雷神トルリマのシンボル

 雷神教はこの世界で広く信仰されている宗教だ。雷神トルリマを信仰する一神教である。

 そのシンボルは磔刑に使用される十字架の形に似ていた。これは地面に突き刺されたつるぎを表している。

 これには次のような逸話がある。


 昔、ここは争いの絶えない世界だった。今でも争いは絶えないが、その頃は方々で争いが起こっていた。

 ある国のある戦争で、正直者の兵士が戦っていた。彼は故郷に妻子を残して戦に身を投じていた。異教の国との戦いだった。

 彼の所属している部隊は日に日に消耗していった。異教徒たちは、彼らには考えつかないような、人の道を外した戦略で彼らを追い詰めていった。走行している内に彼らの部隊は壊滅状態に陥った。彼は生き残りの一人として、逃走を図る。国にさえ辿り着ければ助けてもらえる。そう信じて彼は故国までの道のりをひたすらに走っていた。

 しかし、後ろから異教徒の大軍が彼を追ってきている。空には暗雲が立ちこめ、時折雲の中でチカチカと光が瞬いていた。敵はどんどん距離を詰めてきている。

 いよいよ追いつかれそうになった時、彼はやけになって、持っていた剣を大地に突き立て、こう叫んだ。

「雷神トルリマよ、もしあなたを奉ずる私を憐れんでくださるなら、この剣に力をお貸し下さい。この者たちを蹴散らす力をお与え下さい。あなたが守る国に私が帰れるように」

 叫んでいる間にも異教徒たちは迫ってくる。彼を囲み、その首を刎ねようと剣を振り上げようとしたまさにその時だった。

 突き立てられた彼の剣に雷が落ちた。異教徒たちはその衝撃で皆死んでしまった。祈りを捧げていた彼だけだが奇跡的に無事だった。彼は焦げた剣を持って国に帰り、雷神トルリマが彼を守り給ったことを話して聞かせ、僧侶になってトルリマの奇跡を広めることに残りの生涯を捧げたのであった。


 故に、雷神教を信仰するものは、付き立てられた剣のモチーフのものを身につけている。

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