情報収集

 

 ヴァイアを誘って、宿の食堂にやってきた。おまけでディアも付いて来た。


 食事を待ちながら、ヴァイアに護衛の件を説明して、付いてきてくれないか打診した。


「それはいいけど、もうちょっとしたらエルフさん達が来るでしょ? 一応、私がこの村のエルフ親善大使に任命されているから、それとスケジュールが重なると問題かな?」


 そういえばそうだった。エルフがリンゴを持ってこの村に来る。その時に、私もヴァイアも居なかったら、何も交換せずに帰ってしまうかもしれない。リーンの町に向かうのは三日後だから、それまでにエルフ達が来れば何の問題もないのだが。


 エルフの村から帰るときに、数日中にはミトルを村に寄越す、と言っていた。明日か明後日には来ると思いたい。


「町に向かうのは三日後だ。それまでにはミトル達が来ると思う。それまでに来なかったら、アイツ等が悪い」


 出来れば私がいる間に来てほしいが、冒険者の仕事も大事だから仕方ないな。ミトル達が早く来ることを祈ろう。そういえば、アイツ等はカブトムシに乗ってくるのだろうか? 以前、私を捕まえに来た時は歩きだったが。


「二人でリーンの町に行くのかー。私も行きたいなー」


 ディアがあさってのほうを向きながら、声の大きい独り言を言っている。独り言とはいえ、反応してやらないとかわいそうかな?


「お前はギルドの仕事があるだろ」


「いい? フェルちゃん。仕事には有給休暇というシステムがあるの。休んでいてもお金がもらえると言う、夢のシステムが!」


 魔界にもあるぞ。確か一年で二十日貰える、と聞いたことがある。私は貰ったことないけど。


「ディアちゃん。有給休暇はどれくらい残っているの?」


 反応がない。夢のシステムは無限には使えないようだ。


「じゃあ、大人しく留守番してるから、お土産よろしくね。なんでもいいから。出来れば高い物」


 なんでもいいと言ったのに高い物を要求された。リーンの町で石ころでも拾ってくればいいか。ヴァイアに魔道具にしてもらえば、それっぽく見えるだろう。


「ところでヴァイア、リーンの町ってどういうところなんだ?」


 情報収集は基本だ。情報があるのとないのでは作戦の立案、実行に影響がでるからな。


「どういうところと聞かれても説明が難しいから、知っている内容を全部言うね」


 ヴァイアの話によると、リーンの町は人口が千人ぐらいの町らしい。魔法国オリンに属する町であるとのこと。


 境界の森を西に抜ける前、もしくは森を東に抜けた時に必ずその町で休むことになるので、宿が多いらしい。また、森を抜けるための準備をするために、食料品店とか武具店等も多いそうだ。


 護衛目的の冒険者が多いのでトラブルも多いそうだが、兵士たちの見回りも多いので治安は結構良いらしい。問題を起こした奴らはすぐに連行されてしまうので注意が必要とのこと。なんで、私を見つめながら言うのだろうか。


 そして、その町を治めているのはオリンの貴族で、結構有名な魔法使いらしい。領主や嫡男は出来た人族らしいが、次男がかなり駄目なことで有名。領主からは勘当状態の駄目な奴ではあるが、魔力が高いのでオリンとしては優秀な奴として扱われているらしい。


「私も聞いたことあるよ、その次男のこと。冒険者ギルドの受付仲間から、次男むかつくって言う話をよく聞くし」


 そういう奴とは関わりたくないな。出来るだけ目立たないようにサッと仕事を終わらせたい。一番いいのは、シスターがこっちに向かっているという連絡が入った場合かな。でも、その場合、護衛の仕事が無くなるのか。うーん?


「ただ、その次男は王都の方に居ることが多いから、多分、関わることは無いと思うけどね」


 そう願いたいものだ。そんな話をしていたら、ヤトが食事を持ってきてくれた。


「お待ちどうですニャ」


 話を打ち切って、がっつり食べた。やっぱり、ニアの料理が一番だな。エルフ達の料理も美味かったけど、これほどではない。エルフ達の持ってくる食材だとどんな料理ができるのかな? いまから楽しみだ。


 食事が終わったので、三十分ぐらい雑談してから、二人とも帰って行った。暇だとは言っていたが、やはりそれなりに仕事はあるようだ。


 ディアは書類整理、ヴァイアは商品の手入れや掃除と言っていた。私も護衛の仕事があるが、三日後からだ。それまでは何か別のことをしてお金を稼がないと。


 まずは畑に行ってみるか。




 畑では、案山子がミミズやモグラと戦っている。案山子ってそんなに行動的だっただろうか? 鳥を追っ払う程度だと思っていたのだが。


 村の奴らは鍬で畑を耕したり、野菜を収穫したりと忙しそうだ。収穫した野菜がニアの料理に変化するのか。胸が躍るな。


「よお、フェル、久しぶりだな。今日はどうした?」


 畑を耕していた村人が私に気付いたようだ。以前、柄杓を弁償した奴だ。


「仕事を探しに来た。何かあるか?」


「いや、無いな。案山子のゴーレム達がビッグワームとか、ビッグモールとかを瞬殺しちまうから、俺たちがすることも無くなっちまったからな」


 案山子が仕事を奪ってしまったか。これはこれで問題かな?


「手が空いた分、すこし畑を広げようと思って森を開拓するつもりなんだよ。開拓も仕事といえば仕事なんだが、お金を払えるほどじゃねぇな」


 森の開拓か。やってもいいが、お金にならないのなら駄目だ。


「そうか。お金が発生するなら手伝おう。何かあったら言ってくれ」


「おう、わかった」


 そうだ、借りた畑を見ておくか。すでに手遅れな気がしないでもないが、今見ておかないと後悔する可能性もあるからな。




 後悔するのは避けられなかった。借りた畑が酷いことになっている。


 縄張り争いだ。そこに仁義はない。やるかやられるかのようだ。


 見た限りヒマワリ軍が優勢だ。徐々に領地を拡大している。だが、アルラウネ軍とマンドラゴラ軍が同盟を組んだ。これで分からなくなった。誰が勝ってもいいが、負けても他の畑に亡命するなよ。怒られるぞ。


 あと、カブトムシが居た。エルフの村とこの村を定期的に運行してみたい、と相談された。自分が護衛を兼ねてエルフ達や人族達を送り迎えしますから、と熱くプレゼンされた。お前も仕事をする気なのか。よし、ミトルが来たら丸投げしよう。




 畑を後にした。精神的にすごく疲れた。


 畑を借りたのは魔界の食糧不足を解消するためなのに、畑で育った奴は誰も食べることができない。むしろ食べられそう。ヒマワリの種も拒絶されたし。別の畑を借りて、ちゃんとした野菜を育てたい。動いたり、喋ったり、戦争しない野菜を。


 そういえば、酪農のための家畜はどうなったのか確認しなくては。エルフの森に何日か行っていたからその後の状態は分からないが、そろそろ来ると思う。これは自分でやろう。絶対にスライムちゃんにはやらせない。


 さて、次はどこの仕事を探しに行こうか。


 と思ったら、なんだか、村の広場の方が騒がしい。何かあったのだろうか? もしかして、エルフ達が来たのか? 見に行ってみよう。

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