくわかるけど。


「今日の昼食はなんだ?」


「照り焼きチキンバーガーだよ。昨日、フェルちゃんから渡された食材に鶏肉があったからね」


 バーガーというのはアレだな。パンで肉を挟むアレ。チキンは鶏肉だよな。


 照り焼きってなんだろう。焼くのは分かるけど。照り、照る、照らす……日光とかで焼くのかな。広場だし。


「準備にまだかかるから、もうちょっと待っておくれよ」


「それはいいのだが、そんなに張り切って大丈夫なのか? 昨日の今日だぞ?」


「怪我してたわけじゃないんだ。どちらかというと動いていた方が楽なんだよ」


「かみさんを止めても聞かないんだ。だったらやらせた方がいいと思ってな」


 なるほど、ロンは止めたかったけど、ニアが聞かなかったか。何となくわかる気もする。嫌なことがあったら汗をかいて忘れたいよな。私はヤケ食いしたい。ストレスはケアが大事。


「無理するなよ。でも、料理は美味く作ってくれ」


「ああ、任せなよ」


 ニアはそういうと、改めて準備を始めた。ヤトもいるし、ロンもいるからそんなに無理はさせないだろう。なら料理ができるまで待つか。


「あ、フェルちゃーん」


 名前を呼ばれたのでそちらを見ると、ヴァイアとリエルがいた。


「どうかしたのか?」


「ちょっとね、リエルちゃんと町に出ていろんな人の話を聞いてみたんだ。直接聞いた訳じゃなくて立ち聞きしたんだけど」


「そうか。なにか聞けたか?」


「うん、東側の壁が壊れたのが心配だって。トラン王国は南から攻めて来るけど、東側に回ってから来られたらひとたまりもないからって」


 そう言えば、東側の壁は壊れたままだな。というか、ヴァイアが壊したんだけど。


「ヴァイア、直しておいてくれ」


「フェルちゃん? それは無理だよね?」


 さすがにこれは丸投げしても駄目か。ヴァイアなら何とか出来そうな気がしたんだけど。うーん、どうしようかな?


「なあ、フェル。もしかして壁を直そうかと思ってるのか?」


「そうだが? ヴァイアが壊したんだし、直すべきだろう?」


 ヴァイアが小声で「フェルちゃんがやれって言ったんだよね?」と言うのが聞こえた。壁を全部壊せとは言ってない。


「直してやる必要があんのか? 確かに悪いのはここの領主だけで、町の住人は関係ねぇけど、そこまでしてやる必要は無いような気がするけどな?」


「そう言われたらそうなんだが、多少罪悪感があるし、これが原因でトランにこの町を奪われたら困る」


 リエルもヴァイアも何のことか分からない、という顔をした。正直なところ、ここまで手助けする必要もないんだが、乗りかかった船という言葉もあるからな。船に乗ったことないけど。


「ディーンの件があるだろ? ここが奪われるとアイツ等が今後大変になるからな」


 せっかく皇位を取り戻しても、トランに攻め込まれたりしたらルハラが滅ぶ可能性があるし。


「ああ、そういう意味か。もしかしてアイツ等の行動が上手くいくかどうか、ここで見届けるのか?」


「一応な。ディーン達にも念話用魔道具を持たせてあって、ディアを経由して状況を聞くことになってる。駄目なら駄目で仕方ないが、上手くいったときのことを考えておかないとな」


 上手く行ったらルハラ中の料理を食べさせてくれるらしい。今の皇帝は気にいらないし、上手くいってほしいものだ。


「ならどうしようか? 壁を直すのは分かったけど、短期間では直せないよ?」


「一応、思いついたことがある。これなら簡単に終わるだろ」


 広場にいたアラクネ、ミノタウロス、コカトリスを呼んだ。


「なにクモ?」


「これから壁を直す。手伝ってくれ」


「どうするクモ?」


「東の壁があったところにアラクネの糸で壁を作ってくれ。そこに壁の瓦礫を張り付ける。最後にコカトリスの石化ブレスで固めて終わりだ。そうだ、門の部分は別で作るから瓦礫から探そう。確か木製だった」


 魔物達とヴァイア、リエルを連れて、東の壁があったところまで移動した。


 なんだか、移動中、町の奴等から見られていた。敵対的な感じはしないが、興味本位というか、警戒というか、好奇心かな。不快な感情ではないが、あまりジロジロ見てほしくない。


「まずは瓦礫の撤去かな。アラクネ達はちょっと待っててくれ。私とヴァイアは瓦礫を回収する」


「え? 私が力仕事なの?」


「亜空間に入れればいいだろ。触るだけで十分だ」


「あ、そっか。よーし、いくらでも亜空間に入れちゃうよ!」


「俺はどうすりゃいいんだ?」


「リエルは特にないな。全体を見て何かあったら教えてくれ。あと、町の奴等が近寄らないようにしてくれ。危険だからな」


 早速開始だ。


 堀に落ちてる瓦礫を片っ端から亜空間に入れた。こういう単純作業は好きだ。何も考えずにやれる。


 おっと、門の残骸を見つけた。あと、跳ね橋部分。


 堀から出て、ミノタウロス達の前に残骸を置く。


「ミノタウロス達はこれを直してくれ。村で開拓作業とかしてたから多少は木の扱いに心得があるだろ? 多少、いびつでも構わないから」


 ミノタウロス達は頷いて門の修復を始めた。結構原型が残っているから問題ないと思う。門を開閉させたり、跳ね橋をあげたりする仕組みとか知らないけど、ミノタウロス達は村で小屋を建てていたからなんとかなるだろ。


