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 ドッペルゲンガーの事を調べてみよう。だが、他にもやることが多い。ヤトとの話し合いはその後だ。


「二人は大丈夫か? 休んでいたところを巻き込んですまなかったな」


 ロミットとオリエと言うらしいが、結婚男と結婚女でいいや。その二人が肩を寄せ合って地面に倒れていた。男の方が女を庇うような格好だ。好感が持てる。


「いえ、助かりました。さっきはオリエを庇ってくれたんですよね。代わりに噛まれてしまったようで……ありがとうございました」


「ええ、本当にありがとうございます」


 二人そろって立ち上がり、頭を下げてきた。趣味が特殊でなければ、いい奴らなんだが。


「とりあえず、襲ってきた犯人が分かった。結婚式までには問題を解決するので、もうすこし待ってくれ」


 二人はまた頭を下げて、村長達に挨拶してから家に帰っていった。


 ドッペルゲンガーは私の姿を手に入れるという目的を果たしたみたいなので、もう襲っては来ないだろう。でも、護衛は必要かな。従魔達にやらせておこう。


 二人が帰った後、村長とノストが近づいて来た。ディアは大狼の治療をするからと言ってリエルを呼びに行ったようだ。


「フェルさん、あれは何だったのですか? 魔物ですか?」


 牢屋にいなかったノストには状況が分かっていないのだろう。説明しておこうか。


「ドッペルゲンガーという姿を真似できる魔物だな。だが、何を考えているのかはよく分からん。牢屋で話を聞いたが、ほとんどが嘘なんだろう。話し方も急に変わったし、演技だったんだろうな」


 魔族の体を手に入れて何をするのだろうか? 単純に魔族が強い、というのがあるかもしれないが、それ以外の理由がありそうだ。


「また、この村を襲ってくるでしょうか?」


「さっきも言ったが、何を考えているのか分からん。ドッペルゲンガーの事を調べてから討伐に行ってくる。私の姿で変なことをされると困るからな。ノストは念のため、この村の防衛を頼む。昨日は私や従魔達でやると言ったが、相手が人族に化けられるなら、ノスト達の方が対応しやすいかもしれん。すまないが従魔達と連携を取ってくれないか。従魔達へは念話を送っておく」


 ノストは頷くと、畑の方に向かった。


「村長、すまないが、アイツを倒すまで警戒してくれ。出来れば外には出ないように村人に伝えてほしい。広場に従魔を配置するから、移動するときは護衛を頼んでくれ。もちろん無料だ」


