第509話

 異世界9ヵ月と14日目。


 昨日は、あの後もはしゃいでテンションが上がりきったサチーさんの相手で大変だった。


 なので、今朝はオープン前の8時から、特別に残りのアトラクションを待ち時間無しで遊んで貰う事にした。

 まあ、ぶっちゃけ、全部に付き合うと、混雑で待ち時間長いし、幾ら時間有っても足り無いからね。

 取りあえず、本日のエスコート役は、ステファニーさんメインで、補助にフェリンシアとジャクリーンって感じでお願いしておいた。


 と言う事で、朝食後は早々に地下工房に潜り現在思案中なのだが、何を悩んで居るかと言うと、当初の予定では、ジャングルクルーズのモデファイ版的な物を作るか、幽霊屋敷を作ろうと言う予定でいた。

 しかし、朝食の時にヨーコさん達に聞いてみると、どうやら幽霊そのものがこの世界に存在してない。

 まあ、認知されてないのか、本当に居ないのかは不明だけど、とにかく馴染みが無いらしい。


「幽霊?何ですかそれ? 魔物?」

と言う返しをされて、驚いた。


 そこで、強引に幽霊屋敷と言っても、「幽霊怖い!」と言う意識すらないので、アトラクションの前提として成立しないのではないかと思案している訳だ。

 この世界で幽霊に一番近いと言うと、ゾンビやスケルトン等のアンデット系の魔物ぐらいらしい。


「うーん、常識が元の世界と違うから、正直同じ物をコピー・・・いやオマージュしてもダメっぽいな。当然ホーンテッドマンションもダメだろうし・・・」

と考えた結果、はたと閃いた。


 基本的には、パイレーツ・アドベンチャーと若干被る気もするが、それよりスケールをデカく作るから、大丈夫だろう。


 名付けて『ダンジョン・アドベンチャー』かな。

 ダンジョンの様な船に乗って、ダンジョンの階層を旅して、出て来る魔物を光線銃で撃って貰う感じのアトラクション。

 光線銃で防げなかった場合、船が揺れると言う仕掛けで行く。

 ダンジョンは3階層の構成にし、3階層目のダンジョンボスを倒した後は、縦穴から船ごと押し上げられて脱出って感じのシナリオにした。

 1階層目はジャングルステージ、2階層目は砂漠ステージ、3階層目はアンデット洞窟ステージこれならどうよ!?と。



 午前中の内に必要となる主要パーツを作成して行く。

 まず、乗客を乗せる船だが、追撃された時に船体が揺れる様に、水中にローラー付きの足が飛び出す感じにする。

 2×2の4人乗りで、各座席の横には小型の機関砲的な光線銃を設置する。

 各魔物人形には魔石のある胸や頭等の急所部分に光線銃からの射撃を感知するセンサーを設置して作り込んで行く。

 魔物は、ジャングルステージに、お馴染みのゴブリンから始まり、ポイズン・フロッグ、ワイルド・モンキー、ワー・ウルフ、マッド・アリゲーターを制作した。

 砂漠ステージでは、サンド・スコーピオン、サンド・ワーム、サンド・リザードマン、椰子ガニ、キラー・サーペントを作成した。

 洞窟ステージでは、ゾンビ、スケルトン、スケルトン・ナイト。そしてボス部屋にはリビング・アーマーとスケルトン・キングを作成したのだった。


 何気に沢山の骨を作る必要のあるスケルトン系や腐乱した感じを出す必要のあるゾンビ系の造形は、非常に厄介だったと言っておこう。

 まあ、様は凝りに凝った造形にした。


 あと、撃ちっぱなしに撃てると面白くないだろうと、一応光線銃の弾は、500発と言う制限を付ける事にした。

 弾少なすぎかな? まあそこら辺は、一度試乗して調節かな。


 そして、諸々の作り込みは午前11時に完了したのだった。


 早めに大食堂で昼食を食べ、建設予定地へとゲートで移動した。


 出来れば、サチーさん達の意見も聞きたいので、サクサク作って行こう!と気合いを入れて、ますは建設予定地の地盤を地下100mまでガチガチに固めた。

 そしてその上に入り口と水タンクを兼ねたソコソコのサイズのピラミッドを作成する。

 ピラミッドの1階部分に出入り口を設け、そこの奥に乗車口を作った。

 さあ、本格的に穴掘りを開始しよう。1階のピラミッドの中を少し通過した所から、斜め下方面にゴツゴツした感じで広めの洞穴を掘って行く。

