第7話
「君は……、昼間の??」
俺が聞き返すと、彼女は嬉しそうに頷いた。ヤンブラシティにくる途中、トロルに襲われていた女性。トロルから逃げるのに無我夢中だったので顔をしっかり覚えていたわけではないが、改めて見ると全くもって整った顔だたちをしていた。本当ならその美貌と甘い香水の香りに酔いしれたいところだったが、俺にはそれどころではなかった。
握手をスルーされたアーレンが、鬼の形相で前を向いて笑っていたのだ。公衆の面前で恥をかかされたことに、プライドの高いアーレンが腹を立てていないはずはなかった。
他の人の目もあるので今何かを仕掛けてくることはないだろうが……、覚悟はしておく必要がありそうだ。
「いろいろお話ししたいことはあるのですが……、ここではなんですので、本日は皆さま私の屋敷にお泊りください。最大限の誠意を持ってもてなさせていただきます。」
彼女はそう言った後、しまった、という顔をして口に手を当てた。
「申し訳ありません、名乗るのが遅れました。私はこのヤンブラシティにあるハートライズ伯爵家の長女、ハートライズ・レ・ミゼリと申します。ミゼリとおよびくださいませ……。以後お見知り置きを。」
動作一つ一つが気品にあふれ、身分の高さを感じさせる立ち振る舞いだ。キチンと教育を受けているのがよくわかる。
ミゼリの誘いに、パーティを代表してアーレンが答える。
「ミゼリさん、でしたね。泊めていただけるのはありがたいのだけど、はてさて……、どういう経緯なんでしょうか?」
その質問に、俺の心臓は再びドキドキと激しく稼働し始めた。俺がミゼリをトロルから助けた話をアーレンが聞けば、さらにアーレンの怒りは高まる。それだけはなんとしても避けたい。
が、他にうまい理由を思いつくはずとなく、ミゼリは一部始終をアーレンへ話し、俺への感謝をこれでもかと述べた後、付いてくるよう促した。
はっきり言って、かなりまずい状況と言っていい。幸い、ハートライズ家の屋敷にいるうちはアーレンから『こうげき』を受ける心配はないはずだ。その間にアーレンの怒りが少しでも治ってくれるといいのだが。
俺は、上を見上げて夜空の星に強く願った。
その願いは、翌日、あっさりと破られることになる。
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