長老
牢屋を出てから結構歩いた気がする。まだ着かないのだろうか。
「どこまで行くんだ?」
「あと少しだぞ。この先に永遠の園と呼ばれている場所があるんだよ。そこに長老たちがいるんだ」
ミトルが言った通り、少し歩くと開けた場所に出た。この辺りには木がないため、かなり明るい。動物とか妖精とかが周囲に数匹いるようだ。茂みに隠れて出てこないけど。あとで捕まえたい。
開けた場所の中央が少し盛り上がっていて、そこに三人ほど座っていた。あれが長老たちだろうか。
「長老、世界樹を枯らしたと思われるやつらを連れてきた」
座っている三人に隊長のやつが言葉を発したので、あいつらが長老で間違いないようだ。
私と捕まっていた三人は長老たちの前に突きだされた。その後、隊長に「そこに座れ」と言われた。地べたに座るのか。椅子とか用意してほしい。汚れるだろうが。また、スライムちゃんたちに洗濯を頼もう……もしかして、私もお金を取られるのだろうか。
長老たちは座っている私や三人をゆっくりと見渡してから、ぼそぼそ話し合った後に、目をつぶった。寝たんじゃないだろうな。
「世界樹に捧げよ」
真ん中の長老がそう言った。
ちょっと待て。なんというスピード裁判。本人確認や起訴内容の説明すらない。
「おい、発言もさせてもらえないのか?」
「不要じゃ。儂にはわかる。お前が世界樹を枯らした」
わかってない。いや、わかっている上でそういっているのか?
「長老、そりゃーいくら何でも駄目じゃないか? 証拠なんかないんだぜ?」
ミトルが援護してくれた。おお、チャラいけど、いい奴だ。ディアを紹介してやろう。
「ミトル、長老の決定に逆らうとは何事だ。長老が世界樹に捧げろと言ったのなら、我々はそれに従うべきだろう」
隊長のやつは駄目だな。いつか殴ろう。
「【ミトル】じゃったか? 【この者は魔族】で敵対者じゃ。【滅ぼすべき】じゃろう?」
いま、言葉に思考誘導の魔力を乗せたな。ご丁寧に名前と対象と行動の全部に乗せた。普通名前くらいなのに。でも、おかしいな。エルフ同士でそういうことするものか? それとも長老が駄目なやつなのか。一応、長老たちをよく見ておこう。
……わからなくなってきた。他のエルフたちは長老たちに違和感を持っていないのか? さっきの思考誘導といい、長老たちに騙されているのだろうか? エルフって賢いイメージがあるんだけどな。
「そう、かも、しれませんね」
ミトルは抵抗に失敗したか。魔力差があるんだろうな。なんだか面倒なことになりそうだ。
「お前は魔族で【世界樹を枯らした張本人】じゃ。【罪は償う】べきだろう?」
魔族であるこの私に思考誘導をしてきた。魔界のやつらに話したら爆笑ものだぞ。鉄板間違いなしだ。魔界に帰ったらみんなに教えよう。
「張本人ではないから罪を償う必要はないな」
長老が少しひるんだ。抵抗されるとは思わなかったのか? なぜ魔族の魔力に勝てると思ったのだろう? 五十年くらい魔族と接触が無かったから、魔族の強さが良くわかっていないのか?
「魔力を制限する手錠はきちんとつけさせているのじゃろうな?」
長老が隊長のやつに問いかけていた。なるほど、これをつけて魔力を抑えているから魔族に思考誘導が出来ると思ったのか。浅はかすぎる。
「え? はい、間違いなくつけさせています」
隊長の奴は不思議そうに答えていた。そりゃそうだ。脈絡が分からない質問だ。だが、私には分かる。
「たとえ魔力を抑えられていても、お前程度の魔力で私に思考誘導が出来るわけないだろう?」
周囲にいるエルフ達が、何を言っているのだろう、という顔でこちらを見た。長老たちが思考誘導をしているのを知っているのか反応を見たかったが、その反応を見るとエルフ達は全員知らないようだな。ということは、エルフ達全員が長老たちに騙されているのだろう。
「思考誘導? 長老、いったい何をしたのですか?」
「騒ぐな。【魔族の言っていること】など、ただの【戯言】だ」
長老達も頑張っているようだが、思考誘導されていることを知らないのと知っているのでは抵抗の力も変わるぞ。隊長やミトルは抵抗した。ほかにもちらほらと抵抗しているエルフがいる。
隊長のやつが長老を不思議そうに見つめた。
「今の言葉にも思考誘導をしたようだ。なぜそのようなことをするのですか?」
「落ち着くのだ。今はこの魔族の処遇を決めるのが先じゃ」
その話題そらしは苦しいと思うぞ。
「わかりました。あとで理由を聞かせてもらいます」
エルフって馬鹿なのか? いや、隊長が馬鹿なのか? なんで思考誘導されていない言葉に従うんだ。
「仕方がない、魔族が世界樹を枯らした者だということを最初から説明しよう。まず、世界樹を枯らしたといえる証拠はない。じゃが、数日前に世界樹の場所を聞いた魔族がおり、捕まえた人族たちが魔族の仲間だと言っておったろう。それに枯らしたのは魔族じゃとも」
「世界樹の場所を聞いたのは確かに私だが、それは観光のためだ。その前に捕まえた人族の証言について正当性を示せ。なんでその証言を信じた」
「尋問したからじゃ」
苦し紛れに嘘をついただけじゃないか。いや、違うか。もしかしてこいつらは……。
「決まりじゃ。世界樹への道を開くのじゃ」
なにも決まってない。それなのにエルフ達は準備している。もうやだ、こいつら。
しかし、よく考えると、この長老たちが世界樹に行きたいのだろうか? それで私を有罪にしようとしている?
なんというか、もう面倒になってきた。暴れては駄目と言われているけど、エルフたちが暴れるのは問題ないはずだから、色々とぶっちゃけよう。
「その前に一ついいか?」
長老が三人ともこちらを見つめた。エルフ達も私を見つめている。
「いいじゃろう。遺言ぐらい聞いてやる時間はあるぞ」
長老たちは口元が笑みを浮かべている。殴りたいけど我慢。
「なんでお前ら人族なんだ?」
さて、どうなるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます