第492話

 さて、先頭集団がそろそろ海渡達の作った障壁に当たって徐々に絞られる所に差し掛かる時刻となった。


 ドレイクさんとキャロラインさんには、このままヒラメ君で見物して貰う事にして、地上へと飛び降りて行った。

 海渡達が、所定の位置に立ち、それぞれの武器を準備して待ち構えていると、前方の方の土煙と地響きがドンドンと近づいて来た。


 小さい体のアンとサニーは、不釣り合いなサイズの20mmガトリングガンを両肩に乗せ、ニマニマしている。

 パトリシアの『火の雨地獄』作戦は、初っ端でやると、最前列以降が逃げ出す可能性があるので、後半までお預けにしている。

 海渡、フェリンシア、ジャクリーン、ラルク少年は、マサムネさんが鍛えた愛刀を抜き、肩に担いでいる。


 先頭まで50mを切った所で、海渡が叫んだ。


「さあ、狩りの時間だ!」


 アンとサニーの両肩からは、「「「「ブォーーーーーー!!!」」」」と言う爆音と共に、音速を超える弾丸が無数に発射される。

 その殲滅力は凄まじく、たった3秒程の掃射で、1km先まで、2つの扇状のエリアの反応が、マップから消滅した。

 しかも、その辺りは魔物の悲鳴で阿鼻叫喚の地獄絵図。

「ギュモーー・・・」「グロォー・・ゲビュ」「キシェ-」「ウリュリュリュー」等とバラエティに富んだ断末魔の叫び声が鳴り響いている。


 海渡、フェリンシア、ジャクリーン、ラルク少年、ミケの5名も負けじと、『身体強化』、『身体加速』、『クロックアップ』を全開にして、サクサクと斬り込んで行く。

 ステファニーさん、パトリシア、プリシラは魔法メインで目の前に迫る魔物に容赦の無い魔法攻撃をぶっ放している。


 特に目を見張るのは、先日までとは打って変わった、ジャクリーンさんの動き。

 金色のユグドラシルの実、通称『神の実』を食べたお陰で、今まで発動の速度や効果が遅かった『身体強化』、『身体加速』、『クロックアップ』のスキル効果が半端無く上がっており、更にチョイチョイ挟んでいる単発の魔法攻撃も、部外者の魔法使いが見たら、腰を抜かすレベルである。


「お!ジャクリーン、動きが見違える様だな。」

と海渡が殲滅しながら、声に出して褒めると、ジャクリーンさんの動きが妙なクネクネに一瞬変わったww



 一方、安全な上空のヒラメ君0号機の中で床に映し出された地上の映像と、設置された大型ガラスディスプレイで戦況を見守る行き遅れコンビは、あまりの戦力に声が出ない状況であった。

