第456話
ポカンと海渡の一連の行動を見ていたジャールさんだが、側近達と何やらゴソゴソと小声で話し始めていた。
4人の『見張り役』は、完全に寝落ち寸前で、コクリコクリと船を漕ぎ始めている。
海渡は、キャンピングカーを取り出し、風呂の準備をして、弟子ズに指示して、入らせる事にした。
新しい服を用意して、風呂上がりに着替えさせた。
風呂に入ってサッパリしたらしく、眠気も覚めて、現在風呂上がりのミルクを飲んで、ご満悦の見張り役4名。
「これがお風呂って言う物なんだね。初めて入ったけど、気持ち良いねぇ」
と女の子が言うと、他の子もウンウンと頷いて、
「普段は、夏場の暑い日に魚を捕る為に川に入るぐらいだもんな・・・。」
としみじみと呟いていた。
それを聞いた海渡は、
「ああ、従業員宿舎には、こんなのよりももっと凄いお風呂付いてるから、楽しみにしててよ。
きっと・・・いや、絶対に気に入るよーw」
と自信満々に言うと、「わーい!」とワクワクしていた。
海渡が子供達と色々話をしている間、ジャールさん達は、ステファニーさんやフェリンシアに何やら質問したりしていた。
質問内容は、海渡は普段からこう言う事をしているのか? とか、他の支店でもああいった建物を建てているのか? とか、あのデカい建物は何だったのか? とかであった。
ステファニーさんは、その質問にこう答えていた。
「ああ、あれは、いつもカイト君がやってる事やで。カイト君も孤児で、フェリンシアちゃんと2人で都市に出てきてな、そこで領主様に色々世話になったんやて。
そんで、切っ掛けさえあれば、人生ガラッと変わるって、ああやって小さい子でも雇うんやで。もっとも12歳未満は仕事らしい仕事はさせへんのやけどな。
その間に、文字の読み書きや、計算とか、色々教える様にして、何になるんでも、将来困らんようにってな。
あのデカい建物は、従業員宿舎や。他の支店も大体全部同じなんやで。」
と説明していた。
すると、それを聞いたジャールさんが、感銘を受けた様で、「うぉーー!」と唸っていたみたい。
暫くすると、西門から、多くの小汚い子供や、怪我や病気で1人では動きが取れない様な大人がゾロゾロとやって来た。
先頭を行くさっきの少年が、
「良かった・・・ちゃんと居てくれたw」
とホッとした表情をして、海渡の所に駆け寄って来た。
大人子供を合わせ、総勢58名。
「ふふふ、大丈夫だってw 約束した通りだからw」
と海渡がニコニコしながら返し、弟子達に指示して、全員にクリーンとヒールを掛けさせた。
1期生のヒールであるが、既にかなりの状態を治癒出来る物にまでアップしている。
これは、海渡が人の体の仕組みや、細胞や細菌、ウィルス等の説明を事ある毎にして、回復のイメージをより効果的な物にした結果である。
よって、部位欠損から、癌や伝染病等、色々な事態に対応出来る様になっている。
ちなみに、2期生もほぼ同等にヒールを掛ける事が出来るが、3期生は現在精進中と言った所である。。
全員に、ハチミツ水を飲ませ、サンドイッチ等の簡単な物を取りあえず配り、取り出したバス2台に乗せていく。
「ジャールさん、では今日はこの辺でお開きって事で。
あ、そうそう、工事代金は、先ほどの宿舎の方へ持って来て頂けますかね?
