第11話

 ハートライズ家の屋敷の中で最も大きな部屋。それが、ここ応接室だ。ハートライズ派の貴族が集まり会議をするときに使用されるこの部屋に、俺達5人は呼ばれていた。勇者という立場上、第三者的な観点から意見を仰ぎたいと言う形で依頼を受けたのだ。楕円形の大きな漆喰のテーブルに、20人くらいの貴族がグルッと座っており、俺達もその中に混じり会議に参加することとなった。


 中央に座っているのは、議長のハートライズ・デ・ゼムライド。現ハートライズ家当主にして、ヤンブラシティにおける蛮族追放を目指す革新派の党首。ミゼラの祖父でもある男だ。相変わらず他の貴族よりも深みのある威厳を醸しており、ゼムライドがいるだけで場の空気がピリッと締まる。


 今日は、ゼムライドだけでなく、オータム王国公式の勇者アーレン率いるパーティメンバーまで同席しているのだから、会議の緊張感は相当なものになることが予想された。


「それでは、本日の議題を。ギルファー副議長、説明してくれ。」


 ゼムライドから呼ばれた男は、革新派No.2。ゼムライドの右腕のギルファー副議長だ。ゼムライドとは対象的に柔和な顔立ちをしている。ガラシャから事前に聞いた情報では、派閥内での人気も高く、次期党首の呼び声も高いらしい。


「皆様ご存知のとおりとは思いますが、先日こちらにいらっしゃいますゼムライド様のご令嬢ミゼラ様が、蛮族の現族長レッドトロルから、トロル殺害の罪で起訴されました。結果は有罪。執行される刑は、レッドトロルとの結婚。こちらは、刑の名を借りた政略結婚というのが実際のところとなっています。」

「議会はどんな状況だ?」

「はい。基本的に刑を免れることはできないため、革新派内でも保守派への鞍替えする貴族が出てきている状況です。ミゼラ様がレッドトロルと結婚することになれば、蛮族追放の看板を掲げている我々の立場が弱体化することを見越した動きと思われます。」


 出席している貴族たちからの質問によどみなく答えるギルファー。相当できる男である。


「して、対応策はあるのか?」


 ゼムライドから核心的な質問が飛ぶ。貴族たちの視線が、一斉にギルファーへと向けられる。


「先程も申し上げたとおり、刑を免れるすべはありません……。」


 ドンッ!!と、ゼムライドが机を拳で叩いた。貴族達は、頭を下げ、ゼムライドと目を合わさないようにしている。


 その凄み、に一切臆することなく、ギルファーは淡々としている。ゼムライドの顔を見ても、顔色を一切替えない。


「あくまで現時点では免れるすべが無いと申し上げただけでございます。」

「なら、なにか、あるというのか!? 娘……、ミゼラが、あの蛮族との結婚を免れる方法が!」

「ありますとも……。いなくなってもらえばよいのです。レッドトロルに。」


 それは、事実上レッドトロルを殺すと言っているようなものだった。他の貴族達は当然ながら、ゼムライド自身も困惑の色を隠せない。


「ギルファー! 貴様本気で申しておるのか?」

「はい、本気です。」

「貴様、有能かと思っておったがそれを飛び越えて大馬鹿だったとは! 」


 ゼムライドは、右手で頭を抱え大きくため息をついた。


「魔物とのトラブルを、殺して解決できたのは大昔の前時代的で野蛮な方法だ。法が整備された現代では、たとえ相手が魔物だとしても、理由なく殺すことは断じて許されん。」

「おっしゃるとおりです。」

「では! なぜ! 殺すなどという愚策を申したのだっ! 」

「理由がないのなら、つくればよいのですよ、ゼムライド様。明後日がレッドトロルの命日です。」

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