第529話

 異世界11ヵ月と21日目。


 一夜明け、朝のルーチンワークを消化して、ジェロニモさんが案内人を連れて拠点へとやって来た。


「おはよう。調子はどげんね?

 ダンジョンば、案内する奴を連れて来たばってん、大丈夫ね?」


「おはようございます。

 ええ、みんな調子良いですよ?

 本日は宜しくお願い致しますね。」

と挨拶をする。


「昨日言うたごつ、俺なぁ他ん仕事あるけん。

 こいつらば、身代わりに置いて行くけん、好きに案内ばさせんね。

 投げっぱなしで悪かけんど、上手くつこうちゃって。

 ああ、こいつは、クラリア、こっちはドナサン。

 2人とも、トップ・シーカーやけん、間違いなかよ。」

とお連れの2名を紹介された。

 シーカーとはこの国の所謂ダンジョン専門の冒険者を指す名称らしい。


 男女1名ずつの2名は、名前を呼ばれ、ダルそうに、片手を上げて挨拶して来た。


 引き合わせるだけ引き合わせ終わると、颯爽とジェロニモさんは去って行き、海渡達は、各々自己紹介を済ませた。


「えっと、クラリアさんにドナサンさん、朝食は済んでますか?」

と聞くと、


「ああ、俺は起きたばかりやけん、まだ食っとらん。

 朝一でジェロニモに叩き起こされて、寝ぼけたまんま、無理矢理拉致られたけんね。」

と眠そうなドナサンさん。


「うちも、同じやけん。

 と言うか、前の日に判っとるんやったら、前の日にちゃんと言っとかんね!