「結婚式の準備があるのですが、致し方ありませんな。分かりました。村の者たちに伝えておきましょう」


 そう言って村長は民家の方に向かった。これで村の奴らも何とか大丈夫だろう。


 そうこうしていると、ディアがリエルを連れて来て、大狼を治療させていた。大狼は能力制限なしの私のパンチを食らったからな。結構酷い怪我なのかもしれない。


 治療には時間が掛かりそうだし、まずは従魔達に連絡しておくか。




 念話でスライムちゃん達に事の次第を伝えた。後はノストと色々対応してくれるだろう。


 あとはドッペルゲンガーの事を調べるか。そういえば、大狼はアイツの事を知っているようだった。治療中のようだが聞いてみよう。


「怪我の具合はどうだ?」


「俺に掛かれば余裕だよ。ちょっと骨がやばかったけど、ちゃんと直したぜ」


 認めたくはないが、治癒魔法の腕だけは信用できるからな。治癒魔法だけは。


「でも、狼を治しても寄付してもらえねぇだろうが!」


 お前は聖女を辞めろ。慈悲深いとかそういうイメージが全くない。未来の聖女に迷惑かけまくっている気がする。あ、辞められないのか。女神教は罪深いな。


「分かった。今日は、いや、今日もおごってやるから、昼は好きなだけ食え」


「マジか。祝福してやるぜ。んで、いったい何があったんだ? せっかく真面目に教会を掃除していたのによぉ」


 魔族に祝福するな。だが、そんなことよりも、真面目に掃除というのが嘘くさい。


「リエルちゃん、教会で寝てたよね? なんですぐばれる嘘をつくの?」


 そんな事だろうとは思った。だが、それはどうでもいい。


「おい、大丈夫か?」


 伏せている大狼に尋ねると、苦虫を潰したような表情になって、そっぽを向いた。


「礼を言うつもりはない。その女が勝手に治したのだ」


 ヤトはともかく、リエルは狼の言葉が分からないので通訳してやった。


「ああ、礼なんていらねぇよ。フェルから飯を奢ってもらうことになったからな」


「そういうわけだ。礼はいいが、情報を寄越せ。あのドッペルゲンガーを知っているのか? お前に呪いをかけた奴とか言っていたな?」


「姿も匂いも違ったので気づかなかったが、呪いの事を知っていたし間違いないだろう。情けない話だが気絶していたので状況がわからん。あの後どうなったのだ?」


 大狼にあの後の事を説明した。


「あの獣人は魔族の姿をしたアイツを退ける力があるのか。改めて戦ってみたいものだ」


「それは勝手に交渉してくれ。それよりもドッペルゲンガーの事だ。知っていることを教えろ」


「いいだろう。知っている限りを教えてやる」


 大狼の話だと、ドッペルゲンガーに会ったのは数十年前らしい。


 当時、ドッペルゲンガーに大蛇のような姿で戦いを挑まれて敗北した。その時に受けた傷が呪いであり、それ以降、昼間の間は意識を無くすようになった。そして、自分を殺さずに去り際に言った言葉が「呪いを解きたければ魔族を食い殺せ」だった。それを信じて数十年、夜だけの世界で魔族を待っていたとのことだ。


「噛まれた直後から呪いに掛かっていたのか?」


「直後かどうかは分からん。これも情けない話だが、大蛇に噛まれたあと、数日間は昏睡していたのでな」


 数日の誤差はあるかもしれないが、呪いの媒体であるダンゴムシは、その頃からついていたわけだ。


「数十年前というのはどれくらいだ?」


「そんなものは正確に数えておらぬ。だが、呪いを受けた後に魔族を見たのは、お前が初めてだ。とは言え、魔族を見たのは、生まれてこの方、二、三度だけだがな」


 という事は五十年以上生きているのか。どうでも良い情報だが。


 いや、待てよ? 魔族はこの森に用はないはずだが、なぜこの大狼は魔族を見たことがあるのだろう? オリン方面へ行くために、単に森を通っただけか?


「狼さん。四天王とかヌシって知ってる?」


 ディアが大狼に尋ねた。大物というかなんというか、怖れを知らない感じだな。


「人族の娘がなぜ我に問いかけているのか分からんが答えてやろう。四天王というのは、森の魔物達が言っているランキングに関わるものだな? 上位四位までが四天王だと聞いた事がある」


 そんなランキングがあるのか。どうやって強さを測っているんだ?


「ちなみに誰が四天王なんだ?」


「まず我だ。カラミティウルフと言われている」


 尻尾がご機嫌だ。興味なさそうにしているが、嬉しいのだろうか。


「他には、ヘルビートル、インフェルノスパイダー、そしてあのドッペルゲンガーだ。これが現在の四天王と言われている」


 なんだろう? ちょっと気になるラインナップだ。いや、気のせいだな。深く考えては駄目だ。


「ドッペルゲンガーの住んでいるところは知らんが、ヘルビートルはエルフの森付近、インフェルノスパイダーは森の東にいるようだな。我の知っていることはこれぐらいだ」


 これらの事をディアとリエルに通訳してやった。


「ありがとう、狼さん」


「ふん、人族が教えを乞うから教えたまでよ。では、魔族に礼はしたし、我はもう帰る。ドッペルゲンガーを追う必要があるからな。仕留めたら貴様らにも教えてやろう。では、さらばだ」


 大狼も森に帰って行った。それなりの情報を貰った気はするが、どうなんだろうな。なんとなくだが、残りの四天王に関しては、詳しく調べないようにしよう。後悔しそうな気がする。


「じゃあ、今度は魔物事典を見ようよ。大狼さんと同じ内容かも知れないけど、他の情報があるかもしれないよ?」


「俺にも見せてくれよ。魔物の情報は面白そうだ」


「一体につき大銅貨一枚だよ?」


 がめついな。私から貰った上に、リエルからも貰うのか。


「だったら、フェルから受け取ってくれ。今、フェルは俺の財布代わりだから」


「ディア、リエルを魔物事典に載せとけ。タカリ聖女とか、貧乏聖女とか」


 リエルが襲ってきたので返り討ちにした。うん、やっぱり、私は強いはずだ。ヤトに訂正してもらわないと。

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