ユニークスキル

 

 親子丼。美味しかった。半熟っぽい卵と鶏肉のハーモニー。そしてお米。シンプルのようで奥が深い。ちょっと行儀が悪いが丼に口をつけてかっこんだ。三つ合わさって親子丼だ。二つでは駄目だ。三つ合わせて食べる。これがベスト。だが、他の食べ方があるかもしれない。もっとよく考えてみよう。


「フェル、なんで神妙な顔をしてんだ? 五杯も食べて腹いっぱいか?」


「いや、まだ食べられる。単純に親子丼という料理に思いをはせていただけだ」


 全員が不思議そうな顔をした。これだから素人は。


「あの、フェルさん。像をルネさんの亜空間に入れておくだけでカラオは治るのでしょうか?」


 メノウが心配そうに尋ねてきた。


「そうだな。私の魔眼で見た限りでは、あの像が原因だ。それを空間的には別の場所に置いているから再発したりはしないはずだ。しばらくは様子を見ないといけないが、二、三日問題が無ければ解決したと言っていいだろう」


「そ、そうですか」


 希望が半分程度の喜び方だな。無理もないか。


「まずは明日の朝だな。治るまで滞在してやるから安心しろ」


「は、はい!」


「なあ、あの像って誰から貰ったんだよ? 犯人はソイツになるんだろ? ファンの誰かか?」


 メノウは下を向いてしまった。どうしたんだろう?


「どうした? 覚えてないのか?」


「い、いえ、そのあの像をくれた人は覚えているのですが……その、勘違いかもしれないので確認するまで待ってもらえますか?」


「知っている奴なのか?」


「はい。この町の住人です。でも……いえ、なんでもないです。あ、カラオに昼食を持っていきますね。それとフェルさんから貰ったリンゴを食べさせてきます」


 メノウはテーブルを立つと台所で準備してからカラオのいる部屋に向かった。


 なんだか聞かれたくないって感じだな。結構親しい奴なのだろうか。


 それに確認すると言っていた。もしかしてソイツに問いただす気か? うーん?


「ルネ、気づかれないようにメノウに護衛をつけておけ。うろ覚えだが、確か出来たよな?」


「あ、覚えててくれたんですか。はい、できます。この町ぐらいなら全域カバーできますので、護衛をつけておきますね。それと会話も聞こえるようにしておきますか?」


 会話を聞く? そうか、そういう事もできたな。


 多分だが、メノウは知り合いに聞きに行く可能性が高い。どういう理由か分からないがカラオに害をなしている奴だ。念のため盗み聞きしておこう。


「怪しいと思う時だけな。プライベートの会話は聞くなよ?」


「もちろんです。じゃあ、やっておきますね。【人形庭園】」


 ルネを中心にユニークスキルが展開されていく。目には見えないだろうが、これでこの町はルネの影響下と言ってもいいだろう。


「なあ、ルネって何かしてるのか?」


 リエルが不思議そうにルネを見ていた。リエルは結構感覚が鋭いのかな。確かにルネのスキルで微量の魔力が町全体を覆っている。普通なら気づかれないぐらいなんだが。


「お、リエルっち、よく分かりましたね。実はユニークスキルを展開してますよ」


「へぇ、どんな内容のスキルなんだ? えっと、人形庭園だっけ?」


「それは秘密です。ものすごく自慢したいですけど……!」


 ユニークスキルは切り札みたいなものだし、そう簡単に内容は教えられないよな。


「そろそろ私のユニークスキルについて教えて」


 スザンナが私の袖を引っ張りながらそんなことを言ってきた。そう言えば教えるとか言ったっけ。


「ここにはリエルやルネがいるから部屋で話すか」


「別に知られてもいい」


 珍しいな。いや、もしかしてユニークスキルの重要性を分かっていないのかな?


