領主

 

 館に着くと、執事やメイド達に出迎えられた。二十人以上いるが、誰からも高い魔力を感じる。


 魔法使いの仕事に就けばいいのに、なぜ執事やメイドをしているのだろう?


「すげぇな? 誰からも高い魔力を感じるぜ」


「普段の領主様は、魔力操作が完璧なため、周囲に魔力を漏らすことはありません。ですが、魔法の研究中は魔力操作がおろそかになり、周囲に被害をもたらしてしまうのです。そのため、普段から魔力の高い方を周囲に置かれているのですよ」


 なるほど。魔力酔いというやつか。あれは相手との魔力差で症状が色々と変わる。気持ち悪い程度から、嘔吐や昏睡という場合もあるからな。


 ヴァイアも魔力は高いが、魔力操作は完璧だな。だが、ノストが絡むと漏れ出すので、あの時は私でも気持ち悪くなった。他人の魔力で気持ち悪くなるなんて、初めての経験だったな。他の奴なら死ぬかもしれん。


 そういえば、私が魔力高炉に接続している時に気持ち悪いとか言われた気がする。魔力操作は上手い方だが、魔力高炉に接続中は、魔力が溢れだす感じで、留めておくことができない。もしかして、魔力高炉の三つ目を使うと意識を失うのは、魔力酔いなのか? 魔力高炉の魔力も完璧に操作できるようになれば、意識を失わなくて済むかもしれないな。そうすれば、第七魔力高炉まで使えるようになるだろうか?


 色々考えていたら、いつの間にか館に通されて、大きな広間に案内された。


 館の大きさに比べると、部屋の中は質素な印象を受ける。調度品も実用性を重視しているようで派手さを感じない。


 この館って誰のものなんだろう? 次男の奴が地下で色々やっていたし、次男の物なのかな? なんとなく質素というイメージが無いんだが。


 執事の男性に「こちらでお待ちください」と言われたので、四人で椅子に座って待った。領主はいいから、食事を先にだしてほしい。とりあえず、お茶があるからそれを飲んでおこう。


 お茶を飲みながら待っていると、かなりの魔力を持つ奴が近づいてくるのが分かった。探索魔法が必要ないレベルだ。


 扉を勢いよく開けて、四十代ぐらいの男が入ってきた。コイツが領主だろうな。


「やあ、お嬢さん達! 待たせてしまったかな? 私が領主のクロウだ!」


 両手を広げて周囲に火花をまき散らしている。幻視魔法のようで熱くはない。だが、これで分かった。コイツは駄目な奴だ。食事をしてすぐ帰ろう。


「魔族のフェルだ。お前の息子のせいで酷い目に遭った。謝罪は受け入れるから食事を出せ」


 空気は読まん。気を遣うのが面倒くさい。


「はっはっは! 報告にあったとおり、食事をするのが好きなようだね! 安心したまえ! 多くの食材を持ってきたし、腕のいい料理人も連れてきている! がっつり食べてくれたまえ!」


