第493話

 機内の戻った海渡らは、大喜びして抱き合っている『行き遅れ』コンビを目にする事になる。

 海渡らの生暖かい視線に気付いた2人は、ハッとして、


「え? こ、これは違うのよ? 誤解しないでよね? そんなんじゃないから!!」

と真っ赤な顔で全否定しながら、ドレイクさんをチラッチラッと横目で盗み見るキャサリンさん。


 だはは。これがツンデレかw


 それとは対象に、

「え? そ、そうなのか・・・」

と崩れ墜ち跪くドレイクさん。


 すると、慌てて、

「あ、いや、別に嫌とかじゃないからね? ただアレよアレ!」

と訳の分からない言い訳をし始めるキャサリンさん。


「まあ、どうしてもって言うなら、お祝いのお食事ぐらいは、付き合って上げても良いのよ?」

とキャサリンさんが呟く。


 ガバッと項垂れたいた顔を上げ、急激に元気を取り戻すドレイクさん。

 真っ赤な顔で体をプルプル震わせ、顔ごと視線を逸らすキャサリンさん。



 ふふふ、ドレイクさんもキャサリンさんも、どうやらお互いを憎からず想っているっぽいな。

 まあ、ソッとしておこうと、ソファーに座り、お茶やコーヒー等とスイーツを並べ、遠隔操作で帝都への帰還コマンドを実行する海渡であった。



 飛び立った時と同じ、中庭に着陸し、機外へと降りると、直ぐに皇帝を始め、大臣、将軍、そして騎士や一般兵が中庭で海渡達を取り囲み、歓声が上がった。


「カイト殿!!ありがとう!!!」

「カイト殿!凄かったぞ!!」

と皇帝や将軍からの賞賛があったのだが、周りの歓声が大過ぎて、殆ど聞こえない程の湧きっぷりであった。




 場所は変わって、先程の会議室。

 海渡達は、置いていったモニターを収納し、皇帝に呼び出された冒険者ギルドのギルドマスターと、職員にギルドカードを渡し、依頼達成の手続きを行って貰っている。


 皇帝は、何度もお礼を言いつつ海渡と握手している手を離さないw

「あのぉ・・・そろそろ手を離して貰えないですかね?」

と海渡が言うと、


「はっはっは! そうだったなw」

と爆笑しながら、肩をバシバシ叩かれる。


「いや、マジで何気に痛いから! まあ嬉しいのは判るんですけど。」

と海渡が苦い顔をしながら言うと、大臣が諫めつつ引き離してくれた。


「今日は、宴を開くから、是非参加してもらうぞ!」

と上機嫌の皇帝。


「え? そうなんですか? いや、拠点だけ貰ったら、ヤル事やって帰ろうかと思ってたんですが・・・。」

と海渡が言うと、


「えー!? そんなつれない事言うなよぉ~。同じ国のトップ同士、飲み明かそう!って、まだ子供だったんだな・・・。」

と気が付く皇帝。


「そうですよ。まだ未成年なんで、酒は後何年も先ですね。 ああ、でもうちの国で作ってる、スペシャルな酒ありますよ?

