鬼火の棺

 北の水晶窟で採れる水晶は魔法を長持ちさせてくれる。そういうわけで、鬼火用のランタンにぴったりなのだ。ランタン用の鬼火は、種火から摘み取ってしまうといずれ消えてしまう。その「いずれ」は三十分かもしれないし、一時間かもしれない。下手したら一週間かもしれないのだけど、このランタンに入れておけば、まるで保存したかのように燃え続ける。


 鬼火だって生きているのに。花を摘むのと同じくらいの、可哀想なことだ、と私は言ったことがある。けれど、ふつうに火を起こすよりも、鬼火を使った方が、すこぅしだけ、周りのことがよく見えるのだ。

 なんとなく、潜んでいるものが見える気がする。だからみんな、暗い夜道を歩くときは、鬼火のランタンを使いたがるのだ。


 ひどいことをしてごめんね、と言いながら、私は種火からランタンに火を摘み取る。入学祝いにもらった、水晶のランタン。これが、ほんのちょっぴり鬼火を長生きさせてくれると知ったのは使い始めてからしばらくのこと。

 道具屋に聞いたところ、北の水晶窟から採れた水晶で作ったのだと言う。あそこの水晶は呪いや魔法にぴったりだからね、と店主は言った。


 今日も帰りは遅くなる。学校の種火置き場から、ごめんねと言いながら、私は鬼火を水晶の棺に納めるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る