 いちいち、うるさいな。だが、食べ物が沢山あるなら我慢しよう。食べるまでの辛抱だ。


「では、細かいことは後にしよう! 早速、食事にしようか! 君達! 準備を頼むよ!」


 部屋にいたメイド達が亜空間から色々取り出して準備を始めた。全員が空間魔法を使えるのか。すごいな。


 部屋の外からやってきたメイド達は何も持っていないようだが、亜空間に料理を入れてきたようだ。数分で準備が整った。長いテーブルの上にかなりの料理が置かれている。


「さあ、好きに食べてくれたまえ! 食べ方とかは気にする必要はないぞ! 思うがままに食すといい!」


 言われなくてもそうする。目の前にあるものから食べていこう。


「いただきます」




 うーん? 美味しいとは思う。だが、今一つ足りない気がするな。でも、十分か。今回は味よりも量を重視すると思えばいい。


 ヴァイアを見ると、食べてはいるが、心ここにあらず、といった感じだ。さっきの戦いは激しかったからな。今は休むといい。食事のことは任せろ。


 リエルは普通に食べているな。「美味い」と言っているから、リエルとしては美味い料理なのだろう。ニアの料理を食べた時にどうなるか楽しみだ。


 ノストも普通かな。でも、気を使いながら食べている感じだ。あんなんじゃ味が分からないだろうに。


 まあいい、今は食事に集中しないと。余計なことを考えている場合ではない。




「はっはっは! なかなかの食べっぷりだ!」


 食事が終わると、領主のクロウが大げさに言ってきた。


「味はまあまあだった。量は文句ない。ごちそうさま」


「む? 王都でも指折りの料理人を連れてきたのだが? 魔族は舌が肥えているという事だろうか?」


「私が滞在している村の料理が美味いだけだ。魔族の舌が肥えているわけはない。魔界ならこの料理で絶賛されるだろう」


 クロウが顎に手をやって、こちらを興味深そうに見ている。


「色々聞きたいことはあるが、まずは謝罪しなくてはならないな」


 真面目な顔をして声のトーンも落としてきた。クロウが執事に向かって頷くと、執事とメイド達が一斉に礼をした。メイド達はそのまま部屋を出て行ったため、この部屋にはクロウと執事、それに私たちの六人だけになった。


「まずは息子の罪を謝罪したい。息子の所業は私のせいでもある。すまなかった」


 クロウは頭を下げてきた。人族の貴族というものを良く知らないが、平民であるヴァイアやノストがいるところで頭を下げていいのだろうか? だが、逆に言えばそれだけ謝罪の気持ちがあるということか。


「分かった、私は謝罪を受け入れよう。皆はどうだ?」


「え? あ、はい、受け入れます」


「おう、問題ねぇぜ」


 ノストが特に何も言わなかった。一番の被害者だからな。そう簡単には許せない、ということか。


「ノスト君。君はどうなのかな? そちらのお嬢さんがいなければ死ぬほどの傷を受けたのだろうから、簡単には許せないとは思うが」


「あ、いえ、自分は護衛として切られたわけでして、領主様に謝罪をされる立場ではありません。むしろ、護衛対象を危険な目に遭わせてしまったわけですから、謝罪するべき立場かと」


 真面目だ。だが、あまりそういうことをヴァイアのそばで言うな。ヴァイアが食事中とは違って輝きだした。一応、自重しているからいいけど。


「そうか、では、ノスト君には感謝を。よく護衛対象を守り通してくれた。恩に着る」


「い、いえ、もったいないお言葉です」


 なんだか恐縮しているな。ヴァイアを守ったのは胸を張っていいことだと思うぞ。


「では次に君たちへ報奨金を渡そう。この町での犯罪を暴いてくれた礼だ。一人、大金貨一枚を授ける」


 おお、太っ腹だ。というか、護衛の依頼料もあるから、大金貨二枚以上になるぞ。夢が広がるな。


 執事が亜空間から大金貨を取り出して、四人の前に一枚ずつ置いた。


「そして、女神教、冒険者ギルドから謝罪のお金が届いている。それぞれ大金貨一枚、計二枚ずつを授ける」


 今度は四人の前に二枚ずつ置かれて、一人計三枚になった。これだけお金があるなら、何が出来るのだろう? 毎日ニアの料理が十人前は食べられるかもしれない。


「領主様、その、私は受け取れません。職務を全うしただけですので」


 ノストがまた真面目なことを言い出した。面倒な奴だな。


「そ、それなら私も受け取れません。私はほとんど見ていただけで何もしていませんから」


 ヴァイアも真面目な事を言い出した。まさか、ノストにいい子アピールか。あざとい。


 リエルは返すなんて真似はしないだろう。どちらかというと強奪するほうだからな。


「俺もいらねぇよ。そもそも女神教の不祥事だしな。それに金に困ってねぇし」


 なんだと、この野郎。


 いや、まて。じゃあ、返却しないのは私だけか。残念だが、こういう時の私の精神力は強いぞ。少数派でも自信を持って行動できる。


「私は返却するつもりはないぞ。正当な報酬だ」


「もちろんだ。受け取ってくれ」


 だが、なんだろう? ヴァイアやリエルやノストの視線が痛い。悪いことはしていないのに。


 いや、ここは絶対に譲らんぞ。魔王様、私に力を。

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