第540話
ああ、なんか久々だなぁ~、この感覚。
やっぱり、強敵が居てこその冒険だよなぁ。
と前方に展開するロック・コング4匹に、即座に対応しながら、シミジミとと実感する海渡。
そう、最近は強敵が居ないので、少々異世界ライフのスパイスが欠けている感じがしていたのだ。
それを補う為の、レーシングカートであったり、バイクであった訳だが。
折角だから、あのお山の大将は、魔法やレールガンによる力業ではなく、純粋に刀で対応したい。
海渡は、久々の強敵に心を躍らせつつ、周りの雑魚ロック・コングを殲滅していく。
「ふっふっふ、愉しいな。」
とニヤけながらも、油断なく弟子ズの状況は確認している。
それから暫くの間間引きに専念していたが、強烈な魔力の高まりを感じて見ると、ステファニーさんが、魔法を発動していた・・・お山の大将に向かって。
そしてステファニーさんの魔法が、ボスゴリラと3匹のハーレム要員を含む岩山全体を包み込み、一瞬で氷結した。
4匹のロック・コングごと、1つの完全に固まった氷となり、マップ上の赤い点が消えた・・・。
「あ!」と小さい声を上げ、呆然と立ち尽くす海渡。
海渡が再始動した時、既に全ての戦闘が終わっていた。
「・・・・・・」
「いやぁ~、ゴリラ、結構強かったっすねぇ。」
と爽やかな笑みを漏らすラルク少年達。
そんなみんなの中で、海渡は非常に複雑な心境であった。
まさか、ステファニーさんが瞬殺してしまうとは・・・と。
また他のホールで強敵が居るかもしれないと、気を取り直して出発したのだった。
その後、4つ程のホールで戦闘を繰り返したが、あのロック・コング程の魔物には出会えず、微妙な気持ちのまま夕方になり、第15階層の渓谷の拠点へと戻って来た。
鑑定の情報によると、グランド・リザードマンの肉は美味しいらしい。
早速、ミケらに数匹解体してもらって、BBQにする事にした。
海渡は付け合わせのサラダや、パン等を用意しつつ、解体されたグランド・リザードマンの肉を焼き肉用にスライスしていく。
肉は、脂肪の少ない赤身で、全体的な見た目は牛ロースといった感じである。
「お、この感じなら、ローストビーフにしても美味いんじゃないか?」
と海渡は、焼き肉用のスライスを他に任せ、せっせとローストビーフ(まあグランド・リザードマンの肉なので、ビーフじゃないのだが)の下ごしらえに入る。
タイムの様な香りのするタイム擬きなどのハーブをキッチンテーブルに並べて、肉のブロックの表面にオリーブオイルを薄く塗り、そこに塩と胡椒を擦り込んで行く。
更に粉末状のハーブを擦り込んで、タイム擬きを添え、手製のダッチオーブンに玉葱やジャガイモやニンジンと並べて入れて炭に火を入れた。
BBQ側の用意が終わったので、網の上で肉を焼き始め、夕食を始める。
程よく焼けた肉を口に入れてみると、カモフラージュ・カウの様な柔らかさは無いものの、脂身が少ないだけに、サッパリとした味で、実に良い味。
獣臭の様な物もなく、肉らしい味と言うべきか。
ちなみに、鑑定情報曰く、ロック・コングも美味しいとあったが、何か今日は食べる気にはならず、アイテムボックスに死蔵したままである。
BBQを初めて20分ぐらい過ぎた頃、丁度ローストビーフが出来上がる時間となり、ダッチオーブンを火から降ろした。
蓋を開けると、湯気と共に、肉の良い匂いが漂う。
直ぐに、まな板の上に、肉を移動して、薄くスライスして行く。
中まで熱は入っているが、ピンク色の良い色が付いていて、実に美味そうである。
全員の分を皿にに分けて、お好みでソースを選んで貰う様した。
海渡は、まず、わさび醤油で1口食べて見る事にした。
「美味い!! これローストビーフ、大正解。」
「兄貴、それわさび醤油っすか!? 俺も」
とラルク少年もわさび醤油で食べて、
「あ!美味いっす! これ焼き肉よりローストビーフの方が美味いっすね!」
と全員がローストビーフに群がる。
結局、4kgぐらいのブロックで作ったローストビーフでは足りず、追加で5kg×2回作り、それも綺麗に食べ尽くされたのだった。
食事の後片付けも終わり、今日の1日を振り返る海渡。
頭に巡るのは、やはり心残りなボスゴリラの事である。
果たして、あのゴリラはどれくらいの実力を持っていたのか?
確かに、魔物によって、弱点と言える属性があるので、そこを的確に突けば、大抵の魔物は大幅に難易度が下がる。
久々の強敵だっただけに、一度も剣を交えずに終わったのが残念でならなかった。
しかし、このダンジョンはまだまだ奥が深そうなので、まだ見ぬ強敵が現れる可能性は高い。
「まあ、終わった事をグジグジ考えてもしょうがないな。この先の強敵に期待しよう。」
と頭を切り替えて、眠りに就くのだった。
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