ソドゴラ村

 

 冒険者ギルドで登録も終わったので散策に戻ろう。


 ギルドの左隣は村長の家だな。それに残りの家を見た限りだとただの民家だ。勝手に入るわけにもいかないよな。用もないし。よし、村の周囲を見てみよう。


 見た限り、村の東側は畑、だろうか。なんか食べられそうなものがある。勝手にとって食べたら怒られるよな。興味はあるがやめておこう。畑のさらに東側に南北にのびる川があった。北から南に流れている。北の方に山でもあるのだろう。


 南側は村の入り口と、昨日歩いてきた道がある。入り口の看板には「ソドゴラ」と書かれていた。村の名前だろうか。センスないな。


 入り口を出ると、東西に道が続いている。南西の方から歩いて来て村に着いたから、このまま東に行くと森を抜けられるのだろうか。まあ、今のところ用はないな。


 村の西には森があるだけだ。ただ、切り株がある。西に向かって開拓しているのだろうか。西に行き過ぎるとエルフに怒られると思うのだが。


 魔界のダンジョンにも樹海フロアとかあるし、開拓の方法を学んでおこうかな。それとも開発部にまかせるか。もう少し信用を得られたら魔界から誰か呼び出そう。


 村を色々と見て回ったらもう夕方だ。宿屋に行ってみよう。腹減った。


 宿の建物に入る。食堂にはニアがいた。


「お、帰って来たね、部屋の準備できてるよ!」


 ニアがニコニコしながら話しかけてきた。


「食事はどうする? 部屋に持っていくかい? 一階で食べてもいいけど、食堂兼酒場なんでちょっとうるさいかもね」


 静かに食べたいが、人族との交流も必要だろう。それに食事中に部屋で怪しげな事をやってるとか思われたくない。


「食堂で食べる。用意してもらえるか」


「あいよー。いま準備するからちょっと待っておくれ」


 ニアは食堂の奥に引っ込んだ。あっちは厨房なのかな。なんとなくいい匂いがする。村長の家で食べた食事のように期待できそうだ。


 結構な時間が経っているが、魔王様はどうされたのだろう。連絡がない。いくら何でも寝すぎだと思う。


 料理を待っていると、村人達が集まってきた。男ばっかりだな。


 私を見ると一瞬驚くが礼を言いに来た。うん、魔族だからと言って敵対するような奴はいないようだ。慣れてくれればほかの魔族を呼んでも大丈夫かな。


「はい、おまたせー。ワイルドボアのステーキだよ!」


 知ってた。


 だが、ここでげんなりするのは早計だ。昼にも食べたが、私が料理したワイルドボアとは味が違うからな。もう一度食べ比べてみよう。


「いただきます」


 ……美味い。なんだこれ。明らかにワイルドボアじゃないだろ。私の知っているワイルドボアと同じ名前の別の動物がいるのか?


「これ、ワイルドボアなのか。いままで食べたワイルドボアとは味が違う。明らかに美味すぎる。その前に、おかわり」


「ははは、気に入ってくれて何よりだ。でも、正真正銘ワイルドボアだよ。あと悪いけど、おかわりは別途お金を払ってくれないとうちも厳しいよ」


 うーむ、ニアに秘密があるに違いない。よく見てみよう。


 ……ニアの料理スキルがレベル四だった。天才か。人族のことは良く知らないが、こんな村にいていいのか。


「これだけの腕を持っているのに、なんでこの村に住んでいるんだ?」


「住めば都だからね。夜盗には襲われたけど、ここはここで良いところなのさ。いまさら、別のところに行く気はないよ」


 周囲の奴らも「よく言った!」とか「俺もだ!」とか言って盛り上がってる。そういうものか。私も魔界をそんな風に感じることがあるのかな。


「どっかの王子との逃避行なら、旦那を捨ててどこへでも移住するけどね!」


 ここは笑うところだろうか。いや、王子と逃避行なんてあるわけないから、不可能を前提とした高度な惚気か? 迷っていたが、周囲が笑ったので、笑って良かったようだ。乗り遅れた。旦那のロンは涙目だ。


 ステーキと一緒に出てきたパンとスープも絶品だった。私が今まで食べていたものは何だったのだろう。魔族がこれを食べたら魔界に帰りたくなくなるな。私はすでに帰りたくない。


「ごちそうさま」


「あいよ、お粗末様」


 まったく粗末ではない。むしろ豪華すぎる。あとで料理の仕方を教えてもらおう。


 その後、部屋の場所を教えてもらった。もう、準備も出来ているからいつでも使っていいと言われた。早速、部屋に行ってみよう。


 部屋に入ると、魔王様が椅子に座っていた。いつの間に入られたのだろうか。全く気付かなかった。


「遅かったね」


「魔王様、いつの間にこちらに?」


「うん、フェルの知り合いの魔族と言ったら案内してくれたよ」


 なんだ、ニア達も言ってくれればいいのに。


「魔王だと怖がらせるかもしれないから、ただの魔族として名乗ったからね。フェルも人のいるところでは気を付けて」


「承りました。お食事はどうされました? これから頼みますか?」


「いや、大丈夫だよ。ワイルドボアを捕まえて食べたから」


「そうでしたか。一度この宿の食事を食べてみてください。なんかこう、次元が違います」


「へぇ、それは楽しみだな」


 いま気づいたが、この部屋にはベッドが一つしかない。魔王様にベッドを明け渡して私は床で寝るか。ワラを持ってこよう。


「じゃあ、フェルはこの部屋を使ってくれていいよ。僕は奥の部屋を使うから」


 この部屋は二部屋あるのか、珍しい間取りだな。でも、そのおかげでベッドを使える。


「僕はまだ起きているけどフェルは疲れただろう? 先に休んでくれていいからね」


「わかりました。では、失礼してお先に休ませて頂きます」


「うん、おやすみ」


「おやすみなさいませ」


 魔王様は奥の部屋に行かれたので、就寝の準備をする。


 部屋の隅には木材とカーテンによる仕切りがあって、その中はお湯がシャワーとなって出る魔道具があった。床は水捌けが良いような形になっている。お風呂につかることはできないが、シャワーは浴びれるな。よし、がっつり洗おう。


 ……さっぱりした。後は日記を書いて寝るだけだ。今日は日記に書くことがいっぱいだ。超大作になる予感がする。


 あれ、魔王様のことがあまり書けないな。まあ、たまにはこんなこともあるか。


 よし、しっかり睡眠をとって、明日も頑張ろう。

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