多忙

 

 さて、今日も一日頑張ろう。まずは朝食だ。


 部屋を出て食堂におりると、エルフ達がすでに居た。あと、ロンとヤトも居る。


「おはよう」


「おー、おはよう。朝食を食べたんだが、これも美味いな!」


 ミトルの皿を見ると、すでに何もなかった。他のエルフ達の皿にも何もない。だが、皿にトマトソースがついている。オムレツかベーコンエッグと見た。朝食が卵料理なら今日は良いことがありそうな気がする。


「ニアの料理が美味いのは当然だ、私も頂こう。ヤト、朝食を頼む」


「かしこまりましたニャ」




 美味しかった。やはりオムレツは最高だ。魔界に戻ったらコカトリスじゃない鶏を優遇しよう。


 よし、今日は色々やることが多いから、早速、行動開始だ。


 まずはミトルのスケジュールを聞いて、時間があるならカブトムシを紹介しよう。


「ミトル達はいつ頃帰るんだ?」


「昼過ぎに帰ろうと思ってる。昼食をここで食べてから帰るつもりだ」


 他のエルフ達も頷いていた。すでに餌付けが完了しているような気がする。それはいいとして、午前中は時間があるようだから、カブトムシの運搬についてちょっと相談しておこう。


「エルフの森から連れ帰ったカブトムシなんだが、この村とエルフの村を定期的に運行したいと進言してきた。話を聞いてやってくれ」


「フェルが何を言っているのか、さっぱり分からねーよ。それは冗談なのか?」


 私に冗談のセンスがないことは分かっている。だから冗談は言わない。いつだって本気だ。


「冗談ではない。カブトムシにプレゼンされた。経済効果とか費用対効果とか、なかなか良い説明だったとは思う」


「カブトムシにプレゼンされたとか、明らかに化かされている気がするけどな。フェルだから可能性はあるかもしれねーけど」


 聞いてはくれるようだ。なら、カブトムシを紹介して、後は全部ミトルに任せよう。出来る女は仕事を周囲に割り振れるのだ。


「とりあえずカブトムシに会わせる。好きに決めてくれ」


 ミトルを連れて畑に向かおう。他のエルフ達も誘おうとしたが、他のエルフ達はそれぞれ別のことをするようだ。


 男性のエルフ達はロンとなにか話があるようだ。猫耳とかウェイトレスの服とか聞こえるから、どうせロクでもないことだろう。


 女性のエルフ達はニアに料理を教わるようだ。ヤトと一緒にニアに教わるらしい。やっぱりニアの料理技術は持ち帰りたいよな。


 よし、まずは畑だ。




 借りている畑は平和になっていた。争いは何も生まない。ようやく植物達は気づいたようだ。


 畑の近くではエルフの村から連れてきたカブトムシと、ミトル達が連れてきたカブトムシが話し合いをしていた。餌はどれくらい貰っているかとか、最近の樹液事情とか、クワガタに対する嫉妬とか、色々と情報交換しているようだ。カブトムシ界でも色々あるんだな。


「ミトルはカブトムシの言葉は分かるか?」


「分かるわけねーだろ」


 通訳が必要だな。畑で踊っているジョゼフィーヌに頼むか。


 ジョゼフィーヌは快く引き受けてくれた。「部下のためですから」と言ってくれた。上司の鑑だ。でも、一時間で大銅貨一枚と言われた。解せぬ。


「カブトムシの言葉をジョゼフィーヌが看板に書いて通訳してくれる。運搬事業に需要があるかどうかとか、やるなら値段は適当なのかとか、色々聞いて、実際にやるかどうか決めてくれ。後は任せた」


「ジョゼフィーヌって俺を一撃で吹っ飛ばしたスライムだよな。運搬事業をやらないとか言った時に、暴力に訴えてこないよな?」


「可能性はある。暴力に屈するなよ」


「可能性があるのかよ! 止めてくれよ!」


「スライムちゃんは私の言うことを、あまり聞いてくれない。じゃあな、私は忙しい。後は任せる」


 ミトルの抗議の声が聞こえたが気にしている場合ではない。次はミノタウロス達に昨日の仕事はどうだったか聞いてみよう。




 よく見ると小屋が二つになっていた。コカトリス達の小屋とミノタウロス、オーク達の小屋だな。


 大きい方の小屋をノックするとミノタウロスが出てきた。昨日の状況を聞きたいと話すと、皆を呼んできてくれた。


 ミノタウロス達の開拓仕事は結構やりがいがあるらしい。斧で木を切るのが楽しいようだ。開拓中にワイルドボアが出てきたので倒したら、村の奴らに感謝されたらしい。ちょっと誇らしげだ。なお、倒したワイルドボアは宿に持ち込まれて昨日の夕食になったそうだ。あのハンバーグは倒したワイルドボアの肉なのかな。


 オーク達の狩りの仕事もやりがいがあるらしい。昨日は結婚男に狩場を教えてもらったそうだ。ワイルドボアを狩って血抜きの技術を教わったらしい。また、狩りの途中で木の実とか、キノコとかを見つけたので持って帰って来たようだ。やはりキノコ好きか。土の中にあるキノコが上手いらしいが、食べたことないな。オーク達もこの仕事にやりがいがあるので、引き続きやりたいと懇願された。


 コカトリス達はゴミ回収の仕事をエリザベートと一緒にやることになった。ヴァイアが石を買ってくれるので、かなりやる気になっている。何かを石にして喜ばれることなんてなかっただろうし、試作品とはいえ、収納ができる魔道具ももらったから、ヴァイアに対しての好感度が高いようだ。むしろ、私よりヴァイアの方が高いように思える。