 うちのドワーフ達曰く、『ドワーフ殺し』と呼ばれている酒達ですが、飲んでみますか?」

と海渡が日本酒やウィスキー、ブランデー、ワイン、シャンパン、芋焼酎の瓶を取り出すと、皇帝もだが、大臣が食い付いたw


「「うぉ!? これはガラスの瓶か!!」」と。


「ははは、瓶の方に食い付くとは、ちょっとビックリしましたが、そうですね。ガラスで出来ています。」

と海渡が言うと、


 ガラスで出来た瓶をしげしげと眺めつつ、


「今飲んで良い?」

と生唾をゴクリと飲み込みながら、聞いて来たので、どうぞとゼスチャーすると、メイドにコップを用意させた。

 運ばれて来たコップ・・・正にコップは陶器だったので、


「あ、ちょっとお待ちを! それで飲むのは勿体ない。 こっちで飲んで貰えますかね?」

と海渡の商会で販売しているワイングラスや、カットグラスをズラリとならべ、

「ワインは、これで、ウィスキーは、これ。 ブランデーはこれで。 日本酒はこっちの升で飲んで見て下さい。」

と言うと、更にグラス類に食い付いた。


「この様な見事なグラスを見た事が無い。これを是非売ってくれーー!」と皇帝。


 グラスに注がれたワインの綺麗な紫色や、ブランデーの琥珀色、そして升に注がれた日本酒等々、仕事そっちのけで、グラスに、味にと大いに盛り上がる皇帝サイド。

 そんな中、ギルドマスターも羨ましそうな目で見ていたが、手を伸ばそうとした所で、同席していた職員のおねーさんに手をペシッって叩かれていたw


「ギルマス!仕事中ですから!!」

とおねーさんが叱る。


 周りでは、皇帝や大臣達が、


「美味い!これは何てスッキリした喉超しの酒だ!」

「うぁっ!この香りが堪らん!!」

「うむ・・・このガツンと来る感じ、最高ですなぁ!」

等とワイワイやっているのを見て、


「そ、そんな生殺しな・・・」

とゴツいギルドマスターが涙目になっていた。





 そして現在、海渡達は、酔っ払い達を放置し、素面の大臣配下の人の案内で、城下町の商業地区へとやって来ている。

 海渡達が戦って居る間に、大臣が指示を出し、配下の担当が調べた結果、該当する条件は4箇所で、微妙な所を含めると5箇所あるらしい。


 そして、端末に表示した場所をチェックすると、その微妙な場所と言うのは、スラムの近所で、所謂赤線とか娼館とかがある様な地域だった。

 流石に、そこは難しいと言う事で、パスし、残りの4つを見て廻る事にした。


 案内の担当者一推しの場所を見せて貰うと、面積的にもサイズ的にも、レイアウト的にもバッチリで、面倒なので、そこに決定したのだった。

 直ぐに譲渡手続きが取られる事になり、


「じゃあ、俺達、ここで作業してますんで、手続き終わったら、書類持って来て頂けますか?」

と海渡が言うと、『作業』と言う言葉に少し不思議そうにしていたが、


「了解しました。30分程でお持ち出来ると思います。」

と担当者が足早に去っていった。


 全員で、一斉に荒れ果てた敷地内を一掃し、いつもの様に、店舗やカフェ、ラピスの湯、そして総合宿舎を設置し、塀で囲む。

 最後の仕上げで門を設置して、完了。


「よし、棚ぼたで帝都支店もOKっと。」

と海渡が笑顔で振り向くと、


「じゃあ、いよいよ、観光っすかw」

とラルク少年がニヤリと笑う。


「待て待て、気持ちは逸るけど、書類を受け取ってからなw

 しかし、帝都の混乱も結構アッサリ終息したな。

 もっと数日掛かるかと思ったんだが・・・。」

と海渡は宿舎の屋上で帝都を見下ろしつつ、カフェオレを飲んで話をしていると、通りの向こうから、小走りに走って来る担当者が見えた。


「お!待ち人来たぞー!」

と海渡が、屋上から飛び降り、全員がそれに続く。


「「「「「「あーーー!人が墜ちた!!」」」」」」

「「「「きゃぁーーー!」」」」

「「「「「だ、誰か衛兵を呼んで来い!」」」」」

とかの声がして、ハッと気付くと、海渡の拠点の周りには沢山のギャラリーが居た。


「あ、ヤッベー。戦闘の影響で、スッカリ忘れてた。」

と慌てて事態の収拾に向かう海渡。


「「「「「おおお!門が開いた!!」」」」」

と響めくギャラリー達。


「あー、皆さん、お騒がせして申し訳無い。

 僕ら、冒険者やっていて、普段から鍛えてるんで、あの高さぐらいなら平気なんですよ。

 カルシウムもタップリとってますし。」

と海渡が雑な説明すると、


「「「「「「「「「おーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

と驚きの声が上がった。


 しかし、海渡は気付いていないが、この世界にカルシウムと言う物を知る者はいないのだが。


「カイト殿! これは一体どうやって?」

と色々と驚く担当者。

 ほんの30分、目を離した隙に、見た事も無い様な見事な建物が、生えまくっていたのだから、驚きまくっている。


「ああ、ちょっと器用なんでw」

と誤魔化し、お礼を言って書類を受け取ったのだった。


 それから、夕暮れまでの間、各班に分かれ、帝都をブラリと散策する。


 今回、珍しくレイアが海渡の肩に留まっている。


「なんだよ、レイア。珍しいな。普段はフェリンシアの帽子になってるのに。」

と海渡が言うと、


「だって、姐さん達、食べ物よりも、服とか変な小物ばかりに時間かけるっすよ。

 あっし的には、今日は半端にあまり美味しく無い物を食べちゃったんで、口直ししたいっすからw」

とそう言う理由らしい。


 そんな訳で、海渡とラルク少年の班は、屋台を荒らし回る訳であるが、ここ、帝都の食事事情は、かなり美味かった。

 味で言うと、トリスターと同等レベルで、出ている屋台の種類も、トリスターと似たり寄ったり。

 残念ながら、コーデリア系の物は1つも無かった。

 市場や商店も散策したが、米を売っている所は皆無だったが、スパイス等はトリスター以上に充実していた。

 物価もそんなに高くはなく、首都と言う意味では、安い部類ではないかと思おう。


 何よりも、素晴らしいと思ったのは、そんな帝都であるが、道がシッカリと広めに取ってあって、きちんと真っ直ぐに整備されている事。

 まあ、石畳ではあるのだが、比較的タイルに近く、デコボコも少ない。

 普通の都市なら、割と栄えている所だと、ゴミが路上に多かったりするのだが、ポイ捨て禁止とかで、屋台の横には、必ずゴミ入れを店主側が用意していたりする。

 ゴミ箱が無い所でも、ポイ捨てする客は居らず、ちゃんと所定のゴミ箱まで行き、捨てていた。


「なるほど、この国は、民度もなかなか凄いな。」

と感心する海渡だった。


 そんな感じでマッタリと観光を楽しんでいたのだが、酔っ払い改め素面モードの皇帝から連絡があり、


「と言う訳で、お手数だが祝勝会の宴に参加してくれよ? もう準備しちゃってるから。」と。


「えー?でも僕ら堅苦しい席は苦手で。服も今の服ですし、煌びやかな所は遠慮したいかなぁ・・・って」

と海渡が渋ると、


「ああ、そんな服なんてどうでも良いし、そのままで参加してくれればOKだ。

 やっぱり、祝勝会なのに、君ら立役者達が居ないと、騒げないだろ?

 美味しいトルメキア料理を食うだけ食って、楽しんだら、好きな時に帰って良いから。

 どうか、参加お願いするね!」

と言われ、了解したのだった。


 うん、別に『美味しいトルメキア料理』のフレーズに靡いた訳じゃないからね?

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