 凄そうであることは、経験や本能的な物で感じていたが、まさかここまでの戦力とは・・・と。

 開始早々、ガラスディスプレイに映し出される、魔物の生命反応を示す赤い点が、一斉に2エリア消え、更に他の最前列では、秒単位でドンドンと消えて行くのである。

 作戦前の機内で、この危機的状況下の中で、見方に寄れば、不謹慎とも思える軽口を叩いていた訳だが、それが蓋を開けると、着々と実行されている訳である。

 戦闘開始から約3分経過し、当初35000匹を超えていた残数表示が、27000匹代まで激減していた。

 勿論、同様の映像や情報は、宮殿に残してきている、3枚の大型ガラスディスプレイにも表示されている。

 皇帝も、大臣や武でならした大将軍も、言葉を失っていたのだった。



 開始から5分が経過した頃、

「おーい、ソロソロ一端周りの魔物の死骸を回収するぞーー!」

と邪魔になっている周囲の魔物の死骸の除去の号令を掛ける。


 一斉に、全員が黒い触手のネットを生やして、周囲の死骸を根こそぎ回収する。

「よし、レイア! スタンピードの後ろに回って、ガンガンこっちに追いやってくれ!」

とレイアに声を掛けると、


「了解っす!食べ放題待ってやした!!」

と張り切って飛び出して行った。

 上空から、ドッカーンと音がしてたので、瞬間的に音速を超えたらしいw


 レイアが飛び立って2分が経過する頃、海渡達へ向かって来る魔物の勢いが、目に見えて上がった。

 どうやら、レイアの存在に怯えて、前へ急いでいる様子である。


「よし、そろそろ頃合いだろう。パトリシア~ やりたがってた『火の雨地獄』作戦やっていいぞーーw真ん中辺りの逃げ場の無い所を狙ってな!!」

と声を掛けると、「了解!」とパトリシアとプリシラが上空へと上がって行った。


 さあ、どんな事をやるんだろうか? と上空の2人をワクワクしながら見上げていると、


 600発以上の青白い火の玉が上空200mに出現したと同時に、一斉発射された。その強烈な速度は流星かと思う程であった。

 しか2秒間隔で淀みなくふらされる青白いファイヤーボール・・・正に『火の雨地獄』である。


 地上は、これまたもの凄い爆発と飛び散る魔物の肉片に肉の焼ける匂い。

「「「「ドドドドカーーーン」」」」と連続する爆発音。


 20秒程続いた『火の雨地獄』で、中間地点には無事な魔物達は、ほぼ居ない状態になり、その前後の魔物達は完全にパニック状態である。


 後方に回り込んだレイアが真っ先にやったのは、最後尾の魔物を追い立てる為に、通常サイズに戻り、自分の後方に逃がさない為の塀を作り、ハの字の塀と結合した。

 そして、殺気を全開にしつつ、食い放題の開始である。

 進化して、敏捷な動きを物にしたレイアの前に、為す術無く食材と変わる哀れな魔物達。

 運良く逃れた魔物達は前へと逃げるが・・・中間地点で始まった『火の雨地獄』で行き場を失うのであった。


「よし、そろそろラストスパートだな。」

と海渡が声を掛けると、全員が、「「「「「「「「了解!」」」」」」」」と声を揃え、一斉にアイスカッターを発動して発射した。

「ギャーー」「ウキュー」「シャーー」と広範囲で魔物の断末魔の叫び声が上がり、胴体が生き別れになった死骸が増産される。


『火の雨地獄』と、この攻撃で、海渡側の魔物はほぼ壊滅し、魔物残数が5000匹代まで激減した。

 更に後方のレイアの地味な食い放題と、即死を免れただけで、瀕死だった魔物達が絶命して行き、時間と共に残数を減らして行く。


 機上の2名も、会議室でモニターを見守る皇帝らも、これに狂喜乱舞した。

 機上と会議室と言う全く別の場所で、

「「「「「「「「うぉーーー!!!」」」」」」」」

と声を揃えて叫び、周囲と抱き合いながら喜ぶ2箇所の者達。半分泣き笑い状態である。



 海渡達は、奥へと高速で移動しつつ、再度死骸を収納し、点在しる生き残りの魔物にトドメを刺して行くのだが、生理的に近寄りたくなかったのは、しぶとく生き残っていたアンデッドの一群。

 腐肉の異臭を放ちながら、千切れた上半身だけで、這ってこっちに向かって来る。

 しかも、この腐臭、数が多いだけに相当な匂いの密度で、口で息をしても厳しいのである。

 人族より嗅覚が優れている獣人には、更に厳しいらしく、ケモ耳ズは近寄ろうともしない。

 なので、アンデッドの一帯だけは、回収せずに、燃やして灰となって貰った。

 やがて、『火の雨地獄』の現場を通り越して、レイアが口を開けている、残り1/3のエリアへと突入したのだった。



『さて、後半戦だ。せっかくのチャンスだし、何か試したい事とかあれば、今の内だぞ?』

と全員に伝心で声を掛けると、


『うーん、特にやり残しは無いんですが、レベルが思ったより上がりませんでした。』

と残念そうなプリシラ。


『そうですね、私もレベル1つしか上がりませんでしたね。完全に格下ばかりだからですかねぇ。』

とミケ。


『あー、みんなもそんな感じなんすね。おいらもレベルは1つ上がったぐらいっす。』

とラルク少年。


『もう、十分堪能させて貰ったんで、ここらで一気に仕上げしちゃいませんか? 私、ボスの十八番の青白い火柱やってみたいんですが?』

とアン。


『『『『『『ああ! それ良い!! 私もやりたーーーい!』』』』』』

と弟子ズ全員がノリノリになった。


『じゃあ、全員で殺りましょう!!』

とアンが提案し、


『『『『『『おー!!』』』』』』

と声が揃った。



『レイア、食欲は満足した?』

とミケがレイアに聞くと、


『ええ・・・別に食えと言われれば、幾らでも食えるんすけど、何か味気なくて、食傷気味っす。

 親分達の食事の方が全然美味いっすからねぇ。もうあっしは、野良に戻れない体になっちまったようです。』

とレイアの何か悲しげな伝心が入ったww


 野良ベヒモスwww と海渡は一人でウケていた。


 レイアが弟子ズに合流すると、全員が万遍なく空を飛んで分散し、


『じゃあ、兄貴、やっちまいますね!』

とラルク少年が聞いて来たので、Goを出した。


『『『『『『『チュッドーーーーーン』』』』』』』

と凄まじい爆発音が複数箇所から、時間差で鳴り響き、青白い火柱が7箇所で上空へと舞い上がった。


「うっはーーー! 派手だねぇ~ww」

と海渡が笑っていると、


「ダーリン、これ、夜だったら、絶対綺麗ですよね。」

とジャクリーンさんがキラキラした目で7本の火柱を見ていた。

 7本の火柱は、光りシールドの煙突効果で、壮絶な勢いで周囲の空気を吸い込み、一緒に周囲の魔物を飲み込んで行く。


 1分程の間、空気と魔物を吸い尽くした火柱が消えた後には、見事な赤い溶岩で出来た池が出来上がっていた。


 結果、魔物の残数は10匹となっていた。弟子ズがサクッと仕留め、残数0になった。

 討伐任務完了である。


「お疲れ様ーw 最後派手だったなw」

と海渡が労を労うと、


「割と抑えめにしたつもりでしたが、それでも凄まじいですね。

 これってやっぱり光りシールドの煙突の効果なんですか?」

とパトリシアが聞いて来た。


「そうだね。煙突があるのと、無いのとでは、燃焼効率が全然違うからね。

 前の燃えて軽くなった煙とか二酸化炭素とかに引っ張られて、新しい空気が周りから入って来るから、より一層燃えさかるんだよ。」

と海渡が説明すると、なるほど!と納得していた。



 そして、海渡らは、不要となった壁を撤去し、ある程度地面を浄化した後、ヒラメ君0号機へとゲートで戻たのだった。

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