 話を聞いた限りでは誰も問題は無いようだ。それに村の奴らから感謝もされているようだし、人族との信頼関係を結ぶことも大丈夫だろう。


 引き続き人族と信頼関係が結べるように対応してくれ、と伝えて畑を後にした。


 次は女神教の爺さんだ。




 教会に入ると誰も居なかった。時間が早すぎたのだろうか。少し待てば爺さんは来るかな? ちょっと待ってみよう。


 暇だから周囲を見渡すと、像が目に入った。たしかこの像を使って念話をするはずだ。念話の時間と場所が指定されているらしいから、もっと後の時間なのかもしれないな。ぬかった。


 そういえば、この像が女神なんだよな。世界にいる七柱の一柱。いや、すでに五柱か。魔王様はこの女神も倒されるのだろうか。


 それに魔王様は神なんていない、神だと思っている奴がいるだけ、というようなことを言っておられた。ということは、この女神も神ではないということなんだろうな。これは爺さんには言わない方が良いかな。信じないだろうが、余計なことは言わない方が良い。


 そうだ、爺さんに女神の事を聞いてみよう。女神がどういう奴なのか知っておくのは悪くないと思う。


 そんなことを考えていたら、爺さんが入り口から入ってきた。


「おや、こんな早くから教会にいるとは、とうとう女神教に改宗かね?」


「そのネタはもういいから。今日はリーンの教会へ連絡を取るんだろう? 早く連絡してシスターがどうなったか確認してくれ。行くなら行くで早めに準備したい」


 行くなら魔王様にも連絡しないといけないしな。


「やる気を出してくれるのはありがたいの。すぐに連絡を取ってみるから、ちょっと待ってくれんか」


「わかった」


 念話はこの時間でも大丈夫なんだな。なら椅子に座って待つか。


 爺さんが像に触れてどこかのチャンネルに繋いだようだ。


 その像は洗脳魔法が展開されているけど大丈夫か? 爺さんが洗脳されて襲ってきたら反撃するぞ。


 爺さんは頷いたり、考え込んだり、相手先と頭の中で念話しているようだ。いきなり、爺さんが「なんじゃと!」と大きな声を出した。なにか悔しそうな顔をしている。何かあったのかな?


 その後、爺さんが私の方を見た。そしてニヤリと笑った。あれは悪い笑みだ。


 そのまま念話が終わり、爺さんはチャンネルへの接続を切断したようだ。


「どうなった? 爺さんの顔を見ていると、聞きたくないような気もするが」


「結論から言うと教会にシスターは居ないようじゃ。リーンの町に着いた日には確認できたようじゃが、それ以降、誰も見ておらん」


 居ないなら護衛の依頼は無しだろうか? やらなくていいならやらないけど。


「そこでじゃ。すまんが、リーンの町まで行ってシスターを探してくれんか?」


「私が探すのか? それは護衛の仕事じゃないだろう?」


「そうじゃ。だから人探しの依頼じゃ。立派な冒険者の仕事じゃろう?」


 そうなのだろうか? この村の冒険者ギルドには仕事が無いから判断できない。でも、ウェイトレスがあるなら、人探しも仕事としてあるのか?


 お金になるならやっても良いが、見つかる保証がないからあまり積極的に受けたくないな。


「依頼料は大金貨一枚じゃ。経費は別。さらに、見つけてから村までの護衛に関しても報酬を払うぞ」


「受けよう」


 即断即決。大金貨一枚の依頼をやらずに何をやるのだ。だが、色々と制限はしてもらおう。ずっと探すわけにはいかないからな。


「ただ、条件がある。期間は十日だ。それ以上はやらない。見つからなかった場合、依頼料は要らないが経費は貰う。それでいいか?」


「かまわん。それで頼む。冒険者ギルドの依頼票にその条件を入れるから安心してよいぞ」


 契約成立だ。しかし、随分簡単にお金を払うことになったな? 念話中に何かあったのだろうか?


「女神教への経費でお金は出るとは思うが、随分高額だな。大丈夫なのか?」


「向こうの司祭が『冒険者を雇って探させればいいでしょう? お金はこちらで払いますよ』と言ったのでな。全部、向こうの支払いじゃ」


 爺さん。その顔は悪党の顔だ。抑えろ。でも、いい奴じゃないのか? お金を払うと言っているのだし。


「向こうの思惑は分かっておる。アイツはリーンにある冒険者ギルドのギルドマスターと懇意でな。おそらく、向こうのギルドに手を回して、冒険者に仕事を受けさせないようにするつもりじゃろう」


 なるほど。仕事を受ける奴が居なければ、報酬も出ないと言うことか。


 また、爺さんが笑った。だから、その顔は聖職者がしてはいけない顔だと思うぞ。鏡を見ろ。


「この村に冒険者が居ないと思っておるのが、アイツの誤算じゃな。依頼票はこの村で発行できるし、冒険者もフェルがおる。くっくっく、アイツの驚く顔が目に浮かぶわい。直接見れないのが残念じゃ」


 性格悪いな、爺さん。だが、こちらとしてはお金が手に入るなら問題はない。出来ればシスターを見つけて大金貨一枚の報酬を手に入れよう。


「どれ、冒険者ギルドに依頼に行くかの」


 ディアが驚く顔が目に浮かぶな。もしかしたら、半狂乱になるかも。

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