パラサイトピルバグ

 

「お前達、緊張感がないぞ? これからドッペルゲンガーを追うんだから早く情報を教えろ」


「だから、俺の腹は的じゃねぇんだよ。殴んな!」


「フェルちゃん、至近距離からのパンチは躱せないからやめて」


 二人に見えないパンチ改を軽めに放った。気を失うほどではないが、そこそこ痛かったはずだ。私も手加減が上手くなった。これは成長と言えるだろう。


「えーと、続きだね。パラサイトピルバグは大昔からこの森にいる魔物だね。でも、本体が確認されたのは、過去に数回だけだったみたい。襲ってきた魔物にダンゴムシがくっ付いていたのは、結構目撃されていたようだね」


「本体? ダンゴムシと本体は違うのか?」


「本体は大きなダンゴムシで、小さいダンゴムシを使役しているらしいよ。小さなダンゴムシをくっつけた魔物を呪いで自由に動かせるみたい。その状態で魔力や知識を奪ったりできるみたいだね」


 大狼に小さいダンゴムシがくっ付いていた。それは大蛇に化けたドッペルゲンガーに噛まれた直後だったはずだ。ドッペルゲンガーとパラサイトピルバグは共闘関係にあるのか?


 いや、そんなことをしなくてもダンゴムシさえつければ操れるのか。もしかしてドッペルゲンガーは操られている?


「他に情報はあるか?」


「未確認情報なんだけど、パラサイトピルバグは魔族と戦ったことがあるみたい」


「なんだと?」


 魔族が魔物と戦う可能性は低いのだが、なんでそんなことになったのだろう?


「人族と魔族が戦っていた頃に人族がこの森に逃げ込んだらしいんだよね。その時にパラサイトピルバグと魔族が鉢合わせになって戦闘になったみたい。その時に逃げていた人族の証言があって、当時は結構有名になった話らしいよ。本当かどうかはわからないけど、魔族と遭遇して逃げきれていたから、その話が信用されたみたいだね」


「当時の魔族と戦ってたら魔物だって生き残れないだろ? なら、もういないんじゃね?」


「その後に魔物に寄生した小さなダンゴムシが何体か見つかったからね。本体がやられると小さいダンゴムシも死んじゃうらしいんだ。だから、本体は生き残っている可能性が高いよ。別の個体がいる、という可能性は低いかな」


「戦闘の結果がどうなったかは書いていないのか?」


「書いてないよ。人族はすぐに逃げ出したから助かったわけだしね。ただ、パラサイトピルバグ本体はそれ以降、誰も見ていないって書いてあるね」


 魔物とはいえ、当時の魔族と敵対して生き残れるものだろうか? でも、こんな魔物が同じ場所に複数いるとも思えない。小さなダンゴムシが見つかっているなら、本体は生き残ったのだろう。それに、魔族は人族を追っている最中だったみたいだ。当時の魔族なら人族を逃がしてまで魔物とは戦わないと思う。結果的には人族に逃げられたみたいだが。


 うーん? よく分からん。これは魔眼に頼ろう。次にドッペルゲンガーに会ったら全部見てやる。頭痛は必要経費だ。


「よく分からんことが分かった。多分だが、パラサイトピルバグがドッペルゲンガーを操って色々やっている可能性が高い。魔族の体を使って何かをしたいのだろうな?」


 ドッペルゲンガーだけではなく、パラサイトピルバグを殴る必要が出てきた。これが分かっただけでも良しとしよう。元凶は根本から叩かないとな。


「なあなあ、そのノートにドッペルゲンガーの情報はないのか? 出し惜しみしねぇで教えてくれよ」


「そうだね、ヌシでページ検索したから出てこなかっただけで、あるかもしれないね。よーし、ここはフェルちゃん達に情報を奢っちゃうよ!」


「そうか、なら頼む」


 あまり必要ないと思うが念のため聞いてみよう。


「【ページ、ドッペルゲンガー】」


 ディアが魔法を使うとノートが開いた。ないかと思っていたがちゃんとあるようだ。


「えーと、ドッペルゲンガーは戦闘能力が低いため、それほど脅威ではない、だって。ただ、いつのまにか冒険者パーティに紛れ込んで同士討ちにさせたりするから注意が必要。普段から合言葉とか共通の情報を持っていた方がいい、って書いてあるね」


「じゃあ、俺たちの場合は、ヴァイアが何の下着を買ったかを合言葉にしよう」


「お前の先祖ってオーガかなにかなのか? 魔族だってそんなひどいことはしないぞ?」


「じゃあ、ディアのコードネームにするか?」


 三回戦が始まった。まあ、始まった直後に潰したけど。


「いい加減にしろ。手加減するのが面倒だ」


「殴るのをやめればいいと思うよ?」


「俺もそれには同感だな」


「喧嘩するなら私のいないところでやれ。ほかの情報はないのか?」


 ディアがノートに書かれているものを目で追っていると途中で止まった。なにか発見したのだろうか?


