作戦会議
女神教の爺さんと一緒に冒険者ギルドにやってきた。中に入ると、ディアがお茶を飲みながら暇そうにしている。
「司祭様もフェルちゃんもいらっしゃい。もしかして護衛の件ですか?」
「少し変更してのう、こういう依頼になったんじゃが、どうじゃろうか?」
「はい、確認しますね」
爺さんが依頼票をカウンターに置くと、ディアがお茶を飲みながら確認した。行儀悪いな、と思ったが、なんとなく嫌な予感がした。
「【全方位障壁】」
ディアがお茶を噴いた。爺さんは躱したが、私は障壁で防いだ。危ない。
「だ、だ、だ、大金貨一枚!?」
「まずはリーンの町で人探しをしてもらいたいんじゃ。その依頼料じゃな。それとは別に護衛料も払うぞ」
ディアがゆっくりと依頼票をカウンターに置くと、カウンター越しに私の胸ぐらを両手でつかんできた。何の真似だ? と思ったらものすごい力で引き寄せられた。顔が近い。離れろ。ぐっ、振りほどけん。
「フェルちゃん、落ち着いて」
いや、お前が落ち着け。
「対象を絶対に見つけてきて。邪魔する奴は神だろうと蹴散らしていいから。慈悲は無用。ギルドマスターの私が許すよ」
そんな許しは要らない。目がマジ過ぎてちょっと引く。
「まあ、頑張るつもりだ」
「頑張るだけじゃダメだよ。冒険者なら結果を出して」
言ってることは間違っていないのだろうが、ディアに言われたくない。
「私の方もあらゆる手を使って、全力でサポートするから」
それはどうなんだろう? 余計な問題が起こりそうな気がするけど。
「一緒に頑張ろう。そして報酬を我が手に!」
報酬は私のだからな? 手数料もギルドの物だぞ?
なんというか、ディアの言うことに突っ込みを入れていたら疲れた。もう、何でもいいや。依頼を受けると言うことで、明日、早速リーンの町へ向かおう。魔王様に報告しなきゃな。あと、ヴァイアにも伝えておかなくては。
「依頼に関しては間違いなく受けるから安心してくれ。爺さん、他には何かあるか?」
「そうそう、魔族が行くことをむこうの教会に伝えておらん。シスターが居なくなったことについては、教会自体が怪しいのでな。魔族でなくとも冒険者が行くことが分かれば、なにかしら対策される可能性もあるから伝えなかったのじゃ。色々と面倒じゃが、よろしく頼むぞ」
「分かった。シスターが居ないと結婚が遅れる奴等が居るからな。とっとと探して連れてくる」
「うむ、心強いの」
爺さんは笑顔で出て行った。
「じゃあ、フェルちゃん。丁度お昼だし、ヴァイアちゃんを誘って作戦会議だよ!」
私よりやる気になっている。お金の力って怖いな。
ディアがヴァイアを連れてきた。有無を言わせなかったらしい。普段、ディアは仕事をサボっているから、やるときは一味違うのか。
「ディアちゃんが怖いんだけど?」
「大丈夫だ。私も怖い」
「そこ! おしゃべりしない!」
怒られた。殴りたい。
「まず、人探しで大事なことは……」
真面目に何かアドバイスをくれるのかな? 一応聞いてみよう。
「探索魔法を使える人を探そう。まずはそこからだよ」
まあ、そうだよな。
「私が探索魔法を使える。以前、夜盗を見つけてやっただろう?」
ぐるり、とディアの顔がこちらに向いた。怖い。天使共を思い出したじゃないか。口から熱光線とか出したりしないよな?
「フェルちゃん……信じてたよ! これで八割は成功したも同然だね!」
なにを信じていたのかは知らないが、そんなにか?
「探索魔法には条件指定ができると聞いたことがあるから、依頼票で検索条件を確認しておこう!」
そうだな。そもそも連れてくる奴がどんな奴かも知らないしな。依頼票に書いてあるのかな?
「えーと、まず、性別は女性」
知ってる。シスターだろうが。
「名前は……ローズガーデン? 偽名っぽいね?」
バラの庭園という意味かな? 確かに偽名っぽい。世界規則により名前自体が意味を成すことは、ほとんどないはずだ。あっても意味があるのは一つぐらい。この名前にはバラと庭園の二つの意味がある。おそらく偽名なんだろう。残念だ、探索魔法は名前で検索掛けるのが一番楽なんだけど。
「年齢は十八歳。私達と同じだね」
「わあ、お友達になれるかな?」
女神教徒だから、私とは敵対関係になるかもしれないけどな。
「基本情報はこんな感じだね。次は備考欄……」
なんだ? ディアが止まったぞ。
「ディアちゃん、どうしたの?」
「うん……。なんか備考欄に大きく超問題児って書いてある」
そういえば爺さんも、問題児らしい、とか言っていた気がするな。この村に居る奴は皆そうだと思うけどな。
「えっと、書いてあることを読むね。えーと……」
ディアが説明した内容はこんな感じだった。
貴族の二女として生まれる。
十歳の時に家の調度品を勝手に売りさばき、その金を町の住民に施した。勘当に近い形で修道院に入れられる。同時に女神教に入信。
十二歳の時に修道院の金を奪い脱走。その金を近くの村に施した。破門にはならず、そのまま在籍。
十五歳の時に女神像を破壊。女神像の額にはめ込まれた宝石を売りさばいて、近くの村に施した。異端審問に掛けられるも、問題ないと言うことでお咎めなし。
十六歳の時に聖都へ召喚。半年ほど教会で奉仕活動していたが、寄付金を奪い聖都から少し離れた村に施した。それ以降の状況は不明。
「お金が好きなのかな? それは問題だね。……なんで二人とも私を半目で見ているのかな?」
「私利私欲で使ったわけではないだろう? 近くの村に施したと書いてある」
ディアがいきなりため息をついた。目の前でため息をつかないでくれ。私の幸せも逃げる気がする。
「フェルちゃんは魔族なのに純粋だね? そんなのはカモフラージュだよ! 自分だけが悪者にならないように、盗んだお金を少しだけ施して、残りは自分のものにしちゃうんだよ! 私には分かる!」
ディアは心が荒んでるな。信じるって大事だぞ。
「今度は憐れみとか慈悲の目で見られている気がするんだけど?」
「気にするな。ただ、その情報じゃ探索魔法の検索条件に引っかからないな。女性というところぐらいだ。名前は偽名っぽいから意味ないし」
「フェルちゃん、大丈夫だよ。私の魔道具ならもっと詳細な探索魔法ができるから。多分、偽名でもやれると思うよ」
マジか。どんな術式を組めばそんなことが出来るんだ。あとで教えてもらおう。
「ヴァイアちゃん……信じてたよ! ヴァイアちゃんの探索魔道具なら、依頼は成功したと同じだね!」
ディアはヴァイアの手を両手で握り満面の笑みだ。その後、私の方を見たが笑みが消えていた。
「フェルちゃんの探索魔法にはガッカリだよ」
表に出ろ。
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