高ランク冒険者

 

「あの、二人は大丈夫なんですか?」


 ディーンが床に倒れた二人を見て心配そうに尋ねてきた。コイツらは意外としぶといから心配しなくてもいいのに。


「二人が大丈夫かどうかなんて知らん。邪魔だから眠らせた。ちょっと私怨も入っているがな。さあ、食事を再開しよう。あと、ロック。お前は別のテーブルに移れ。簡単に言うと気持ち悪い。どうしてもこのテーブルで食べるというならマントでも羽織っていろ」


 せめてシャツぐらい着てくれれば問題ないのだが。前をはだけちゃ意味ないだろ。


「私もそれには賛成」


 ベルって奴と心が通じ合った。これから少しだけ優しくしてやろう。そうだ、リンゴをやればいいかな。


「メノウ、すまないが、またリンゴを切ってもらえないか?」


 亜空間から四個のリンゴを取り出してテーブルに置く。


「あ、はい。でも、よろしいんですか? 昨日も言いましたが高級品ですよ? その、こんなにたくさん……」


「構わない。聞いた話だと、みんなで食べた方が美味いらしい。リンゴは一人で食べても美味いと思うがな」


 そういうと、メノウはにっこり笑った。ゴスロリメイクなんかしないでも魅力的だとは思うんだが、私はセンスがないから分からん。


「わかりました。急いで切ってきますね」


 仕事が早く的確で空気が読める。やっぱりうちの受付に欲しいな。「おほほ」笑いとか、キャラを作らなくてもいいからお願いしたい。


「昨日といい今日といい、ありがとうございます。ごちそうになってしまって」


 ディーンがお礼を言ってきた。ベルも頭を下げてくる。ロックも遠くのテーブルから「わりぃな!」とか言ってる。


「気にするな。エルフたちから定期的にリンゴは買えるし問題はない」


 だが、タダでくれてやるのも惜しい気がしてきた。ギブアンドテイクは必要だな。


 そうだ、情報を貰おう。


 今日は冒険者に襲われたし、リーンの兵士がアダマンタイト級の冒険者がいるかもしれないとか言っていた。冒険者たちについて情報収集をしておいたほうがいいだろう。


「リンゴのお礼と言ってはなんだが情報を教えてほしい。この町にアダマンタイトの冒険者っているのか?」


「アダマンタイトの冒険者ですか? そういえばギルドで噂になってましたね」


「どんな噂だ?」


「噂と言っても魔物暴走の対処に来ているというぐらいですよ。来ているのは確か……」


「『武器庫』」


 ディーンが思い出せないようだったのでベルが代わりに答えたようだ。でも、武器庫ってなんだ?


「そう、『武器庫』という二つ名を持っている冒険者ですよ」


「なんだその二つ名。センスないよな?」


「本人が言っているわけじゃないんですがね。会ったことはありませんが、なんでも、数百の武器を扱う冒険者らしいですよ。普通の武器から聖剣、魔剣、名も知らぬ武器まで使えるとか」


 大量の武器を使うのか、面白そうな感じだな。持っている武器にちょっと惹かれる。


「ところでフェルさんはなんでそんなことを聞きたいのですか? もしかして、会いたいとかですか?」


「いや、そうではなく、今日、冒険者に襲われ――」


 まてよ? 今日、冒険者に襲われたけど、魔王様は冒険者の記憶を消されたはずだ。ここで私が冒険者に襲われたのを言ってしまうと辻褄が合わなくなる。なら、言わない方がいいな。


「今日、冒険者に襲われるかもしれない、と思っただけだ。魔族を倒して名を上げたいと思う奴らもいるだろうからな。リーンの町でもアダマンタイト級の冒険者がいるかもしれないと言っていたし、ちょっとした警戒だ。どちらかと言えば会いたくない」


「そういうことですか。あのランクの冒険者はおかしいですからね。警戒するのは正しいと思いますよ」


 アダマンタイトの奴らはおかしいのか。まあ、強い奴というのは何かしら変だよな。私は変じゃないが。


「ちなみにお前たちはどのランクなんだ?」


「私はオリハルコンで、ベルはミスリルだったかな?」


「うん、ミスリル。ロックとルートも同じ。ウル姉さんはオリハルコンで、クルはゴールド」


 クルって言うのは三姉妹の一番下のことか? ルートって言うのは知らないけど、影武者の奴かな。


 それにしても、ディーンやウルぐらいでオリハルコンか。確かその上がアダマンタイトだったな。その武器庫というのはディーン達よりも強いということになる。


「ディーンやウルよりも強い人族か。ちょっと想像できないな」


 そこまで行ったら人族じゃなくて魔族じゃないだろうか。


「冒険者のランクというのは強さに直結しているわけではありませんよ? 実際に対峙してみないと分かりませんが、アダマンタイトの冒険者に勝てなくはない、と思っていますし」