「関係ないかもしれないけど、ドッペルゲンガーの一族が住んでいた場所が、ダンジョンっぽい場所の近くらしいよ? でもアラクネに取られたみたい」


 アラクネは数年いなかったよな? ドッペルゲンガー達は住処を取り戻したのだろうか? もしかしてアラクネが帰ってきて、住処から追い出されたから、討伐してくれと言ってきたのか?


 あと、気になるのはダンジョンだ。この森にそんなものがあるのか。


「この森にダンジョンなんてあったんだね。初めて知ったよ……あ、違うね。入り口に入ってすぐに行き止まりみたい。何もないからダンジョン認定されなかったみたいだね」


「ダンジョン認定ってなんだ?」


「ダンジョンとか遺跡は、見つかった後に調査してから初めて認められるんだ。何もない場所をダンジョンとか遺跡とか言わないようにね。この認定は冒険者ギルドがやっていて、ダンジョンや遺跡だと認められれば、報奨金がでるんだよ」


 面白い制度だな。報奨金は興味ないが、ダンジョンそのものには興味がある。手が空いたら見に行こうかな。


「これ以外は特に書いていないね」


「そうか、後は直接聞き出すなり調べたりするから十分だ」


 さて、そろそろ追うか。と、思ったがもう昼だ。探索は午後にしよう。一応、誰か従魔を連れて行った方がいいかな。食事しながら考えるか。


「宿で昼食にするが、二人はどうする?」


「私は行くよ」


「ゴチになる」


 じゃあ、ヴァイアも誘ってから行くか。


 ギルドの外に出ると、広場でノストとヴァイアが話をしていた。ノストは見回りかな。ヴァイアは言わずもがな。


「ヴァイア、ノスト、宿で昼食にするが、二人はどうする?」


「あ、すみません、今、ヴァイアさんに昼食のお誘いを受けたところでして」


「ご、ごめんね! に、二食分しかないから! み、みんなの分はないから!」


 ノストの後ろから、ヴァイアがウィンクしてくる。ピンと来た。これは、察しろ、ということだろう。だが、確認せねばなるまい。


「ヴァイア、ちょっと来い」


「な、何かな?」


 ヴァイアの肩に手を回して顔を寄せる。ディアとリエルも顔を近づけて来て、円陣を組んだみたいになった。なんだこれ? まあいい、確認だ。


「まさかとは思うが、恋愛の極意とやらを使う気じゃないだろうな?」


「し、しないよ! ふ、服の上にエプロン着けるだけだってば!」


「でも、買った下着は穿いてんだろ?」


 リエルがニヤニヤしながら、ヴァイアに聞いた。ヴァイアは顔を真っ赤にして何も答えない。


「おい、なんで黙る? まさか……」


「あ、あれは内気な私に勇気をくれるの!」


 ああいう下着を買っておいて、どの口が内気とか言ってんだ。それにスコーピオンというのはサソリだぞ? どちらかというと毒しかくれん。


「バトルインナーだね? 勇気倍増スキルが付いてるって聞いたことがあるよ。あと、羞恥低下スキルも」


 ディアがそんなことを言った。そんなスキルがあってたまるか。


「まあ、変なことをしないなら問題ない。頑張れ。ただ、後で報告しろ」


 恋愛小説のモデルだからな。そういえば、あの本の第三部を聞いていない。あとで聞こう。


「う、うん、分かったよ。が、頑張るね!」


 円陣を解いて、ノストの方を向く。ノストは不思議そうな顔をしていた。


「時間を取らせたな。ヴァイアは返す」


「いえ、問題ありません。もしかして、みなさんとの食事になりましたか? 私はそれでも――」


「そんなことはまったくありません。ありませんから」


 ヴァイアがかぶせ気味に回答した。確かにヴァイアには何かのスキルが展開されている気がする。魔眼で見たりはしないが。


「じゃあ、私達は宿に行く。村が襲われるかもしれないから、ノストはヴァイアのことを守ってやってくれ」


「はい、わかりました」


 二人はヴァイアの店に入って行った。見た感じは、お似合いだとは思う。上手くいくといいが。


「青春だね。よーし、私もヴァイアちゃんに負けないような青春を謳歌するよ!」


「ヴァイアのことは応援してやるが、先に結婚するのは俺だ」


「青春を謳歌するのも、先に結婚するのもいいが、お前らにああいう相手はいるのか?」




 その日の昼食はすごく静かだった。

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