今夜はあそこに泊まる予定なので。」
と挨拶して、颯爽と撤収したのだった。
バスが動き出すと、車内は、驚きの声で溢れる。
「げ!動いた。」
「わーー!これ馬車みたい!!」
「すっげーー!」
「おお、乗り物か!」
等々。
バスガイドはミケ担当。
「えー、皆様、改めまして、私は短い間バスガイドを務めます、ミケと申します。
驚きのご様子ですが、こちらの乗り物は、我らがボス、カイト様がお作りになった、バスという魔道具です。
これから向かう先は、カイト様がこちらの王都の城壁を拡張され、新しく手に入れられた、カイト様の商会の支店へと向かっております。
そこには、従業員宿舎がありますので、そちらに皆様が住んで頂く事となります。~~」
と商会の営業内容や宿舎の説明を始め、
「皆様、右前方をご覧下さい。あの一際高い建物、あちらが皆様をお連れする、従業員宿舎となります。」
と指さして紹介すると、
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と歓声があがった。
「マジか!」
「えーー!?夢?」
「いつの間にこんなのが?」
と騒いでいる。
「ふふふ、皆様、驚くのはまだ早いですよ? 中はもっと驚きに満ちてますからw」
と微笑むミケ。
海渡は運転しながらも、「ミケすげーーw バスガイドとかw 完全に元の世界のバスガイドそのものじゃんw」と内心ウケていた。
まあ、ミケがガイドを始めたから、あまり飛ばさずにガイドする時間を与えたのだけど、ここまでヤルとは、驚きである。
バスが、近付くと、遠隔で門が開き、バスが敷地へと入って行く。
実際、海渡が関連しない所では、この世界にこの様な自動開閉の扉や門は無い。
正にこの世界の最先端技術の塊が、この海渡の作る拠点である。
これまでに、この技術を盗もうとした輩は海渡の大陸の各国で、数多くあったが、全部海渡の作った完璧な防犯システムによって、未然に防がれている。
そして、今では、ダンジョン並に、難攻不落の要塞と言われているらしい。
噂が広がったお陰で、忍び込んだりしようとする不埒な輩は激減し、ここ2ヵ月は、防犯システムが本当の意味で効果を発揮する機会は無くなっている。
バスから降りる際、全員にセキュリティキーのブレスレットを渡して、登録して行く。
大食堂へと通し、まずは本格的な食事を取らせると、みんな感涙でむせび泣いたり、感動で叫んだり、一口一口幸せを噛み締めていたりしていた。
一頻り食べ終わった頃に、再度設備やルール等を説明し、商会から呼んだこの施設の責任者(店舗の店長候補)とスタッフを紹介し、後を任せたのであった。
そんなバタバタとした1時間が経過した頃、門のインターフォンが鳴り、来客があった。
弟子ズに対応を任せていたのだが、ラルク少年がこちらにやって来て、
「兄貴、王様来てます・・・」
と苦笑いしながら伝えてきた。
「マジか!w」
「ジャールさん、王様なのに、何やっちゃってるんですかw」
と開口一番に突っ込むと、
「いやぁ~、折角なので、お支払いついでに、見学に来ちゃいましたw」
と満面の笑みのジャールさん。
いやはや、よくもここまで懐いた物だな・・・こんな年下の子供に・・・と内心苦笑いする海渡。
「それに、王様自らって・・・それをカイト様が言いますか!w」
と突っ込まれてしまった。
うむ、確かにな。
しょうがないので、一通り、宿舎や店舗やカフェ、そしてラピスの湯を見せて廻り、感動しまくるジャールさんには、早々にお引き取りして貰った。
一方、新しくスラムからここにやって来た最初の子供5名+58名の63名は、全員が5階の大浴場で至福の一時を過ごし、支給された新しい服に着替え、こざっぱりとした後、各自に割り振られた部屋のベッドに感激し、幸福を噛み締めていた。
「ああ、これは夢じゃないよな? 目覚めたら、スラムの穴だらけのバラックの中とかじゃないよな?」
と同室の仲間と話していたりした。
中には、
「おい、ちょっと俺を思いっきり殴ってみてくれねぇか?」
とお願いして、仲間に綺麗な右ストレートを貰い、壁まで吹っ飛んで、
「痛ぇ~! 夢じゃねぇ!!」
と鼻血をダラダラ流しつつ、笑顔で叫ぶ猛者まで居た。
その後、その猛者の部屋の騒ぎを聞きつけたミケに滅茶滅茶怒られて、ヒールを掛けて貰っていたのだった。
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