雑貨屋とギルド

 

 女神教の拷問は終わった。くそう、いつかし返す。


 気を取り直して散策を続けよう。


 教会の左隣は雑貨屋かな。「ヴァイアの雑貨屋」と看板には書いてある。ヴァイアというのは人の名前かな。お金は持っていないが入ってみよう。


「たのもー」


「いらっしゃ……え?」


 店の一番奥にあるカウンターに座っている女性がいた。なんか固まっている。


「も、もしかして、ま、魔族の人?」


「魔族のフェルだ。しばらく村で厄介になる。よろしく頼む」


「え、あ、はい。て、店長のヴァイアです。こ、今後ともご贔屓に。あ、あの、今日は、あ、ありがとう」


 ヴァイアと名乗った女性は、緊張しているのか、ちょっとどもり気味だ。


 見た目は私と同じぐらいの十代後半か。もしかして同い年かも。肌はちょっと浅黒い感じで、黒い髪を三つ編みにしているな。ものすごく女の子っぽい。特に胸が。


 ……ちょっと待ってくれ。コイツ、私より魔力があるのか。魔族より魔力を持っている人族ってなんだよ。なんでその魔力で夜盗に負けた。


「もしかして、先祖に魔族がいたりするのか?」


「え? せ、先祖も人族だよ」


「いや、その魔力おかしいだろ。魔族より魔力があるってどういうことだ?」


「私に聞かれても……」


 不思議だ。これだけの魔力があって雑貨屋をやっているのか。人族で魔法使いというのは結構良い職業だと聞いたことがある。雑貨屋ってそれよりも儲かるのだろうか。


「それだけの魔力があって、魔法を使う仕事をしないのか?」


 そう聞いたら泣かれた。


 落ち着け私。クールになれ。そうだ、まず、泣き止んでもらおう。


「泣かないでくれ。私が泣かせたみたいじゃないか」


 いや、私が泣かせたのか?


 これが地雷というやつか。特定の地面を踏むと雷が落ちる魔法だった気がするが、話題にしてはいけないこと言ってしまうのも地雷と言うらしい。本に書いてあった。それはともかく、どうしよう?


「わ、私、魔法が使えないの……が、頑張ったんだけど、ぜ、全然使えなくて」


 なるほど。それは私のせいじゃない。よかった。自分の不甲斐なさに泣いたのだ。決していじめてはいない。


 しかし、それだけ魔力があって、魔法が使えないというのはありえるのだろうか? ちょっと気になるのでよく見てみよう。


 ……激レア駄目スキル「魔法行使不可」を持っている。これじゃ、いくら頑張っても魔法は無理だ。でも、「魔法付与」と「瞬間スキル発動」のスキルを持ってるじゃないか。「魔道具使用不可」のスキルは持っていないんだし、その場で魔道具を作って魔法を使えばいいのに。意味がわからん。


「魔法が使えなくても、魔道具を作って使えばいいだろ」


「ま、魔道具なんて作れない……」


 そんなわけないだろ。何言ってんだ、コイツ。いや、なんか事情があるのかな。おばあちゃんの遺言で魔道具作っては駄目とか。


 とりあえず、いきなり泣いたのは私のせいでないことは確認できた。そろそろ別のところに行こう。


「えーと、邪魔したな。金が手に入ったらまた来る」


「え、あ、うん。あ、ありがとうございました?」


 コイツに魔法を使えない話は禁句だな。うん、一つ賢くなった。さあ、次に行こう。


 雑貨屋の左隣は、冒険者ギルドか。


 冒険者ギルド。本で読んだことがある。冒険者ギルドに登録すると、先輩の冒険者に絡まれるのだ。それをぶちのめすのが王道らしい。私は人族と友好的な関係を結ばないといけないので、ぶちのめすのは論外だ。登録をしなければ絡まれない。完璧な理論だ。


 登録はしないし、特に用があるわけでもないのだが、ギルドがどういうものなのか知っておきたいな。よし、入ろう。


「たのもー」


 扉を開けて中に入ると、女性が一人だけカウンターに座っていた。しかし、反応がない。


 一心不乱に手を動かしている。よく見えないが編み物をしているのだろうか。針とかがカウンターに置いてある。


 こっちを見てくれないな。もしかして、気づいていないのか。無視されると、ちょっと傷つくのだが。


「たのもー」


「はい? あ、いらっしゃい。冒険者ギルドにようこそ!」


 ようやく私に気づいて顔を上げてくれた。よく見たら村長の家で報奨金のことを話してくれた女性だ。


「もしかして冒険者登録?」


「いや、先輩冒険者にからまれるから登録はしない」


「お、通だね。でも、私以外だれもいないから大丈夫だよ」


 そうだな。だれもいないな。ということは絡まれないのか。冒険者なら人族のお金を稼げるかもしれない。登録しようかな。


「うちのギルドに所属している冒険者っていないんだ。今、冒険者登録するなら、先輩になれる特典があるよ!」


 それならいいかもしれない。お金を稼いで、そのお金で買った食糧を魔界に送れば食糧危機も回避できるし、人族の役に立てば、魔族のイメージが良くなるかもしれない。それにギルドにはギルドカードというものがあって身分証になると聞いたことがある。この村を拠点にするつもりだが、ほかの集落にも行く可能性があるしな。身分証があれば色々行動しやすいかもしれん。


「よし、それなら冒険者登録をお願いしたい」


「あ、本当に? じゃあ、この書類に記入をお願い。ちなみに二年間は解約できないよ。解約したら違約金を取るからね」


 なんだ、そのシステム。


「別ギルドへの重複登録を利用したギルドカードの不正が広まったことがあって、その防止対策なんだ。違約金が払えないと鉱山で働かせたりするから注意してね」


「わかった。解約はしないから大丈夫だ」


 受付女はにっこり笑うと、書類を渡してきた。


「代筆する?」


 甘く見てもらっては困る。毎日、日記を書いて練習しているのだ。これぐらい余裕だ。


 書類にスラスラと記入する。名前と種族と生年月日だけだったが。書き終わった書類を受付女に渡した。


「……はい、大丈夫だね。じゃあ、これで登録するよ。ギルドカードは明日に渡すから。詳しい話は明日するから時間のある時に来てね」


「よろしく頼む」


 これで私も冒険者だ。そしてこの村なら私が先輩冒険者だ。冒険者登録するやつに絡むぞ。私を倒せないと冒険者と認めん。

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