第10話

「ククク……あーっはっはっは!! こいつは傑作だなあ、え? サンドラ。」


 ミゼラの刑執行の知らせを聞いたアーレンは、ほら見ろと言わんばかりに腹を抱えて笑い転げていた。


「僕の忠告を聞かずに独善的な正義感で人助けをした結果がこれだよ。このボケがっ! あの女が本当のことを言っていたら、僕の信用も傷つくことになっていたんだぞ?!」


 確かにそのとおりだった。ミゼラが、俺がトロルを殺したことをいっていれば、勇者のパーティが今回の事件の発端だと世間から叩かれていただろう。今のところ、トロル殺害をしたのはミゼラの指示だということになっているのだ。もしミゼラが、本当の実行犯が俺だと公表すれば、俺はトロルに殺される前にアーレンによりこの世から消されるだろう。


 怒りのおさまらないアーレンが目配せすると、デカムスがうなずき、俺の前に仁王立ちをした。デカムスは、大きく息を吸い込み、

 いつものようにバカでかい声を張り上げ


「せいやあっ!!」


 気合十分な正拳突きを、俺の腹にお見舞いした。内臓が弾けたんじゃないかというくらいに体は、くの字、におれまがり、吐き出した大量の胃液が大理石の床を汚した。


「で、確認。お前はこれからどうするつもり?」


 這いつくばっている俺の髪の毛をアーレンがひっつかむ。ダメージが大きく、体が動かせない。息をするのもやっとで、ヒューヒューと喉で返事をするので精一杯だ。


「シカトこいてんじゃねえぞお!! 無能な『めしつかい』の分際で厄介事ばっか持込みやがってよおおっ! 反省の色が見えねえっ!」


 俺は髪の毛を掴まれたまま、地面に勢いよく顔面を打ち付けられる。目の前に火花が散り、喉の奥からは血の味がした。鼻血がつまり、呼吸がさらに苦しくなる。


「いいか、これからお前は僕の言うとおりに動くんだ。今後の貴族共の動きはガラシャに情報収集させてあるからほぼ予測できている。」

「何をすればよろしいんでしょうか……。」

「それはな……」


 アーレンは、ぺろりと舌なめずりすると薄気味悪い笑みを浮かべた。

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