異端審問
※作者注……ここで言う異端審問とは、現代日本で言う捜査活動全般を指す。異端とは犯罪のことを言うこともある。
異端審問官ジル・ハドソンは緊張していた。若手審問官24歳。春の部署異動で、第7審問課に配属となった。異動先でもパートナーがつく。その相手は、マーサ・キャロライン。苛烈な女傑として名を馳せている審問官で、以前いた審問3課でも、マーサの噂は聞こえていた。曰く、血も涙もない女。異端よりも異端。オーガも裸足で逃げ出す人でなし。
そんな人と、私のような未熟者が組んで無事で済むのだろうか。異動したての若者に、鬼婆を押し付けようと言う魂胆なのではないか。
そんなことを考えると気が重くてたまらない。でも、断ることもできない。これでもし不利益を被ることがあるのなら、その時は上に直談判しなくては。
「おはようございます」
少し早めに出勤する。早すぎただろうか。まだ誰もいなかった。
「おはよう」
いや、いた。奥から小柄だが威圧感のある体格の女性が出てくる。無愛想だ。金色のショートヘア。目は氷のような青色。まるで北の水晶窟で採れた水晶みたい。
「新人?」
「本日から配属になりました、ハドソンです。あなたは?」
「私はキャロライン。マーサ・キャロラインよ」
この人が。そう知った途端、胃のあたりがキュッとなった。確かに、厳しそう。些細なことで何を言ってくるかわからないような、そんな神経質さを感じてしまう。それは噂からの先入観によるものかもしれないけど。
「私が指導につきます。ひとまずついてらっしゃい」
つっけんどんに言われて、ジルは少々身構えながらもそのあとについて行った。
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