ファンタジー習作

目箒

あなたに恨まれる方法を知っている

 あなたに恨まれる方法を知っている。

 水晶の装幀が美しい辞書がその術を教えてくれる。北の水晶窟で採掘された素材は呪いに向いているのだが、あなたはそんなこと知らない。そもそも、水晶の産地すら知らないに違いない。


 あなたに恨まれる方法を知っている。


 辞書に載っている、呪いの言葉。

 曰く、

「親切面して楽しいですか? 人を憐れむって、とっても気分が良さそうですものね?」

「あなたが正義だと思っているものは、岩の下でないと暮らしていけない虫を直射日光で殺すようなものですよ」


 あなたに恨まれる呪いの言葉。私の親切を無碍にするなんてと蔑みの目をさせる言葉だ。

 水晶の表紙を撫でる。ひんやりと冷たい。呪うための語彙を教えてくれる辞書。

 ぱたりと閉めればそれらの言葉は消えてしまう。

 次の言葉を吐き出す機会を待っている。


「根性の悪い子ですね」

 私に似て。角をつつ、となぞり、持ち上げる。表紙の端を囓った。もちろん、砕ける筈もない。がり、と音を立てて、歯が痛くなるだけだ。薄荷とは違う、冷たい心地だけ舌先に残る。


 あなたに恨まれる方法を知っている。

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