カマキリ
エルフの村の入り口に着いたようだ。
地理的にはソドゴラ村の南西かな。村の入り口はどうやら魔法で隠蔽しているようで、普通に見た限りでは木が乱立しているだけのように見える。入り口から入っても、木と木の間に空間魔法が展開されていて、決まった木の間を通り抜けていかないと戻されるようだ。なかなか凝っている。
「道順を覚えても無駄だぞ。村への道はエルフ以外が迷うようにできているからな」
定期的に空間魔法が展開される場所が変わるのだろうか。ただ、私の魔眼でみると、どこに魔法が展開されているのかがわかる。エルフってプライドが高そうだし、言わない方がいいよな。
「そうか。なら覚えないでおこう」
覚えなくても見ればわかるから嘘は言っていない。魔眼は便利だな。
入り口からしばらく歩くと、エルフ達の村に着いた。
ここで待て、と言われたので、ちょっと辺りを見渡してみる。建築技術はよくわからないが、木そのものをくり抜いて家にしているのだろうか。あと、植物の葉やツル等で作られているように見える。頑丈そうには見えないが、魔力でコーディングしているからそれなりの強度はありそうだ。
村の外には、ほとんどエルフはいない。私を連行しにきたエルフだけだ。家の窓からちっこいのがこっちを見ているようではあるが。
キョロキョロしていたら、ミトルに話しかけられた。
「相変わらずのんびりした場所だ。フェルもそう思わねーか?」
「初めて来た場所だからなんとも言えないな。お前のその言い方だと、久しぶりに来たのか?」
「ああ、おれは森の外で暮らしているからな。フェルを連行するために呼び戻されただけだ」
エルフはほとんど森から出ないとか聞くが、こいつは違うのか。他のエルフみたいに引きこもりじゃないけどチャラいからな。こう、なんというか、ミトルは残念な感じだ。
待っていたら、エルフ達がでかい虫を何匹か連れてきた。カブトムシだろうか。堅そう。あと、紐でカブトムシと荷台がつながれている。もしかして荷台に乗るのだろうか。
「ここからはコイツに乗って行く」
人族達が馬を使うのと同じぐらいの感覚なのかな。初めて乗るから楽しみだ。
遅い。明らかに歩くスピードよりも遅くなっている。あまり揺れないのは評価できるが。
「遅くないか?」
「そういう乗り物だしなー。でも、コイツ等は便利なんだぜ。大人しい割にはかなり強いから弱い魔物とか寄ってこないし」
「魔物なんかいるのか?」
「長老たちが住む場所は森の最奥だからな。その辺りは結構魔物が多い。主にトレントだけどな」
なんでも、カブトムシたちは樹液を吸うからトレント達が怖がって近づかないらしい。トレントって木の魔物だけど、樹液ってあるのか? そういえば、トレントは魔界にもいるけど、杉と檜のトレントは人気がある。いや、無いのか? 一部の魔族や獣人には、親の仇のように狩られるからな。なんでだろう。
いや、それよりも何でそんな危ない場所に長老たちは居るのだろうか。つらい環境に喜びを感じるタイプか。業が深いな。
魔界もつらい環境だが、魔族も獣人も居たくて居るわけではない。魔界しか場所がなかったからだ。なんとか少しずつでも改善していきたいな。まずは食糧問題を解決しなければ。
カブトムシの運ぶ荷台でのんびりしていたら、高速で近づいてくる奴に気付いた。念のため、探索魔法を展開していたのだが、エルフのようには思えないし、殺気が強い。なんだろう。
「おい、なんか来るぞ。知り合いか」
「あー? げっ!」
いきなりミトルは剣を抜いた。どうした。
「隊長! カマキリ野郎です!」
「戦闘準備!」
エルフとは思えないほどの機敏な動きで剣を抜いたり、弓を構えたりしている。速く動こうと思えば動けるんだな。
「魔法障壁を展開しろ! 魔導矢の使用を許可する! 構えろ!」
個人じゃなくて部隊全体を覆った障壁か。なかなかすごいな。だが、私がその障壁の外に居るのは何故だろうか。別にいらないけど。
「邪魔だ。早く障壁の内に入れ」
私の居た位置が悪いのだろうか。最初から入れてほしいのだが。仕方ないので障壁の内側に入った。おお、弾かれずにちゃんと入れた。弾かれたら蹴っ飛ばして障壁を壊していたぞ。
「突撃して来ます!」
でかい。ジャイアントマンティスとか、そういう魔物だろうか。木と木の間を器用にすり抜けてくる。というよりも木が足場になっているようだ。巨体に似合わず高速で突撃してきた。
金属同士がぶつかったような高い音が短く聞こえた。なんとか障壁で防いだようだが、あと数回食らったら破られるな。
でも、障壁にぶつかった衝撃でカマキリがひるんだ。お返しとばかりに弓を構えていた奴らが矢を放っている。風を纏っている矢だ。しかも当たるとちょっとした爆風を生み出してる。これはうざい。カマキリは嫌がって木を登って行ったようだ。でも、木の上からまだ狙っているな。
「次は魔法を合わせるぞ! ミトル! 足止めしろ!」
「へーい。いっちょやってやりますか!」
もしかして、ミトルは強いのか? どう戦うのか楽しみだな。見ていると、ミトルが障壁の外にでた。囮だろうか。
すこし待っていると、上空からカマキリの鎌がミトルに迫った。ミトルは紙一重でそれを躱し、持っていた剣で五回、カマキリの胴体を突いた。効いていないと思うが、なにかのおまじないだろうか。
「十秒しかもたねーぞ!」
「風斬を発動させろ!」
数人のエルフが同時に魔法を発動させた。風の力で物体を切る魔法だな。おお、風が複数合わさって威力が上がった。でも、そのスピードじゃ、躱されるのではないだろうか? と思ったら、風の刃がカマキリを細切れにした。
キモイ。原型を留めていない。しかも、まずそう。良いところがない。
しかし、不思議だな。あの速度の魔法なら、カマキリは躱せたはずだ。なぜすべて受けたのだろうか。
「周囲警戒!」
近くに魔物はいないか警戒しているのか。なかなか慎重だな。
「戦闘解除! 負傷者はいないな?」
エルフ達は問題ないことを隊長に報告していた。ノストもそうだったが、こっちの隊長も統率スキルとか持っているのかな。なかなかの手腕だ。それにエルフは集団戦が強いのかな。結構、連携がうまい気がする。
「どうよどうよ、俺、恰好良くね?」
「剣で突いたのは見た。あれが恰好いいかと聞かれれば、普通、としか答えられないな」
「わかってないなー。俺が足止めしたのに」
別に分かりたくない。だが、カマキリが風の魔法を躱さなかったのは、お前のおまじないが原因か? もしかして持っている剣に秘密があるのかな。ちょっと魔眼で見てみよう。
レイピアという種類の剣だな。数秒しか効果はないが、相手の動きを鈍くするスキル、愚鈍が付いている。それが理由か。
「なるほど、その剣が足止め出来た理由か。良い剣だな。エルフ達と対峙した時は剣に突かれないように気を付ける。カマキリみたいになりたくないからな」
あの魔法じゃ体に傷はつかないと思うが服は破れる。乙女としてそれは避けたい。
なんだ? ミトルがこっちを驚いた顔で見ている。
「どうした?」
「いや、なんでもねーよ。フェルはすげーんだな、と思っただけだ」
知ってる。だが、褒めても何も出さんぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます