第539話

 それから暫く走り、ホールの手前でバイクをソッと止めて、収納した。

 通路からホールを伺うと、まぁ、何と言う事でしょう。

 完全に一つの街の様なグランド・リザードマンの集落。


 何処から持って来たのか、掘っ立て小屋の様な物が沢山建っていて、グギャーグギャーと何か話していたりする。

 向こうの方では、何か揉め事でもあったのか、殴り合いの喧嘩をしていたり、反対側では、グギャギャと笑いならが、その喧嘩を見ながら何かの肉を食ったりしている。


 よし、行くか。


 全員に目で合図をして、一斉に飛び出し、ステファニーさんが、景気付けの最初の一発とばかりに、スチームボム(水蒸気爆弾)を発動し、その衝撃波で半径20m程のエリアは阿鼻叫喚の地獄絵図になった。

 それを合図に、全員が『身体強化』、『身体加速』、『クロックアップ』を発動して、刀や剣、槍、ハンドガン等で無双を開始する。

 一瞬遅れで、こちらに気付いたグランド・リザードマンが武器を手に取り、又はファイヤーボールを撃ったりしているが、こちらの動きに付いてこれず、逆に仲間に誤爆して、被害を拡大している。


 海渡も、愛刀を使い、サクサクと首を切り落としつつ、収納して行く。

 どうやらグランド・リザードマンは火魔法しか使えない様で、身体強化は使えるが、動作はそれ程速く無い。

 弟子ズ達もジャクリーンも、全く不安要素無く無双している。

 グランド・リザードマンの約2/3を倒した辺りで、他のグランド・リザードマン達は、次々に逃げ出して行き、ホールが静かになった。


 中央付近には、泉と言うか、水の噴き出す穴があり、ここから生活水を得ていたらしい。

 海渡達は、残った死体を収納しつつ、その水場の傍にあった一際大きな・・・おそらく集落の長がいた小屋の中を確認し、武器庫を発見した。

 まあ、海渡達にしてみれば、大した物も無く、最高でミスリルの剣や、黒魔鉄の大剣辺りが大事そうに置いてあった。


「うーん、なんか、パッとしない武器庫だね。態々持って行く程の物じゃないな。」

 とちょっと悲しい気持ちになる海渡。


「まあ、ドンマイやな。」

 とステファニーさんが、海渡と肩をポンポンと叩く。


「まあ、一般の冒険者であれば、これはこれで結構な宝なんですけどね。

 でも、ここのグランド・リザードマンのレベルと数を考えると、割に合わないですね。」

 とミケも苦笑いしている。




 と言う事で、また再びバイクで走り出す。

 ルート上に、先程の集落から逃げ出したグランド・リザードマン数匹が居たが、海渡達の接近をいち早く察知して、脇道へと逃げていった。


 次のホールまで、ドクロマークは3箇所あって、最初の一箇所は天井から、丸鋸の様な高速回転の刃がシャリンと音を立てて落ちて来ると言う、恐ろしい罠だった。

 次の罠は、センサーを超えた5mの区間の壁の穴から、無数の矢が通路に向かって飛んで来る、串刺しゾーンであった。

 3つ目の罠は、強酸性の噴射と、エグい物だった。

 まあ、どれもセンサーさえ回避すれば、発動しないので、問題は無い。


 順調に距離を伸ばし、2つめのホールで、オークの集落を撃破し、美味しいお肉を沢山補充する。

「こいつらって、このエリアより、上のエリアの方が生活しやすそうなんだけどなぁ・・・。」

 と不思議に思う海渡だが、まあダンジョンの不可解さを追求してもあまり意味が無いと、すぐに割り切る。


 ちなみに、この集落の『お宝?』もショボい物ばかりだった。


 オークのホールを抜け、進んでいるが、先程から、チョイチョイ、デビル・ラットと言う、秋田犬サイズの鼠の魔物を見かけている。

 鑑定結果では、肉はまあまあ美味いらしいが、見た目がドブネズミを大きくした様な雰囲気で、とても食べる気にはならない。

 だから、海渡らが近づくと、どうせ逃げるので、追わずにスルーしている。

 おそらく、このデビル・ラットなんかが、グランド・リザードマンやオーク達の主食なのかも知れない。


 次のホールは、ロック・コングと言う、一言で言えばゴリラの魔物であった。

 こいつは、土魔法で岩を飛ばす攻撃が得意で、身体能力もオークの比ではなく、ヤバい。

 砲丸投げの鉄球を握りつぶせる程の握力や、その肩から生えてるのは、人族の大人の胴体ですか?と聞きたくなる程の太さの腕。

 代わりに、足は短いのだが、そのくせ動きがヤバい程に素早い。


 群れのレベルは大体、90~110辺りで、一般の冒険者だと、全滅を覚悟する集団だろう。


 ボス猿と言うか、ボスゴリラが中央に積み上げられた岩山の天辺に鎮座し、横には3匹の雌ゴリラが付き添い、毛繕いや食べ物の世話をしている。

 うーん、ハーレム野郎かよ。

 ちなみに、この一際巨大なボスゴリラは、推定身長5mで、レベルが125とダントツだった。


「あ……気付かれた」

 と通路の影から様子を伺っていた俺達と遠くの岩山の山頂にいるボスゴリラの視線が、交差した。


「グォーーーー、ウッホウホ、グホー!」

 と吠えて、俺達の方を指差すボスゴリラ。


「よし、奇襲はもう無理だから、行こう!」

 と全員に声を掛け、通路から飛び出す。


 手下のロック・コング達が、棍棒や丸太、大剣や、長槍等を手にグホグホ言いながら突っ込んで来る。


「速い! みんな気を付けて!」

 と大きな声で注意を促す。


 どうやら、ロック・コングは身体強化と身体加速が使えるらしく、雑魚相手と侮るとヤバい。

 特に弟子ズとジャクリーンはちょっと心配。

 幸い空は飛べない様だが、土魔法のロック・バレルや、アースランスを飛ばして来るので、安心は出来ない。


 海渡は、愛刀で次々に撃破はしているものの、雑魚でさえ頭は切れるらしく、仲間数匹で連携を取り攻撃してくるので、これまでに無く、非常に面倒な相手と認識する。

 棍棒でさえも、そこらのオークやゴブリンが使っている棍棒とは訳が違い、刀で斬るのが、非常に困難である。

 しかし、斬り倒してしまうと、棍棒が消える事から、どうやら本人の魔力で作り出した得物と推測された。

 つまり、魔力で具現化された武器と言う事だろう。


 ほう・・・面白い武器を使うんだな。


 と内心で感心していると、視界の外の右斜め後方から、ヤバい気配と言うか、殺気の様な物を感じ、思わず3m程瞬間的に飛んで避けると、ドゴンと凄まじい音と共に、床面に穴が開き、破片が飛んで来た。


 えええ? 何?狙撃?


 気配で察知した方向を見たら、さっきまで、ボスゴリラの周りで、甲斐甲斐しく世話を焼いていたハーレム要員の雌ゴリラ3匹がそれぞれ、長い筒の様な物で狙いを付けて、狙撃していた。


『おーい、スナイパー居るから、気を付けろ!』

 と海渡は全員に伝心で注意を促しつつ、岩山目掛け、アイスドリルミサイルを10発発射した。


 シューーー ドドドッコーーーンと中央にある岩山に着弾した炸裂音が鳴り響いたが、岩山も雌ゴリラもボスゴリラも無傷であった。

 しかも、いつの間にか、大きな盾の様な遮蔽物まで出来ている。


「えーー!? 何て頑丈な岩山!」

 と思わず驚きの声を上げる海渡。


 今まで、これで壊せなかった物も敵も居なかったのだが、全く削れもしなかったのは、初めてである。

 ワイバーンの鱗でさえ、貫通するのに・・・。


『おい、あの岩山、ヤバいぐらいの堅さだぞ! とにかく、雑魚を減らしてしまおう。

 狙撃に気を付けろよ!』

 と再度注意喚起を伝心で伝え、数を減らす事に専念する事にした。


 しかし、ヤバい とは思いつつも、何故か喜びで口角が吊り上がって行く海渡だった。

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