第8話 王都―6
「スキル、か」
「そうだ。魔力も並外れているのだろう」
ゼノンが睨んでくる。
どうして、敵意を感じるほどの視線を、こいつはぶつけてくるのだろうか。
そんなに、敵が強いのだろうか。
レベル96の俺よりも、か。
腹をくくって、スキルが使えないことを伝えてみる。
別に、隠すほどのものでもない。
城を襲った連中を超えればいいんだろ、超えれば。
「実は、スキルは何一つ持っていない」
「……まさか、スキルの創造ができないとでもいうのか。魔力を、このように」
ゼノンは右手で握った剣を差し出す。
すると、淡い紫色の光が手全体を纏い始めた。
光は、地を這う炎のようで穏やかに流動している。
「魔力は自由に形を変えることができる。例えば、剣に魔力を絡ませ、刃に定着させれば」
紫色の粒子が刃に憑依するように流れ、剣身を覆うと色が赤く染められていく。
「色が変化し、武具強化スキル『猛攻の気合』となる。これで、刃は欠けることがない。それに、切れ味も増している。他にも」
刃に纏う魔力の色が変わり、今度は黄に変色する。
「これは『堅守の気合』だ。剣の強度が、魔力消費量に応じて増していき、敵の攻撃から身を守ることができる。これらは訓練すれば、誰でも習得できる戦技だ。城の兵士や狩人は誰かに教わって、スキルを身につける。しかし、俺はこれらの上をいくスキルを、独学で身につけた」
染まっている黄色が、徐々に濃くなっていく。
魔力の性質を変化させ、より強固にしている。
「これが『堅守の意志』だ。このように、魔力を自由自在に操って、スキルを独創することも……」
俺は「もういい」と片手を上げて、言葉を制した。
「そんなことは知っている。俺だって魔力はあるし、操れる」
さっき上げた手に、紫色をした魔力を顕現させる。
ゼノンは眉間にしわを寄せて、腕を広げた。
「なら、なぜしない? スキルも創造できるだろう」
「……スキルの創造ができないんだ。不可能なんだよ、俺は」
自分の持っているスキルを確認することができる。
ステータスを表示すれば、レベルの下にスキルが載っていることは知っているのだ。
それに、創造の仕方も知っている。
森を脱出して二日目の野宿の際、レイスに食材調達だと伝えて、川岸に移動した。
さっさと魔物を片して、不審に思われないほどの時間内に、スキルの創造を行う。
魔法系の創造が簡単な部類に入るため、まずは『フレイム』を創造しようと試みた。
記憶喪失であっても、スキル創造の感覚はあったため、おそらく以前に『フレイム』を創造したことがあるはずだ。
その感覚を信じて、手のひらに魔力を集中させる。
あとは色を変え、燃え上がるような炎をイメージすればいい。
だが、これが上手くいかない。
最初は、自分が下手くそなんだと思い込んでいた。
スキル創造は大抵、教師などが側に付いて教えるものだ。
だから翌日、レイスに「炎魔法を見せてほしい」と偽って、手法を目に焼き付けた。
町に到着したその夜、再び人目のない場所で『フレイム』をイメージした。
レイスがやったように、魔力を手のひらの一点に集中させ……。
しかし、結果は前回と同様、散々だった。
できるはずだ、と何度、自分を急かしたことか。
ステータスを確認しても、スキル欄に何も記されていない。
挑戦したのは『フレイム』だけではない。
身体が覚えているイメージを、とにかく創造してみた。
ゼノンがやったように、武器に魔力を纏わせるスキル。
身体能力を向上させるスキル。
時間を忘れるほど集中しすぎて、背後にレイスが立っていることも視界に入っていなかった。
「何してるの?」
「……!? な、なんでもない」
「汗だくになってるのに、なんでもないの? ふふ」
「いやぁ、強力なスキルを身につけようと思ってさ。独創してたんだよ」
息が切れるほど、必死に言い逃れようとした。
レイスは不審に思っただろうが、「そっか」と微笑んで宿屋に帰っていく。
俺も、レイスの後ろを付いていった。
諦観して、体を休めることを選んだのだ。
俺は……超人だ、世間から見れば。
超人といっても、人を超える人間なのか……人を超える化け物なのか。
確かに言えるのは、俺に常識は当てはまらないということだ。
力を得た代償に、一日が経過するたびにレベルダウンし、スキルの所持が不可能というものかもしれない。
別に、スキルなんて無くてもいいんだ。
力があれば、なんとでも。
そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせた。
「神の力を宿した人間、だからだろうな」
ゼノンに三日目の夜のことを伝えると、そう返事がきた。
「単純な攻撃力に頼るしかないというわけか」
「ゼノン、安心してくれ。俺には、力がある。どんな敵が相手でも、倒す力がある。スキルがなくとも戦えるんだ」
「……エランの全力に期待だな」
日が沈み終わった時間帯、ゼノンは教会に体を向けた。
「少なくとも、エランは俺たちに力を貸してくれるということは分かった」
「一生分の報酬がかかっているんだ。こんな簡単な仕事、すぐに終わる」
「……だといいがな」
周りが薄暗く、ゼノンの表情が見えにくい。
声色に自信が感じられなかった。
こいつ、見かけによらず、気が弱いのか。
それはそうと。
「なあ、こんなのんびりしていていいのか」
「ああ、今はルサンチマンの目撃情報を部下が収集している。奴の居場所が判明するまで、こっちは準備あるのみだ。さ、いよいよ飯の時間だぜ」
沈んでいた声の調子が、急に跳ね上がり。
「王女様の料理が食べられることを光栄に思えよ、エラン」
ゼノンは喜びを隠そうとしない顔で、俺に指を突き付けた。
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