睡眠妨害
ミトルの作った微妙な味の夕食を食べて、これからのことを考えた。
明日には長老たちが起きるらしいので、そこでウル達の処遇が決まると思う。それはいいのだが、世界樹を枯らしたのはウル達なのだろうか。魔眼でもそこまでは情報を見ていない。もし、魔王様がしたことなら、冤罪で罪をかぶることになるのか。それはそれで寝覚めが悪いな。魔眼は頭痛がするから使いたくないし、魔王様にはこちらからは連絡が取れない。どうしたものかな。
そんなことを考えていたら、念話用の魔道具が震えだした。隠密モードという状態で、音が鳴らさず震えることで念話が来た事を伝えてくれる。便利な魔道具だな。ちょうど周囲には誰も居ないので、魔王様と話をしておこう。
『やあ、フェル、今、大丈夫かい?』
「はい、魔王様。問題ありません」
『遠くから色々見ていたよ。なにか変なことに巻き込まれたね』
「はい。人族とエルフ族の問題だと思うので、関わり合いになりたくないのですが、罪を着せられそうになりましたので対処しました」
一応、魔王様に確認しておこうか。長老たちとすり替わっていた件についてはウル達の罪だが、世界樹の件はもしかしたら関係ないかもしれないからな。
「確認したいのですが――」
『聞きたいことは分かるよ。世界樹の件だね? うん、僕がやったよ。ちょっとお願いしたら、こんなことになっちゃってね』
原因は魔王様だった。しかし、お願いをした? 誰にお願いをしたのだろうか?
「そうでしたか。ちなみにどなたにお願いをされたのですか?」
『うん、まあ、知り合いに』
怪しい。女の勘がそう囁いている。まさか、あの嫌な奴に頼んだのだろうか。いや、詮索は不敬な気がする。すごく気になるけど我慢だ。
『世界樹は元に戻すつもりだけど、そのためには世界樹に行かなければならないんだよね。フェル、悪いんだけど、世界樹に一人で行ける状況を作ってもらえるかい。フェルが行けば、僕も合流出来るから』
「元に戻せるのですね。承りました。元に戻せることを交渉材料にしてなんとか一人で世界樹に行けるようにします」
『うん、大変だけどよろしくね。じゃあ、また』
念話が切れた。しかし、また、魔王様に無茶ぶりをされた。どんどん難易度が上がっているような気がするけど、期待に応えられるだろうか。
いや、応えるのだ。それこそが我が使命。でも、ちょっとストレスが溜まる。ミッション達成したら、ニアの料理で豪遊しよう。あと、リンゴを三つは食べる。楽しみだ。
「フェル、そこに誰かいるのか?」
ミトルがやってきた。私の話し声が聞こえたのだろうか。
「盗み聞きは良くないぞ」
「いや、この場で聞こえない訳ないだろ? 魔王様、とか聞こえたけど」
「魔王様に世界樹を元に戻せないか念話で聞いてみたのだ。どうやら戻せるようだぞ。だから私を世界樹に一人で行かせろ」
交渉スキルがないから、ストレートに伝える。色々面倒だからではない。
「マジか! とはいっても、俺には権限がねーな。明日、長老たちに言ってみてくれ。ちなみに隊長に話すとややこしくなるから言わない方がいいぞ」
「それは何となくわかる。わかった、長老と対面した時に話そう」
さて、夜食として弁当を食べてから日記を書いて寝よう。
「すまないが、一人になれる場所はないか? これでも乙女なんでな。昨日は千年樹の牢だったが、今はウル達が使っているから私は使えないだろ」
「おう、隊長がフェル用の部屋、というか家を用意しろと言っていたから用意したぞ。家には入らないが、一応見張りとして俺が外にいるけどな」
「わかった。それで構わない」
案内された場所はデカい木だった。木に扉が付いていて、開けると内部がくり抜かれていた。窓も何もないが、中は明るい。部屋の天井に生活魔法の光球が自動展開されているようだ。
ベッドとか机とかあるし、浴室のようなものもある。かなり快適そうだ。しかし、いきなり待遇が良くなったな。他の奴らは外で野宿だし、良いのかな?