 まったく、ジェロニモはぁ・・・はぁ~」

とクラリアさんも同様にため息。


「あらら・・・それはすみませんでしたね。

 じゃあ、眠気覚ましに、朝食食べてから行動しましょうか。」

と海渡達は、一旦拠点の食堂へと案内して、席に着かせ、ホットケーキと、フレンチトースト、ベーコンエッグ、サラダ、カフェオレのセットを出してやった。


 すると、ホットケーキに掛けられたメイプルシロップの甘い香りに、それまで半分塞がっていた瞼が、ガバッと全開になり、

「な、なんね?これ!! 何かメッチャよか匂いがするばってん・・・」

「こ、これ、食べてよかと?」

と見るからにテンションの上がる2人。


「どうぞ、その為に出したんですから。

 ささ、冷めない内に!」

と勧めると、2人とも、ホットケーキを切って、ホークで突き刺し、ガブッと行った。


「「!!!!!!」」


 声にならない声を上げ、その後はバクバクとホットケーキ食べ、フレンチトーストに入った。


「「これも!!! 滅茶美味かばい!」」

と声を揃える2人。


「他の種類も食べてみます? ホットサンドとかありますが?」

と言うと、ウンウンと頷くので、ホットサンド、オークカツサンドを2皿出すと、これまたバクバクと完食。


 そして、思い出した様に、カフェオレを飲んで、


「はぁ~、これも何か良い香りして、美味かねぇ~。」

「ほんなごつ、うち、こんな美味しい朝ご飯、初めてばい。」

と満足そうな顔で、蕩けている。


「最初は、朝叩き起こされて、ジェロニモめ!って思うとったばってん、よか仕事ば回してくれたばい。

 でかした、ジェロニモ!!」

と最初と一転して、早々に立ち去ったジェロニモさんにGJを送るドナサンさん。


「ほんなごつ、よか仕事やったばいw」

と遣りきった感を出しつつ、微笑むクラリアさん。


 ちなみに、この魔族の2人だが、ドナサンさんは浅黒い肌に白い歯がキラリと光るワイルド感溢れる滅茶イケメン。

 クラリアさんは、同じく茶褐色の肌に整った精悍な美形で、何よりも、プロポーションが凄い。

 所謂、グラマラスな出る所は出ているが、全体的に引き締まった、グラドルが逃げ出す様な体型である。

 パーティーを組んでいるらしいが、特に恋人関係では無いらしい。


「あ、いや、食べるのが仕事じゃないので、そこは間違わないようにお願いしますね?」

と海渡が念を押すと、2人とも「そやったなw」と言いながら爆笑していた。



 食後少し休憩を挟み、2人の案内でダンジョンへと出発した。

 とは言え、ダンジョンの入り口(と言うか第13階層への階段)は、ここから南へ100km程離れた場所にある都市の中にあるらしい。

 魔族は自分達で空を飛べるので、もっぱら飛んで行くのが普通らしい。

 しかし、飛行速度は結構遅く、時速100kmぐらいが最大速度と言う事だった。


「あー、なるほど100km先まで約1時間か。

 面倒だから、飛行機で行きますか?」

と言って、海渡がヒラメ君0号機を取り出すと、


「なんね?これ? と言うか、何処から出したんね? 収納スキルとか?」

と驚くドナサンさん。


「ああ、俺達、アイテムボックスって言うスキル持ってましてね。

 大きな物でも生きてる生物以外なら、何でも収納出来るんですよ。

 そして、これは飛行機と言う空飛ぶ魔道具です。」

と説明すると、大変に驚かれた。


 そして、驚く2人をヒラメ君0号機の中に案内し、教えて貰った方向に向け、飛び上がったのだった。



 大した距離ではないので、数分のフライトだったが、その速度に大きく驚いてくれた。

「いやぁ、驚いたばい。

 こげな速か時間でつくとやったら、態々自分の魔力ばつこうてまで飛ぶ必要なかね。」

「ほげなこつ、楽でよかばいね。(本当に、楽で良いよね。)」

と上機嫌の2人。


 2人にこの国のインフラや魔道具や時前の飛行速度、物品の運送等を聞いてみて判ったのだが、飛行速度は人によって多少の差があるものの、先に教えて貰った通り、大体が最高で時速100km程度。

 しかも、それなりに魔力が必要なので、通常のクルージング速度だと時速60~70kmぐらいだそうだ。

 速度を必要としない物は、馬車で運搬し、急ぎの物は、常設型ゲートを使うらしいが、魔力コストが馬鹿にならないので、第1階層の新鮮な魚介類の運搬に使う程度なのだそう。

 魔道具は上下水道やトイレの汚物、コンロ、冷蔵庫、照明等、生活に必要な物はある程度開発されているらしい。

 安価な通信機の魔道具は無く、使い捨てに近い信号を発する物はあるらしいが、各都市が危機的状態に陥った緊急時に限って使う様になっているので、通常時の伝達事項等は、伝令が飛ぶ事になっている。

 ダンジョンの階層故に、季節等は無く、1年中ほぼ同じ気候が有史以来続いているらしい。

 つまり、ほぼ昨日を同じ天候と言う事。

 じゃあ、雨は降らないの?と聞くと、雨はほぼ夜の間にしか降らないのだそうだ。

 嵐も台風も無く、1年を通し、安定した農耕が出来るとの事。


 なるほど、そう言うメリットはデカいな・・・。


 しかし、ダンジョンの奥で、独自に発展して来た魔族だが、驚く程に地上と同じ常識が通用するのが面白い。

 例えば、日付や1年の日数や1日の時間数、他にはそれらの単位等。




 辿り着いた都市の城壁の外にステルスモードで着陸した。

 住民らを驚かせない様にと言う配慮である。


 外に出て、2人の案内で、城壁の中へと入って行く。

 この都市は、ダンジョンの『入り口』(正確には第13階層への階段)の周りにポツポツと建物が建ち、集まった都市で、下層からの物流の中継基地になっている。

 街は栄えていて、人も多く、それに比例するように屋台や露店も栄えていた。


 海渡達は、魚の塩焼きを頬張りながら、ダンジョンの階段へと進んで行ったのだった。

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