「どういうことだ?」


「冒険者のランクというのはギルドへの貢献度で決まります。難易度の高い依頼をこなすには当然強さが必要になりますが、難易度の低い依頼でも何度もこなせばランクを上げられますからね。それを分かっていない冒険者も多いんですがね。だいたい、フェルさんはブロンズランクじゃないですか。強さで言ったらアダマンタイト以上ですよ」


「つまり、低いランクでも強い奴はいるし、高いランクでも弱い奴はいると言う事か?」


「そうですね。高ランクで弱い例ならメノウさんです。ランクは私と同じオリハルコンですよ。でも、強くないですよね?」


 ちょうど、メノウが切ったリンゴを持ってテーブルにやってきた。確かに強そうには見えない。


「お待たせしました。……な、なんです?」


「メノウはオリハルコンランクなのか?」


「あ、はい。私の場合、依頼を受けてもファンの方が手伝ってくれるので、ほとんど何もしないまま依頼完了になることが多くて。いつの間にかオリハルコンになってました」


 ファンすごいな。


「ファンが対応するというのは珍しいですが、ほとんどの冒険者はパーティを組んでいますからね。その恩恵でランクを上げられる人もいますよ」


「じゃあ、さっきの『武器庫』って奴はどうなんだ?」


「聞いた話では強いですね。単独でワイバーンを仕留めたとか聞いたことがあります」


 単独でワイバーンを倒すって強いのか? 普通だと思うけど。ルネでもやれる。まあ、人族の中なら強いのか。


 でも、それぐらいなら警戒しなくてもいい気がしてきた。


「なんだか興味が薄れた感じになりましたね。ですが、先ほども言った通り、あのランクの冒険者はおかしいですよ。他ギルドの高ランクも大概おかしいですが、冒険者ギルドは群を抜いておかしいと聞きます。私も一人だけ会ったことがありますが、フェルさんと同じぐらい未知数でした」


「私と同じぐらい未知数? それほどなのか」


 ディーンもあのユニークスキルを使えばかなり強いとは思うんだが。


「参考のために、知っている高ランクの冒険者の事を教えてくれないか?」


「もちろん構いませんよ。冒険者ギルドのアダマンタイトは全部で九人いると言われています。会ったことがあるのは『神父』だけですね。ある傭兵団のトップで、ルハラを拠点に活動しています。本人だけではなく、配下も優秀な人材が多いと聞きますね。また、傭兵団としては負けなしで、周囲の味方を強化するユニークスキルを持っているんじゃないか、という噂です」


「なるほど、私と似たようなスキルを持っているのか。ちょっと興味あるな」


 なんだか、ディーンが私を見つめている。どうした?


「もしかして、フェルさんもユニークスキルを持っているのですか?」


「ああ、二つ持ってる」


「二つ!? ……ユニークスキルを二つ持っている方なんて初めて見ましたよ。教えては――」


「教えるつもりはないぞ」


 ディーンは「まあ、そうですね」と言って、引き下がった。


 教えてやってもいいんだが、教えると力を貸してくれとか言ってきそうだから言わない。


「他の冒険者については名前だけしかわかりません。『レッドラム』『掃除屋』『狼舞』『黒髪』ですね。残りの三人は名前も知りません」


「教えてくれたのは二つ名だよな? 本当の名前を知っているか?」


「いえ、残念ながら知りません。ランクが上がるほど秘密主義といいますか、情報が制限されますからね。冒険者ギルドでも教えてくれませんよ」


 そういうものか。まあ、個人情報保護とかだろう。


「ありがとう、参考になった。一応警戒だけはしておこう」


 さて、随分と遅い時間になってしまった。リンゴも無くなったし、明日も早いからもう寝るか。


「じゃあ、ごちそうさま。部屋に戻って寝る。お休み」


「フェルさん!」


 椅子から立ち上がり、部屋に戻ろうとしたらメノウに引き留められた。


「なんだ?」


「床に寝ている人たちをベッドに運ぶので、手伝ってください……」


 忘れてた。


 仕方ない。食堂に放っておいてもいいけど、せっかく金を払って部屋を取ったんだしベッドで寝てもらおう。

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