取引
食後に雑談していたら、村の外に反応があった。どうやらミトル達が着いたようだな。
私がリーンの町に行く前に来てくれたようだ。
「エルフ達が来たみたいだ。ちょっと出迎えてくる。村長を呼んできてくれないか?」
そう言うと、ディアが立ち上がった。
「じゃあ、私が呼んでくるよ。ヴァイアちゃんは親善大使だから、フェルちゃんと二人でエルフさんを接待しててね」
ミトルに接待は要らんと思うが、他にもエルフが居るからな。多少は接待も必要か。よし、広場で出迎えよう。
ミトル達がカブトムシの引く荷台に乗ってやってきた。荷台には色々乗せられている。私には分かる、あそこにリンゴがある。
ミトルと四人のエルフ達が荷台から降りてきた。全部で男性三人と女性二人か。随分いるな。
「よー、フェル。元気だったか? 俺と会えなくて寂しかったろ?」
開口一番うざい。
「今の今まで元気だったが、お前のセリフで精神的なダメージを受けた」
「相変わらずだなー」
お前も相変わらずチャラいな。と思ったら、いきなりミトルは真面目な顔をした。どうした?
「確認したいんだが、ここに魔物の群れが来なかったか?」
「魔物の群れ?」
「ああ、昨日、エルフの森の近くを強そうな魔物が通ったんだよ。この村にはフェルが居るだろうから問題はねーとは思ったんだが、心配だったから早めに来たんだよ」
魔物の群れなんか来てないけどな。こっちには向かってこなかったのかな。探索魔法にも引っかかってない。
「ちなみにどんな魔物だ?」
「俺は見ていないんだが、聞いた話だと――そうそう、あんなコカトリスが居たらしいぞ」
丁度、スライムちゃんに連れられたコカトリスが通りかかった。ゴミを回収しているのだろう。
「――アレだよ! 何でここに居るんだよ!」
ノリ突っ込みだ。ちょっと突っ込みが甘い気がする。
「あいつらは私の部下みたいなものだ。ここで酪――開拓するために魔界から呼んだ。ミノタウロスやオークもいるぞ」
「あー、そうかよ。心配して損したよ。このことは、エルフの村に連絡するけどいいか?」
「もちろんだ。森の中で狩りをさせている奴もいるからエルフに襲われたら困る」
ミトルが連れてきたエルフに何かを言うと、エルフの一人が念話を始めた。多分、ここでのことを伝えているのだろう。
ヴァイアが私の横から一歩前にでた。
「こんにちは、エルフの皆さん。私はヴァイアと言います。エルフの皆さんをお世話をするように言われてますので、村のことで困ったことがあったら何でも言ってくださいね」
ヴァイアはこの村のエルフ親善大使だからな。こういうところからイメージアップを図るのか。意外と抜け目ない。出来れば、この村の魔族親善大使もだれかを任命してほしい。ディア以外で。
「おおー、ヴァイアちゃんがお世話してくれるのか! よーし、なら、手取り足取りお世話してもら――痛!」
ミトルがエルフの女性に剣の柄で殴られた。殴り方に迷いがない。痛そう。
「何すんだよ!」
どうやら、隊長から「ミトルが女性を口説きそうになったら遠慮なく殴れ」と言われていたようだ。「遠慮なく」という部分に隊長の思いが込められているな。
それを聞いたミトルが驚いた顔になり、ヴァイアは苦笑いだ。隊長、抜かりないな。グッジョブ。
そうこうしていると、ディアが村長を連れてきた。
「良くいらっしゃいました。この村の村長を務めている、シャスラと申します」
村長の名前って初めて聞いたな。でも、呼ぶときは村長でいいか。
「エルフの村から来たミトルと申します。エルフの長老達から手紙を預かっていますので、まず確認してください」
外面用のミトルか。丁寧な言葉遣いをしていると何となく気持ち悪い。殴りたくなる。しかし、長老達からの手紙? なにが書かれているのだろう?
村長は手紙を読みだすと少し笑った。
「なるほど。ここに書かれているようなことはあり得ませんので心配はいりません、と長老様へお伝えください」
「長老達に伝えておきます。では本題に入らせて頂きます。すでに聞いているかもしれませんが、この村でフェルと取引させて頂きたいのです」
リンゴを取引できないと困る。村長が駄目と言ったら暴れるかもしれん。
「それは問題ありません。ただ……」
ミトルが村長の言葉を手で遮った。ミトルは分かってます、という顔だ。
「その取引のついでと言ってはなんですが、エルフ達も多少は人族と交流を持とうと言う話になりまして、フェルだけでなく、この村の方々とも取引させて頂きたい、と長老から言伝を預かっています」
「そうでしたか。私の方も村と取引させて頂きたいと言うつもりでした。こちらとしては、ありがたい申し出ですので、もちろん構いませんぞ」
「ありがとうございます。では、今後の取引の際に決めておきたいことがいくつかありますので、落ち着いて話が出来る場所などはありますか?」
「では、我が家へどうぞ。二十人は入れる会議室のようなものがありますからな」
なんか、とんとん拍子に話が決まった。細かい話は村長の家で話をするらしい。
「では、フェルさんは一緒に来てくれますかな。もちろん、ヴァイア君も一緒に。ディア君は仕事にもどりなさい」
私とヴァイアは誘われたが、ディアは要らないようだ。色々やらかしそうな気がするからかな? 賢明だと思う。
「村長ひどい! こんなに儲け話の匂いがするのに!」
「ディア君、そんなに正座が好きなのかね?」
「ギルドの仕事があったのを思い出しました。帰ります」
最初からそうすればいいのに。帰り際に小声で「どんな話をしたか後で教えてね!」と言われた。面倒だ、そういうのはヴァイアに任せよう。
さて、村長の家に移動するか。
村長の家に入ると、アンリがすでに座っていた。また、大人の会話に混ざってくるのだろうか?
