ファンタジー習作

北の水晶窟

　水晶は最も身近な神秘の媒体だけど、産地によって特性が微妙に異なるって知っている？　一番有名なのは、北の水晶窟で採れた水晶は呪いに効果的ってこと！　まあ、知ってるよね。

　呪いに効果的って言うけど、別にその水晶をこっそり枕の下に置かれたからって呪われたりするわけじゃない。そこまで行くとそれは水晶ではなくて、水晶の姿をした「なにか」になってしまう。わかるかい？　石の妖精とかそう言うものだよ。

　単に、魔法を使おうとする意思と相性が良いんだろう。だから、北の水晶窟産だからって必ずしも魔法や呪術の道具にしなくたって良いんだ。ペーパーウェイトにしたって良い。ああ、そうそう。見てこれ。水晶のペーパーナイフ。姪がプレゼントしてくれたんだ。これも北の水晶だけどね。

　とは言え、僕がこれで誰かを呪おうとしたらできてしまうのが、水晶というか、石の恐ろしいところさ。他の自然のものではこうは行かない。

　人のあらゆる願いを聞き届けようとしてしまう、そう言う真面目なやつが住んでるんだな、北の水晶窟には。

　ほんとに真面目だよ。見てこの封筒。このナイフで開封したんだけど。

　うん、そう。手紙の中に呪いが仕込まれててね。その術式までばっさり切って無効にしてくれたんだ。可愛がって使うと応えてくれるんだよ。真面目だろう？