水晶と真珠の櫛
水晶の産地を聞くだけで、贈り主の意図がわかってしまうものだ。北の水晶窟なら呪いか、よほど真剣に魔術的な課題をこなしたいか、になる。
私は妻になる女性に贈られた髪飾りを摘んで眺めている。一番仲の良かった侍女がくれたのです、と彼女は嬉しそうに言う。ほら、この水晶。ひんやりとした感じがわたくしの目と同じでしょう? と無邪気に笑った。
彼女が寝ている間に私はそれを拝借した。真珠と水晶をちりばめた、櫛と呼ばれる髪飾りで、水色を基調としている。彼女の目がアイスブルーだから、それに合わせたのだろう。よく見ている。これで髪を結えば、さながら雪の精といったところか。
私は宝石商をしているような人間なので、石を見るとつい産地や大きさ、価値などを推し量ってしまう。これから妻の宝物になるであろうこの櫛にも値踏みの視線を向けた。
真珠は小さいながらも粒ぞろい。控えめに泣く少女の涙のようだ。
真珠を手に入れる方法は二つある。一つは貝に産ませること。多くはこの方法で手に入れる。
もう一つは人魚から貰い受けること。
人魚の涙と言われることも多いが、事実人魚由来の真珠も多い。人魚は決して教えてくれないので、誰もどうやって人魚がこの美しい粒を作り出しているのかしらない。
この櫛にあしらわれているのは、人魚の真珠に見えた。
(何を悲しんでいたのかな)
櫛をくるりと回す。次に水晶。水晶も産地によって使い道が違う。北の水晶窟なら呪いに向いている。ひんやりとした氷を思わせる、透明な鉱石。
水晶の産地当てなどするものではないが、直感が私にこれは北のものだと言っていた。呪われるのでは彼女ではなく私であるとも。
(不幸にしたら許さない、か)
幼い友情なのか、八つ当たりの嫉妬なのかは知らない。私は櫛を箱に戻した。明日のパーティにつけていくわ、と今から張り切っているのだから。どこかに放り出してなくそうものならさめざめと泣かれてしまう。
きっと美しいに違いない、彼女の涙。真珠も水晶も、足元に及ばない。
だからそれまでせいぜい煌めいていると良い。
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