村長が二回ほど手を叩くと、アンリの母親が来て、アンリを抱えて別の部屋に連れて行った。手慣れている感じだ。アンリの抵抗をものともしない。母は強し。
「では、椅子におかけください」
村長がミトル達に席を勧めた。机を挟んで、私とヴァイアは村長側、向かいにエルフ達が座る配置だ。
「今の子、ディーン達の謝罪時にフェルに座っていた子だよな? 村長さんの身内なのか?」
「村長の孫だ。連れて行ったのは母親だな」
「へぇ? でも、あんまり似てねーな?」
言われてみればそうかもしれない。でも、アンリだしな。なんというか、自分で外見すら変えられるような気がする。
はて? 村長が驚いているようだが、どうしたんだろう?
「村長、どうかしたのか?」
「あ、いえ、エルフの方と話をするのは初めてでしたので緊張してしまいましたかな。さて、話を進めましょうか。たしか取引のお話をとのことでしたが?」
「こちらとしても人族と取引するのは初めてなので、色々とルールを決めたい、という話です。こちらの要望としては――」
ルールの話はこんな感じだった。
取引に関しては、エルフにとって人族の硬貨は意味がないので、物々交換になるとのこと。
エルフが出せるのは、森で採れる果物がメイン。ほかにも役に立つ材木等を出せるそうだ。エルフが欲しいものは、ワインやハチミツ等の食料品、宝石、装飾品、風の魔道具等だ。この辺りは、以前聞いていた内容とほとんど変わりはない。
交易の頻度は月に一回、エルフ達がこの村に来るということで決まった。基本的には今いるメンバーが毎回来るとのこと。
また、この村と連絡をするための念話用魔道具を置かせてほしいとのことだった。
「念話の魔道具に関しては、交易用の情報交換がメインです。ただ、もう一つ理由があります。ご存知かもしれませんが、今、ルハラ帝国の動きが怪しくなっています。とある筋からルハラ帝国の情報を得ていますが、それを鵜呑みにするわけにもいかないので、こちらでも情報を収集できないかと思いまして」
そういうことを馬鹿正直に言うのはどうなんだろう? 黙っていればいいのに。信頼関係を結ぶためには必要な事なのかな。
「なるほど、その辺りは伺いましたぞ。たしか、ルハラ帝国で戦略魔道具が発見されたとか」
「そうですね。それ以外でも、ルハラ帝国内で内戦が起きる可能性がありますので、色々と情報の共有をさせていただきたいと思っています」
ディーン達の事か。帝位を諦めない、とか言っていたからそのうち内戦が始まるのだろうな。いや、でも言ったのは影武者か。ディーン本人は言っていないから、実際のところはどうなんだろう?
「分かりました。では、私の家に設置しましょう」
「ありがとうございます。話は以上です。あとは取引をしながら調整できればと思っています」
「そうですな。何かありましたら、その都度、調整致しましょう」
ようやく終わりか。でも、これなら私が居なくても良かったような気がするけど。
「ミトル殿はこの後、どうされるのですかな?」
「この後は持ってきたものを村で見てもらおうかと考えていますね。今回はエルフの村にはこういうものがある、というお披露目をしようかと思っていまして、いくつかは無料で提供します。それが終わりましたら、今日はこの村に泊まり、明日、エルフの村に帰る予定です」
「そうでしたか。では、村の者に伝えておきましょう。ヴァイア君、皆に伝えておいてもらえるかな?」
「はい、わかりました」
ヴァイアは立ち上がって外に出て行った。
それにしても無料で提供か。村の皆へのお披露目だから、私は手を出さない方がいいよな。でも、無料なんだよな。もし余ったら貰おう。
「そうそう、この村に泊まるとのことですが、エルフの皆さんは宿を無料で使っていただいて構いません。食事も無料で提供するように致しましょう」
「それは助かります。ありがたくそうさせて頂きます」
「では、宿の方へ案内致しますぞ。フェルさんも一緒に来てくださいますかな」
「分かった。行こう」
仕方ない。エルフ達を呼んだのは私だからな。責任をもって最後まで付き合うか。
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