 そして、第一階層まで降りると、なだらかに傾斜した空間を何個も作る。

 つまり、この空間毎に徐々に強い魔物にシフトして行く感じにする予定。

 そして、最後の空間から第二階層へと続くスロープを作る。

 第二階層も似た様に広めの空間から空間へと続く緩い傾斜角を付ける。

 第三階層は洞窟フィールドなので、ゴツゴツした岩の壁面を表現しつつ掘り進み、空間3つに最後のボス部屋の空間を作るのだが、ボス部屋1つだけでは後ろが詰まるんじゃないかと考え、急遽4つのボス部屋を作成した。

 つまり後で、ボス部屋の人形を追加作成する必要がある訳だ・・・。

 ちょっとショック。


 ボス部屋の奥には、円筒式のシリンダーを設置し、1階のピラミッドの奥へと辿り着く巨大なピストンを作成して、貯まった水ごと上を押し出す感じにした。

 まあ、地下工房で構想を練って、作った訳だが、実際のシリンダー部分の精度によって、動作感が変わるので、慎重に縦穴を掘った。

 勿論シリンダーだけでは、水の循環が足り無いので、第4階層に相当する部分を作り、そこには水タンクとそれをピラミッド側のタンクに送り込むポンプを作ろうかと思ったのだが、ポンプじゃなくて、ゲートと同じ理論で、時空間ショートカットを作成した。


「これは、もしかして画期的じゃないか? もう、ポンプ要らないじゃん! 配管も要らないじゃん!」

と自画自賛する海渡。


 取りあえず、地下工房に戻り、残り3部屋分のボス人形達と、ピストン等のパーツを作成した。

 そして、取って返して一気に各フィールドの背景や外観を整えて行く。

 ジャングルステージ用の木や草等が足りず、一度地下工房で追加作成した以外は、ほぼ順調に第一階層が完了。

 砂漠ステージは、希望の岬ダンジョンの第三階層から持って来た砂を、適当に配置し砂の中や砂山の影から魔物の人形が飛び出て来る様にセッティングしたが、砂の中から飛び出すと、砂がなくなり、床が見えてしまうと言う事に気付き、軽くショックを受けてしまう。


「やっぱり、サンド・ワームとか、サンド・スコーピオンとかは砂の中からも出したよな・・・。

 と言うか、サンド・ワームは砂の中しかあり得ないし。」


 さて、どうするか。


 各船の間隔は、最短で約10秒と決めている。

 つまり、10秒で1空間を制圧し、次の空間へと流れる訳だ。

 船と船の間に上から砂を振りかけるな? 一度試したが、あまり良い結果では無かった。

 そこで、砂貯まりを作り、砂が流れて巡回する様な物を要所要所に設けてみた。

 結果は、凄く自然に砂に隠れるし、流砂っぽく見えるので、あまり違和感が無い。

 そもそも、巨大なサンドワームを、それっぽく動かすだけでも、かなり無駄に難易度が高いのである。


「うん・・・これで我慢して貰おう。」


 更に予想以上に面倒と言うか、難しかったのが、ゾンビやスケルトン系の人形を動かす事であった。

 ゾンビに関しては、あのどっかに引っかかって居るかの様な、ぎごちない動きの再現が大変で、何度も改良して行き、思わぬ時間が掛かってしまった。

 逆にスケルトン系は、動作を操作するワイヤー類を表に見せない用にするのが大変。

 これなら、いっそ、どっかで本物のスケルトンをスカウトして来た方が楽なんじゃないか?とぼやく程だった。


 全てのレイアウトが完了し、鳴き声等の効果音もセッティング完了した。

 いよいよ試乗である。


 結果から言うと、これはなかなか面白い。

 階層から階層への移動や、効果音のズレ、追撃を受けた際の船体の揺れを微調整して、完成となった。


 結果的に1周が約4分ぐらいになったが、流れとしては、10~12秒間隔なので、大丈夫だろう。


 時刻は午後2時40分、フェリンシアに伝心を入れると、全アトラクションを制覇して、現在プール・セクションでプカプカ浮き袋で流れている所らしい。

 そこで、3時に新規エリアのゴーカート前で待ち合わせする事にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る