包囲
寝ていたら、叩き起こされた。結界を張っていたのに破壊されたようだ。
仕方がないので服を着てから外に出ると、ミトルと隊長がいた。すでに武装している。なぜか長老が倒れていた。結界を破壊した時に魔力を使い切って倒れたみたいだな。襲撃してきた奴に使わずに、なんで結界の破壊に魔力を使ったんだ。
「何の真似だ」
「わりーな、村が襲撃されているみたいなんだ。力を貸してくれ」
「断る」
また、どうせエルフと人族の問題だろう。私は部外者だ。
「我々と交易するためには、この村が安全でなくてはいけない。不満はあるだろうが、手伝ってもらうぞ」
そう言われてしまうと返す言葉がない。くそう、ウル達め、どこまでも私の邪魔をするな。殴ろう。徹底的に。
隊長やミトルと一緒に、村の広場に来た。他のエルフ達が慌ただしく動いている。
「状況はどうなっている?」
「はい! 女性や子供達は全員、千年樹の家に避難させました!」
牢屋だけじゃなくて、隠れる場所としても千年樹を使っているのか。あとで見せてもらいたいな。出来れば植物操作で加工しているところを見たい。
「相手の規模は?」
「はい! 分かっている範囲ではゴーレムと魔物がそれぞれ数体いるようです!」
ゴーレムか。そういえば、泥のゴーレムを作るのを見たな。でも、数体じゃ意味がないと思う。あと、魔物か。ウル達の仲間にテイマー系の奴が居たのかな?
「襲撃って何があったんだ? どこからか攻撃でもされたのか?」
「ああ、見張りが襲われた。すぐに逃げてきたため、やられたり捕縛されたりするようなことはなかったが」
そういえば、村には特殊な結界が張られていて簡単には入れないのではなかっただろうか?
「結界は意味がなかったのか?」
「まだ、よく分かっていないのだが、結界は破壊されたようだ。相手にかなりの手練れが居るのだろう」
大規模結界を破壊できるのか。ということは、ウル達の仲間にそれだけ強い奴が居るようだな。ちょっと戦ってみたい。
「斥侯から念話が届きました! 敵はどうやら案山子の形をしたゴーレムの部隊で、狩人のような鋭い目をしたゴーレムを筆頭に村を包囲しているようです!」
ん?
「また、ゴーレム以外にもアルラウネ、マンドラゴラがいるようです! あと、見たことがない黄色い植物の魔物もいるとのこと!」
んん?
「新しい情報が来ました! 指示を出しているのは三体のスライムだそうです! 幼女の形をしているスライムです! おそらくネームド! くっ! この情報を最後に念話が途絶えました!」
んんん?
知っている、気がする。そのラインナップを知っている、気がする。いや、偶然だな。
「おい、フェル、どこへ行くんだ?」
「いや、ちょっとお腹の調子が悪い。食べ過ぎた。部屋で休む」
「宴が終わったとき、まだ腹八分目とか言っていただろうが。……なんで目を逸らした? 何か隠しているな?」
「いや、何も隠してはいない。ただ、襲ってきた奴らが知っている奴に似ているな、と思っただけだ。多分、偶然だ」
「言え」
言いたくない。無関係を装いたい。私は悪くない。
そんなことを考えていたら、大きな声が村に響き渡った。
「この辺りは完全に包囲したよ! 無駄な抵抗はやめなさーい!」
エルフの一人が「あそこだ!」といって一本の木の上の方を指さした。暗くてよく見えないが、木の枝に立っている四人の人影が見えた。とても嫌な予感がする。
四人のうちの一人が光球で周囲を照らした。まぶしい。逆光で良く見えない。
「私は謎の美少女受付嬢! ここに魔族の女の子が居ることは分かっているよ! すぐに解放しなさーい!」
まぶしくてよくわからないが、知っている奴に似ている。うざい奴だ。
「おい、知り合いか? フェルが居ることを知っているぞ」
隊長の奴に半目で見られた。あれは疑いの目だ。いや、大丈夫だ。まだごまかせる。
「逆光で相手が良く見えない。多分、魔族違いだと思う」
「私は謎の、び、美少女雑貨屋さん! フェルちゃんを返して!」
すぐ泣く奴に似ている。美少女と言うのに抵抗があるなら言わなきゃいいのに。
「名前を言ったぞ?」
「偶然て怖いな」
「同じ名前の奴は存在しないだろう?」
「可能性は零じゃない」
そう、零じゃない。まだ無関係を装える。諦めたらそこで終わりだ。
「私は謎の美少女ウェイトレスニャ。フェル様を返すニャ。言うこと聞かないと、いらないほうの目を潰すニャ」
逆光でシルエットだけしか分からないが、猫耳と尻尾がある。獣人かもしれないが、ロンも持っている獣人なりきりセットを使っているかもしれない。それはともかく、シルエットがウェイトレスの服なのはなぜだろうか。美少女ウェイトレスだから間違ってはいないけど。
「獣人か? 可愛らしい服を着てるのに怖い事を言っているが」
「どっちの目なら潰れても大丈夫だ?」
「どっちも潰れては困る」
そうだな。例え目が三つあっても潰したくはない。
「私は美少女。フェル姉ちゃんを返さないと森に火をつける。あと、おやつを要求する」
ただの美少女らしいが、多分、村に帰ったら村長と母親に怒られると思う。
「森で一番やってはいけないことを言ったぞ。一番小さいのに」
「火をつけるのは、ハッタリじゃないと思うぞ」
四人のうち一人が私の方を指さして言った。
「あ、フェルちゃんだ! おーい、助けに来たよ!」
エルフ達の視線が痛い。分かった、認めよう。あいつらは知り合いだ。
「すまん、説得してくる」
「そうしてくれ」
広場の中央に向かって歩いた。とりあえず、エルフと和解したことを説明しよう。
「エルフ達には私が無実であることを証明した。明日には村に帰るから、お前たちも帰れ」
反応がないな。どうした?
「フェルちゃん……! 嘘をついて私たちを逃がそうとしてくれているんだね! 大丈夫! フェルちゃんが無実じゃないことは分かっているから! どんな手を使ってでも助けるよ!」
なにも分かってない。世界樹を枯らしたのは魔王様だが私じゃない。なんと言えば納得して帰ってくれるのだろうか。
考えていたら、ただの美少女が右手の人差し指でゆっくりと天を指した。皆の注目を集めた後に、今度はゆっくりとその指をエルフ達の方に向けた。何してるんだ?
「突撃」
おい、やめろ。
「せ、戦闘準備! 魔法障壁を展開しろ! 向こうは誤解しているようだから傷つけずに捕縛するんだ!」
「無茶ゆーな! ぐはぁ!」
ミトルがスライムちゃん達にやられた。なぜ、スライムちゃん達は、ただの美少女の言うことを聞くのだろうか。同じ幼女だから?
魔法障壁も案山子達や植物チームの突撃により破壊された。ジャイアントマンティスの攻撃よりも強いようだ。
うざい奴とすぐ泣く奴は木の上から石を投げている。その石がエルフに当たると爆風で吹っ飛んだ。どう見ても魔道具だ。
ウェイトレスは影移動しながら一人ずつエルフの意識を奪っている。頼むから目を潰すなよ。
ただの美少女は木の枝の上で両足を肩幅に開き、両手を胸の前で組んで、背筋を伸ばしている。凛々しい。でも、枝の上でやると危ないぞ。
あっという間にエルフ達が負けた。エルフって本当に弱いな。
エルフ達がスライムちゃん達に捕縛されてから、四人が私のもとに集まってきた。さあ、説教の時間だ。
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