呪い
寝れないと思ったのにぐっすり寝てしまったようだ。
頭が痛いのは治まっている。体もダルくない。完全復活かどうかは分からないが、念のため、今日はもう魔眼を使わないようにしよう。
窓から外を見るとかなり明るくなっている。もしかして昼ぐらいだろうか。
ということは、朝食を逃したという事だ。昼食は二食分食べよう。
備え付けのテーブルを見ると、普段着ている執事服が置いてあった。洗濯が終わったのかな。ありがたい、早速着替えよう。
ベッドから起きると下着姿だった。ゴスロリ服を脱がされていたのか。魔王様の前で起き上がらないで良かった。
執事服を着て部屋を出る。一階に下りると、ダイニングルームのテーブルにカラオを除く全員が座っていた。
「フェ、フェルさん! 大丈夫ですか!?」
メノウが必死の形相で詰め寄ってくる。なんでこんなに必死なのだろう?
「ああ、大丈夫だ。そんな事よりも食事だ。朝昼の二食分出してくれ」
「はい! すぐ用意しますから、ちょっとだけお待ちください!」
どうやらすぐに取り掛かってくれるようだ。ありがたい。
「二階から戻ってきたら倒れてるからびっくりしたぜ」
「フェル様、大丈夫ですか?」
「平気?」
三人とも一応は心配してくれているようだ。急に倒れたら誰でも心配するか。
「迷惑をかけたな。体の方はもう問題ない。あの後、なにかあったか?」
元凶の像があったけど、結局頭痛が酷くて良く見れなかった。そのまま床に落とした気もするけど変なことになってないよな?
「像に関しては特に何もなかったぜ。ただ、あの後、別件でちょっとあってな」
像に関すること以外で何かあったという事か? なんだか、リエルとルネは疲れている感じだが、どうしたんだろう?
「何があった?」
「冒険者ギルドのギルドマスターが来てな、メノウにアイドルの仕事をしろって言ってきたんだよ」
「なんだそれ? よく分からんが、そういうのって強制なのか?」
「冒険者ギルドの事は良く知らねぇけど、そんなわけないと思うぜ。ただ、女神教への寄付を増やすためにも金を稼いだ方がいいって言ってたな」
女神教への寄付か。でも、それって聖女に依頼するためのものだよな? もう来てるんだから必要ないはずだけど。
「フェル、言いたいことは分かる。だが、俺の顔って普通の奴には知られてねぇんだ。ここに来たギルドマスターも俺を聖女とは思わねぇよ」
「ああ、そういうことか。じゃあ、正体は言わずに追い返したのか?」
「メノウはあやふやな回答で追い返していたな」
必要以上にお金を稼ぐ理由はないからな。弟がこんな状態だったし、お金が必要ないなら、そばにいてやりたいと思うのが普通だ。
「あのギルドマスターは嫌な感じですよね。この前襲ってきたアダマンタイトの冒険者をボコボコにしてギルドに突き出したんですけど、すっごい迷惑そうな顔をされましたよ」
そういえば、そんなことがあったと念話で聞いたな。
「それ、なんて人?」
スザンナがルネの話に食いついた。同じアダマンタイトだから気になるのかな。
「スーちゃんはそういうのに興味があるんですか? 名前は知りませんけど、確か『狼舞』とかいう二つ名でしたよ。狼を使役して戦う感じの人族でしたね。最終的には狼と合体というか憑依した感じでしたけど。まあ、私の敵じゃありませんがね……!」
ルネが得意げな顔をしている。殴りたいけど我慢。
「ボコボコにしたの?」
「結構強かったので手加減できずにボコっちゃいました。でも、あれは正当防衛ですよ。あとちょっとで過剰防衛でしたがね……!」
片目をつぶり、舌を出して、「テヘ」って言った。舌を噛めばいいのに、と思うのは私の心が狭いからだろうか。
「すごい」
スザンナはルネに対して本気で感心している感じだ。同じアダマンタイトだから、自分よりも強いと思っているのかな。
まあ、それは別件だ。今は呪いの方が大事。
「話を戻していいか? ギルドマスターが来たということは分かった。像の方はどうなった?」
「あ、私の亜空間に入れてあります。放っておくと危なそうなので」
それはいい対策だ。流石に呪いの魔道具だったとしても亜空間の中なら影響はでないだろう。こういうのは連続した空間とか密閉空間でないと効果を発揮しないからな。
「でも、私の亜空間が呪われそうなので嫌な感じなのですが……!」
「魔界に帰ったら、宝物庫にでも入れとけ」
「はい、分かりました。帰ったら宝物庫に入れておきます」
でも、もう一度しっかり見ておかないと駄目かな。今日は無理だが、明日になったら魔眼で確認してみよう。