「フェルちゃん、瓦礫を全部回収したよ」


 早いな。


「面倒だったから壁に使われていた材質と同じものを引き寄せて亜空間に入れる術式を組んだんだ」


「そうか」


 もう、何があっても驚かない。ヴァイアの術式に驚いていたら私の常識が持たない。華麗にスルーだ。


「フェルちゃんの瓦礫も出してもらっていいかな?」


「どうするんだ?」


「うん、亜空間の中で壁を組み立てるよ。そういう術式を組んだんだ。爆発で削れちゃった部分はアラクネちゃんの糸で補強するから」


「……そうか」


 亜空間の中に干渉する術式ってなんだよ。何でもありだな、ヴァイアは。


 だが、それならもっと簡単に終わりそうだ。こっちで回収した瓦礫を全部渡しておこう。


「アラクネちゃん、悪いけど、糸を貰えるかな?」


「は、はいクモ! い、いくらでも渡すクモ!」


 相変わらずアラクネはヴァイアにおびえているな。気持ちは分かる。


 ヴァイアはアラクネの糸を亜空間に入れていく。多分、亜空間の中で壁を作ってるんだろうな。ジグソーパズルみたいに。


「うん、出来たよ」


「そうか。ならアラクネ、亜空間から取り出した壁が町の方に倒れたりしないよう糸を張っておいてくれ。出来るだけ強力な奴でピンと張れよ。壁が倒れたら大変だから」


 アラクネが東の壁があったところを何度も行き来して糸を張った。段々糸で出来た壁が作られていく。これにピッタリ壁を付ければ元通りだろう。


 数分後、東側に糸で出来た壁が作られた。耐久性もありそうだし、粘着力も大丈夫みたいだ。


「ヴァイア、アラクネの糸にピッタリくっ付く様に壁を出してくれ。ちゃんと壁を糸にくっつけないと、壁を補強した部分の糸が重力で潰れるからな? 倒れたり、崩れたりしたら大惨事だぞ?」


「それは大丈夫。壁を重力遮断してるから。糸で補強した部分はつぶれたりしないよ」


「……それでも注意してくれ」


「うん、注意するね!」


 ヴァイアはそう言ってすぐに壁を出した。注意するとは一体なんだと問いたい。


 高さが十メートルで長さが五百メートルもある壁を一気に亜空間から出せるのもすごいけど、寸分狂いなく他の壁に合うように出せるのがすごいな。ヴァイアならそれくらいの座標計算は簡単なのかもしれないが。


「リエル、アラクネ、倒れそうなところはないか?」


 壁の内側にいるリエルとアラクネに問いかける。


「おお、こっちは大丈夫だぞー」


「だ、大丈夫クモ!」


「よし、コカトリス達は石化ブレスでアラクネの糸を補強しろ。風向きには注意しろよ」


 アラクネの糸を石化させれば強度的にも問題ないし、これで大丈夫だろう。


「門と跳ね橋は直ったか?」


 ミノタウロス達に聞くとちゃんと直したようだ。ただ、どのように動かしていたのか分からないらしい。こういうのはちゃんとした大工に聞かないと駄目かな?


「門と橋を魔道具にして魔力を通せば動く様にしようか?」


「そうだな、それでいいや」


 早速ヴァイアが門と橋に魔法を付与する。それを壁のところにくっつけた。


 そして動作を試す。


 ……うん、問題ないな。門は開くし、跳ね橋はちゃんと堀の上に掛かる。


「単純動作だから魔力消費を抑えられたよ」


「そうか。なら、これで終わりだな。お前達、ご苦労様。城に戻って昼食にしよう。今日は照り焼きチキンバーガーらしいぞ。私はチキンをダブルにするつもりだ。ちなみに卵との相性はどうなんだろうな?」


 そう言いながら皆で城に戻ろうとしたら、軍隊長に止められた。私の昼食を邪魔する気か?


「……お前達、一体何をしている?」


「壁を直した。感謝しなくていいぞ、壊したのはこっちだし」


 ヴァイアが小さな声で「壊したのはフェルちゃんの指示だからね?」と言った。だから全部壊せとは言ってないぞ?


「そうそう、門と跳ね橋を魔道具化したから魔力を通せば動くぞ。後で試してくれ。じゃあな」


「……町の住人が、いきなり壁が出来たと怯えているんだが?」


「安心しろ、倒れたりしない。しっかり補強したから以前より硬いはずだ」


 軍隊長にものすごいため息をつかれた。幸せが逃げるだろうが。


「お前達に常識というものを教えてやりたい……」


「そうだぞ、ヴァイア。教えてもらうといい」


「私は常識を持ってるよ? フェルちゃんの事じゃない?」


「言っておくが、お前達全員だぞ? 特にフェルだが」


 解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る