聞いてみると、問題ないらしい。長老達を助けてくれたお礼と、手荒なことをした謝罪を含めているとのことだ。なんと隊長の奴がそう言ったらしい。ディアから以前聞いた、ツンデレという奴だろうか。でも、女性のツンデレしか需要がないと言っていた気がする。どうでもいいけど。
「では、ありがたく使わせてもらう。扉に鍵を掛けるが構わないな?」
「ああ、構わねーよ。何かあったときは大声で呼ぶから」
そう言ってミトルは外に出て行った。
というわけで、扉に鍵をかけて、お弁当を食べて、日記を書いた。あとは体を洗ってゆっくり寝よう。
目が覚めた。まだ夜中だと思う。だが、外が騒がしい。私の睡眠を妨げるとは何事だ。焼くぞ。
「フェル! 起きろ!」
ミトルの声だ。いったいどうしたのだろうか。
「襲撃を受けてる! 大丈夫か!」
「私は問題ない。今、扉を開ける。ちょっと待て」
まだ、下着姿だ。執事服をきちんと着ておこう。
着替えが終わったので、扉を開ける。ミトルはなんだか疲れている顔をしているな。
「無事だったか! まだよくわかんねーが、どこからか襲撃を受けてる! 気を付けろ!」
「少し落ち着け。なんの襲撃だ? 魔物か?」
「分かんねー。ただ、離れた場所から魔法を撃たれているみたいだ。何人か負傷した」
うーん、考えられるのは、ウル達の仲間か。一応確認しておくか。
探索魔法で反応を確認しよう。人型に限定すれば、魔物には反応しないよな? よし、やってみよう。
反応があるのは1km先だぞ。もしかしてそこから魔法を撃っているのか? 威力も精度も下がると思うが。
「ここから西に1km離れた場所に人型生命体の反応が二つある。エルフである可能性はあるか?」
「1km? いや、ないな。ここは森の最奥だ。ここを中心に半径10kmは誰も住んでいない」
じゃあ、決まりだ。それにしてもすごいな。これほどの長距離から魔法を放って届くとは。
「多分、ウル達の仲間だと思う。ここから西1km地点に二人いるぞ」
「そうか! よし、隊長に伝えてくる!」
「頑張れよ。私はまた寝る」
夜更かしは体に悪いし、お腹が減る。空腹に耐えられず、こんな時間に食事をしたら体型が大参事だ。気合を入れても多分太る。襲撃より恐ろしい。
「なんでこの状況で寝るんだよ!」
「これはエルフ達とウル達の問題だろ? 私は関係ないぞ」
「いや、ウル達を捕まえたのはフェルだろ。その報復ならフェルが狙われるぞ」
「手柄を譲ろう」
「いらねーよ!」
面倒だな、と思った瞬間、視界の隅で何かが光った。ミトルを突き飛ばし、私は横に飛びのく。ギリギリ躱せた。服は無事だ。
躱したはずなんだが、ちょっとビリビリする。雷槍とかの魔法かな。遠距離なのにあの威力と命中率か。すごいな。
「なにすんだよ!」
突き飛ばされたミトルが立ち上がりながら文句を言ってきた。助けてやったのに。
「魔法で狙われていたから突き飛ばしてやったんだ。ありがたく思え。あと、余計なことに巻き込むな」
はやく寝たい。もう、家に簡易結界を張って寝てしまって良い気がする。うん、そうしよう。
「おいおい、今の魔法はアンタを狙ったんだ。巻き込まれたのはエルフの兄ちゃんのほうだよ」
なんだか筋骨隆々な男が近寄ってきた。なんと上半身裸だ。人族の法に触れないのか? 一応、ハーネスとか言うのをつけているから大丈夫なのか。そうだ、こういう奴の呼び方を本で読んだことがある。確か、マッチョだ。
しかし、どう見てもエルフじゃないな。もしかしてウル達の仲間か? 1km先に居たと思うんだが、転移でもしたのだろうか。もう一人は……まだ、1km先だな。
「ああ、そうなのか。だが、私は部外者だ。今の一撃は見逃してやる。もう寝るからあとは勝手にやってくれ」
「アンタ、ウルを子供扱いするぐらい強いんだろ? 俺とも遊んでくれよ」
断る。それに私はもう眠い。そうだ、はぐらかして寝てしまおう。
「分かった。準備してくる。待っていろ」
そう言った後、部屋に戻った。時間指定はしなかったから、ずっと待っているがいい。
扉を閉めて、鍵をかけて、結界を張って、準備万端だ。そうだ、音も遮断しておこう。うるさいのは安眠の敵だ。
さあ、寝よう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます