洗礼
町の手前一キロの辺りに降りた。
カブトムシに料金を支払おうとしたら、「ヴァイア様が乗っているときに、お金は受け取れません」と言われた。
お前もヴァイアを様付けなのか。私だけの時はお金を取られそうな気がする。とりあえず、帰るときも運搬サービスを受けるから、ジョゼフィーヌに念話を送ったら来てくれ、ということを伝えた。
カブトムシが承諾したあと、ヴァイアに何回もお礼を言ってから飛んで行った。とても速い。一瞬で見えなくなった。私たちが乗っていたからスピードを抑えていたのかな? 本気を出せば三時間ぐらいで村まで戻れそうだ。
降り立ったところで周辺を見ると、なにもないただの平野だった。かなり見渡しがいい。目の前には森から町へ続く道がある。この道に沿って歩いていけば、町の入り口があるんだろうな。さっそく、町の方へ行ってみるか。
町に向かって歩いていると、ヴァイアが思い出したように言い出した。
「フェルちゃん、町に入るときはギルドカードが必要なんだよ。見せないとお金を取られるから気を付けてね」
カードがないとお金をとられるのか。作っておいて良かった。
「そういえば、ヴァイアもギルドカードを持っているのか?」
「持ってるよ。冒険者ギルドのカードじゃなくて、商人ギルドのカードだけど」
そういえば、商人ギルドに加入しているとかディアに聞いたな。
「商人ギルドに寄ったりするのか?」
「今回は寄らないよ。特に報告することはないし、仕入れる物もないから」
商人ギルドでは商品を仕入れることができるのか。どういうギルドなんだろうな? 加入は出来ないけど一度説明を受けてみたいな。魔族でも取り入れられる仕組みがあるかもしれないし。
そんな話をしながら歩いていると、町の入り口から少し離れた場所でヴァイアに止められた。なんだ?
槍を持った奴等が十人ぐらいで町の入り口を固めている。兵士、だろうか? 殺気立った感じだな。
「そこで止まれ!」
兵士の一人が槍を構えながら声を張り上げた。
「歓迎されてないな?」
「多分、カブトムシさんの影響じゃないかな?」
そうだな。事情も知らずにあんなのが飛んでたら、私なら絶対に撃ち落とす。
「お前たちは何者だ!? それに、さっきのカブトムシのような奴はなんだ!?」
ちょっと怯えている感じだ。説明しようとしたら、ヴァイアが一歩前に出た。
「ソドゴラ村の者です。この町に冒険者の仕事できました。先ほどのカブトムシはこの人の従魔です」
「ソドゴラ村? 森の中の村か。二人ともギルドカードは持っているか?」
ソドゴラ村と聞いて、兵士は少し安心したようだ。問題なさそうだな。
「はい、持ってます」
「わかった。こちらから行くから、その場を動くな」
兵士が近づいてきたので、ギルドカードを亜空間から取り出した。一瞬、兵士はビクッとなったが、私の手にあるカードを見ると、改めて近づいてきた。警戒心が強いな。
「では、カードを確認させてもらう。まずはカードに魔力を流し、自身のカードであることを証明しろ」
魔力を通すとカードがうっすらと青く光った。確か、青色は本人のカードである証明だよな? 夜盗の犯罪履歴を確認した時に同じような現象を見た気がする。
「よし、カードを渡してくれ」
兵士はカードを受け取るとカードの記載内容を見た。一瞬、顔が引きつった後、ため息をついた。
「ソドゴラ村の冒険者ギルドはいい加減だな。種族が魔族になってるぞ。早めに修正の申請をしなさい」
そんなことを言いながらカードを返してきた。いや、魔族なんだけど。
カードを受け取ろうとしたら、兵士は私の頭の方を見ていた。そしてカードを手から離してくれない。離せ。受け取れないだろうが。
「……その頭の角はアクセサリーか?」
「違う。直に生えてる。言っておくがカードの種族も魔族で正しいぞ」
カードと私の頭をなんども繰り返し見ている。首や目が疲れないのかな?
「ま、魔族!? ほ、本物か!?」
偽物がいるのか? 魔族を騙って変なことしてたら制裁を加えるぞ。とりあえず、無害であることを伝えておかないとな。
「本物だ。暴れたりしないから町に入れてくれ」
暴れたりしないと言ったのに、逃げて行った。しかもカードを持っていかれた。返せ。
兵士が町の入り口に戻ると、町の門を閉められた。これは拒絶か?
「カードを見せたのに入れてくれないのだが?」
「フェルちゃんが魔族だったのを忘れてたよ。よく考えたら、魔族って危ない種族と言われているから、カードを持っていても入れてくれないよね」
そこは忘れないでほしい。だが、最初に気付くべきだった。ただ、分かってはいたが、こうも怯えられるとちょっと傷つく。
それにしても、どうしたものかな? 町に入れないと爺さんの依頼が達成できない。そんなことになったらディアに滅茶苦茶怒られそうだ。
そうだ、ノストだ。ノストの口添えがあれば大丈夫かもしれない。
「ヴァイアなら中に入れてもらえる可能性が高い。町の中でノストという奴にフェルが来たと伝えてくれないか? 多分、それで通じると思う」
「夜盗を引き取りに来た兵士さんだよね? うん、わかった。ちょっと行ってくるからここで待っててね!」
ヴァイアが両手を上げて門に近づいていった。大きな門の脇にある小門から兵士が出て来て、ヴァイアと何か話しているようだ。
しばらく待っていると、ヴァイアが小門から内側に入ったようだ。作戦通り。
少し待つと、防壁の上の方から歯車が回るような音が聞こえてきた。なんだろう? どう見ても、いくつかのバリスタが私に狙いを定めている。まさか撃ってこないよな?
撃ってきた。
直接当たりそうな矢は一本だけだったので、その矢だけ躱した。二メートルぐらいあるデカい矢だ。それに矢じりどころか全体が鉄で出来ている。こんなもの、よく飛ばせるな。当たっても死にはしないが痛そうだ。
しかし、撃ってきたか。人族と友好的な関係を結ぶ必要はあるが、舐められては駄目だ。それに、やられたらやり返すべきだな。アンリも言ってた。
地面に突き刺さった矢を引き抜き、それを右肩に乗せて構えた。
一応、警告だけはしてやろう。左手の人差し指でバリスタを指した。私に当たりそうな矢を放ったバリスタだ。
「そこに当てる。危ないぞ」
聞こえたかな? 近くに居た奴が逃げ出したから大丈夫だと思うけど。
矢を思い切り投げた。
放物線ではなく、直線で矢をバリスタに当てた。なかなかの命中率だ。投てきのスキルとか覚えたい。
バリスタに矢が突き刺さったけど、破片による二次被害とか出てないよな? 誰も怪我してないと良いけど。怪我してたらポーションをやろう。夜盗退治の時に買ったけど使ってないしな。
あとは門をぶち破って入ろう。暴れないと言ったのにバリスタで撃ってきたのだ。やられる覚悟はあると見た。
門の正面に転移する。目の前で見ると、なかなか大きい門のようだが、この程度では私は止められん。
一応、けが人がでないように、ここでも警告してやろう。
「門をぶち破る。近くに居ると巻き込まれるぞ」
探索魔法を使うと生体反応が門の周囲から距離を取ったようだ。これなら大丈夫だろう。
超痛いパンチを放った。
両開きの木門を、かんぬきごと吹き飛ばした。周囲をみると、怪我した奴はいないようだ。よし、問題ない。
「ギルドカードを返せ。あと、町に入れろ」
ここまでやって許可を取るのもどうかと思ったがスジは通さないとな。
兵士の一人が怯えた表情で近づいてきた。
「あ、貴方は、ま、魔族の方でよろしいでしょうか?」
「魔族のフェルだ。この町に冒険者ギルドの依頼で来た。さっき、ギルドカードを見せた奴に説明したとおりだ。ところでヴァイアはどうした?」
周囲がざわついている。魔族が人族の前に出るのは五十年ぶりだからな。驚くのは無理ないか。こう考えると、ソドゴラ村の奴らはかなり懐が大きいと言うことかな。何も考えていない、という気もするけど。
「ヴァ、ヴァイアというのは、一緒に来た女性の方ですね? い、今、門の外で対応した兵士と一緒にノスト隊長を呼びに行っています」
そうだったのか。でも、それならなんで撃ってきたのだろう?
「なんで攻撃した?」
「も、申し訳ありません! 狙いを定めておくだけだったのですが、老兵士が貴方を見た恐怖で撃ってしまいました! それにつられて他のバリスタも攻撃をしてしまいました!」
思いっきり頭を下げて説明された。
そういうことか。五十年前の魔族を知っている奴は、魔族を見ただけで怖がるかもしれないな。これはフォローしておかないと。
「そちらが手を出さなければ暴れるつもりはない。大人しくしているから、早くノストを呼んで来てくれ。私が安全だと証明してくれるはずだ」
「は、はい、わかりました!」
これでいい。ヴァイアがノストを連れてくるのを待とう。……安全だって証明してくれるよな? 門をぶち破ったけど。
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