「念のため、明日、もう一度それを見てみる。それまでは亜空間に収納しておいてくれ」
「了解です!」
とりあえず、この状態で二、三日様子を見れば大丈夫かな。おそらく明日は病気にならないと思うが。
「ところで、なんで倒れたの? メノウちゃんは呪いがフェルちゃんに移ったってすごく慌ててた」
「フェルちゃんというのは私の事だよな? 私の方が年上なんだから『フェルさん』とかにしろ」
「フェルちゃんの方が可愛いのに」
「そういうのは求めてない。クールビューティな私に向かってちゃん付けは止めろ」
リエルとルネの方から、吹き出すような笑いが聞こえた。制裁決定だな。
「くーるびゅーてぃ?」
「冷静で美しい女性という意味だ」
まさに私のためにあるような言葉だ。私のステータスにそういう称号をつけてもらいたい。
「オムライス食べてにっこりしてたのに冷静なの?」
「なんだと?」
「昨日の夜、オムライス食べて笑顔だった」
しまった。知り合いだけだと思って昨日の夜はマスクを着けずに食べてしまった。オムライスが悪い。
しかし、バレてしまったのなら仕方がないか。
「私は美味い物を食べると笑顔になる。……呪いみたいなものだ」
リエルとルネの方から、また吹き出すような笑いが聞こえた。制裁が二倍になったな。
スザンナはこっちを見ながら首を傾げた。
「それは呪いじゃなくて普通の事だよ? 美味しい物を食べて笑顔にならない方が呪いだと思う」
痛いところを突かれた。確かにその通りだ。
「そうだな。呪いというのは嘘だ。どうも美味しい物を食べると笑顔になってしまう。舐められないように無表情を貫きたいのだが」
「いいじゃねぇか。笑顔だからって魔族を舐めるような人族はいねぇよ。むしろ、警戒心が無くなって友好的な関係になれるんじゃねぇか?」
「そうですよ。食事をする時ぐらい、魔族だって笑顔になるってアピールした方がいいですって!」
そういうものだろうか。確かにソドゴラ村の奴らはそれで私への警戒心を解いた可能性がある。とはいえ、何となく恥ずかしいんだが。それにそういうキャラじゃない。クールビューティだし。
初対面の奴には見られたくないが、知り合い程度なら気にすることも無いかな。うーん、これはすこし考えてみよう。
「お待たせしました!」
メノウが料理をもって来た。見た限り卵を使っているようだが、なんという料理だろう。
「これは親子丼です。卵と鶏肉を使った料理ですね。後、サラダがありますので、一緒にどうぞ」
鶏肉か。ソドゴラ村では鶏肉はあまり食べていなかったな。よし、頂こう。
「ねえねえ、質問の回答は?」
「質問? ああ、倒れた理由か?」
どうしよう? コイツらになら言ってもいいかな。別に隠すような事じゃないし。
「私の目は魔眼というものなんだ。この目は集中すると、あらゆる情報を見ることが出来る。倒れたのはその魔眼で情報を見過ぎたからだな。カラオを見た後に像を見ようとしたから頭が耐えられなくなって気絶した感じだ」
「そうだったんですか、私はてっきりカラオへの呪いをフェルさんが受けてしまったのかと……」
なるほど、だからあんなに必死になって詰め寄って来たのか。
「その魔眼で私のスキルを見たの?」
「うん? ああ、『魔水操作』のユニークスキルの事だな? 確かに魔眼で見たぞ。あの時は敵対してたんだから仕方ないだろ。プライバシーの侵害とか言うなよ?」
「言わない。でも、私の知っている情報よりも詳しい気がした。後で教えて」
「いいぞ、食後な」
スザンナは頷くと「いただきます」と言って親子丼を食べ始めた。いかん、出遅れた。私も食べよう。
「なあ、フェル」
今度はリエルが食事を遮った。怒るぞ、コラ。……でも、随分と真面目な顔をしているな。仕方ない、聞いてやるか。
「なんだ?」
「その目って、リーンにいた本屋の主人と同じ目か?」
そういえば、本屋の奴と話したときに、ヴァイアやリエルが一緒にいたか。
「そうだな。おそらく同じだ。あの時はなんとなく同情されそうな雰囲気だったので言わなかったが」
「そうか……」
なんだろう? 本気で同情しているのだろうか。私は極力使わないようにしているし、見てもスキルぐらいだ。
「安心しろ。私は何を知ったとしても、目を潰すような真似はしない」
「それは気にしてねぇ。もっと重要だ。俺の運命の相手っていうのを見てくれねぇか? 魔眼で分かるんだろ?」
「それは魔眼を使わなくても分かる。いない」
ほっぺたの引っ張り合いは私が勝利した。
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