「ユニークスキルは本人にとって重要な情報だぞ? それを他人にばらすというのは自分の弱点をさらすという行為だ。どういう風に聞いているか知らないが、隠せる情報は隠した方がいい。ルネだってリエルに言わなかったろ?」


「そうですよ、スーちゃん。スキルというのは生命線ですからね。例え親しい間柄でも、隠せるなら隠した方がいいですよ?」


「そうなんだ。じゃあ、部屋で聞く」


 スザンナに連れられて、スザンナが泊まっていた部屋に入った。


「じゃあ、教えて」


「どこまで知っているのか知らんが、お前のスキルは『魔水操作』だ。自分自身の魔力で作り出した水を操作することが出来る」


「うん。スキル名は知らなかったけど、なんとなくそんな感じだったのは感覚的に分かった」


 そうか。魔眼を持っている私はともかく、普通の人族は自分のスキルを知らないからな。もしかして、ユニークスキルを持っていても使ってない奴とかいるんだろうか。


「他にもあるよね? 二回目に水で取り囲んだ時に破られた」


「ああ、『魔水操作』は、魔力で作り出した水に他の水が混ざると操作できなくなる。四分の一ぐらい混ざると操作できなくなるようだな」


 次に亜空間からコップを取り出してスザンナに見せた。


「あの時、手に持っていたのは水があふれ出るコップだ。水に覆われる前に手に持って、ずっと水を出してた」


「そうなんだ」


 すごく驚いている。ちょっと気分がいいな。よし、アドバイスしてやろう。


「『雨女』って馬鹿にされないように、魔道具で水を出せるようにしておくとかならいいかも知れないな。量は足らないかも知れないが、それなら屋内でも使えるだろ。それに奇襲用にも使える」


「おおー」


「空間魔法が使えるなら簡単だが、使えないなら水筒にでも作った水を入れて持っておけ。非常用だがな」


 ヴァイアに頼めば水が出たり、空間魔法が使えたりする魔道具とか作るけど、そこまでは言わなくていいだろう。


「すごい。強くなった気がする」


「気のせいだ。まずは簡単に出来そうなものを色々試してみるといい。ぶっつけ本番でやると何かしら問題があるかも知れないからな」


「わかった。ありがとう」


 なんだかスザンナは大喜びだ。ふと思ったけど、襲ってこないよな? 服が濡れるから戦いたくないんだけど。


 その後、スザンナとダイニングルームに戻った。


 メノウが戻ってきている。カラオの方は終わったのかな。


「あ、フェルさん。カラオがリンゴを喜んでました。本当にありがとうございます」


 メノウは頭を下げたり、礼を言ったり、忙しいな。


「礼は治った時でいい。そう何度も頭を下げると価値が無くなるぞ?」


「そ、それでも礼をしたいんですよ! カラオが病気になって一年ですから、今みたいに普通にしているのが夢みたいで……」


 なんとなく分かるかな。でも、礼を言われるたびに背中が痒くなるこちらの身にもなってほしい。


 とりあえず今日やれることはもうないかな。カラオの呪病は明日にならないと分からないし、今日はもう魔眼は使えない。


 午後が暇になってしまうな。


「お前たち、午後はどうするんだ? というか昨日までは何してたんだ?」


「私はカラオの看病をしてました。一時的に病気は治っていても体力が落ちているようなので」


 そうだな。リエルの治癒魔法で治せてはいるが、結構体力を消耗している感じだし、補助がないと大変だろう。


 となると、午後もメノウはカラオを看病する感じかな。


「俺は特に何もしてねぇな。強いて言えば寝てた」


 治癒魔法でカラオを治していたから疲れたのかな。やることはやっているし、寝ていても許容範囲だ。


「私は魔族の好感度アップキャンペーンとして子供相手に人形劇をしてました。二時間サスペンスは受けがいい――痛い! フェル様、なんでゲンコツを落とすんですか!」


「お前、ドワーフの町でも人形劇をしたな? 人族と友好的な関係になれたからそれはいいんだが、子供たちに私が偽物と言われた。だから殴った」


「理不尽!」


 よく考えたら、ゴスロリの集団に囲まれるし、メノウのファンと勘違いされるし散々だ。だが、人族といい関係っぽくなっていたから、これだけで勘弁してやろう。


 一応聞いてみたが、私はどうしようかな。本でも読むか。


「遺跡には行かないの?」


 スザンナが袖を引っ張って聞いて来た。伸びるからやめて欲しいんだが。


 遺跡か。今、魔王様が遺跡に行っているから私が行くと邪魔になるかも知れないな。興味はあるが別の機会にしよう。


「興味はあるが、今は行かない。カラオが治って、時間に余裕があったら行くかもしれないがな」


「わかった。じゃあ、私も行かない」


「一人で行って来ていいぞ?」


「行かない」


「あ、そう」


 なら部屋に戻って本でも読むか。そう思って椅子から立ち上がると、家の入り口が思いっきり開いた。


「カラオ! 無事!? あのへんな女たちに気を許しちゃ駄目――増えてる!」


 なんか変なのが来た。

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