第455話
1時間半程で、地図に書き込んだ主要道路が完成し、全員が旧西門の所へと戻って来た。
ジャールさん達だが・・・
「お忙しいでしょうから、もう王城へ戻られた方が良いのではないですか?」
と海渡が何度か遠回しに『もう、帰れよ!』と言う意味で進言しても、
「ええ、お気遣い無く。大丈夫です。寧ろ、この伝説の1ページに立ち会える事を誇りに思っております。」
と、それはもう満面の笑みで返されてしまい、次の言葉が出なくなってしまったのだった。
しょうが無いので、テーブルと椅子を出して、お茶を出しておき、海渡は海渡で、ポータブルキッチンを出して、遅めの昼食の準備で時間を潰していた。
放置状態のジャールさん達は、お茶を飲みながら、海渡がなにやら始めた事をジッと見守っている。
海渡が、デッカい赤身の肉のブロック(←ミノタウロスのロースブロック)を取り出し、スパイスを擦り込み、バターを敷いたフライパンで、その肉ブロックの表面全体に焼き色を付けている。
そして、その肉を玉葱を7mm厚ぐらいに切った物を敷いたトレイに乗せ、ジャガイモやニンジンや玉葱をそのまま置いて、上に葉っぱ?を置いたりしている。
何をやっているのだろうか? 料理? しかも、何か凄く上質な肉のブロック・・・何の肉? と誰も聞き出せないまま、様子をうかがい続ける。
今度はその肉ブロックが入る大きさの大きな箱形の調理機?(←時短型魔動オーブン)を取り出して、その肉ブロックをトレイごと中に入れた。
そして、1分後には、金属の棒に丸い物が付いてる何か(←調理用魔動温度計)を肉ブロックに刺し、
「OK、中の温度よーーし!」
と指さし確認して笑っている。
今度は、その肉ブロックを変な調理機(←魔動ミートスライサー)で、薄くスライスし始めた・・・。
次に、野菜と大きなボウルを取り出し、レタスを千切り、薄切りの玉葱や、カットしたキュウリ、セロリ、トマト、それに先ほどの肉のスライスした物を入れて、上から調合した液体を掛け、蓋をした。
そして、別の大きな箱形の調理機(←時短調理機)に入れた。
今度は、見事なサシの入った肉ブロックを取り出して、2cmぐらいの厚みで、カットし始めた。
その数、50枚以上!! しかし、当の本人は、
「うーーん、これで足りるかなぁ? 念の為に後20枚くらい切っておくか・・・」
と呟いている。
カットした肉の両面に薄くオリーブオイルを塗り、塩とブラックペッパーを塗している。
今度はニンニクをスライスし、更にコンロ付きのキッチンを今のキッチンの横に延長して、20枚のフライパンをだして、バターの欠片を投げ入れている。
「ジュワァー」
と良い音が鳴り始め、バターの溶ける匂いが漂って来る。
そこから、海渡の姿が見えなくなった。
「「「「「「「「「「ジュジョワーーー!」」」」」」」」」」
とか、カタンカタンとか、ゴゴゴゴゴゴとか、パタバタとかコンロの辺りから音は聞こえるのだが、肝心の海渡の姿は(高速移動中なので)見えない。
キッチンの上にはいつの間にか、10枚の皿が並び、そこに、付け合わせの野菜(オーブンから出した物)がカットされ、置かれている。
そして、肉の焼ける良い匂いが漂って来る頃には、その皿の上に、美味しそうな分厚いステーキが置かれていた。
勿論、ソースも掛かっている。
その皿が全て消え、また空の10枚の皿が置かれた。
~~
「ふぅ~♪ やっと80枚焼き上がったな。
せっかくですし、皆さんもお昼ご飯、ご一緒しますよね?」
と一仕事終えた海渡が聞く。
突然現れた海渡に驚きつつも、ウンウンと大きく頷くジャールさん達だった。
そして、それから直ぐに、他の全員が作業を終えて戻ってきたのだった。
「親分!酷いっす! またあっしをこんな事だけに連れてくなんて。
最近、扱いが酷いっすよ?
やっと久々に一緒にお出かけと思ったら・・・」
と戻って来たレイアが猛抗議してきた。
「そうは言ってもなぁ~、お前って最近役にたってないじゃん。
少しはここで出来る子アピールしないと、フェリンシアとステファニーさんに食べられちゃうよ? 鑑定によると、レイアって美味しいらしいしw」
と海渡が言うと、レイアがガクブルして、フェリンシアとステファニーさん、そしてケモ耳ズ4名はニタニタ笑っていた。
「喋る亀・・・」
とジャールさんが呆然としながら呟く。
「あ。初めまして、親分の舎弟やってます、レイアっす。亀じゃないっす。クィーン・ベヒモスっす。」
といつもの様に挨拶するレイア。
「凄い!流石はカイト様!! 神話級の・・・それも神獣ですか!!
ああ、何て凄いんだろう! ああ、女神様、カイト様に引き合わせて下さりありがとうございます!」
と目を更にキラキラさせてるジャールさん。
いつものお約束より、ちょっと方向が違った騒動が終わり、全員で遅めの昼食を取る事になった。
全員が席に着き、海渡が焼いたタンカー・ホエールのステーキ、ミノタウロスのローストビーフ入りマリネサラダ、ポタージュスープ、それにパンを食べ始める。
が、ジャールさん達は、タンカー・ホエールのステーキを一切れ口に入れると、一瞬間を置いて、絶叫を上げた。
「な、何ですか、この滅茶苦茶美味しいお肉は!?」
と食い付いて来るジャールさん。
タンカー・ホエールのステーキだと伝えると、二度目の絶叫を頂く事になったのだった。
「本当に何から何まで、美味すぎるし、凄すぎです。流石カイト様ですねw」
とウンウンと頷きながら呟くジャールさん。
それに同調するジャールさんの側近達。
しかし、余りにもジャールさん達が騒ぐものだから、声と匂いに釣られた、商団や冒険者達が、遠巻きにこちらをチラチラと言うより、ガン見している。
まあ、そりゃそうか・・・西門の直ぐ側だしな・・・と周囲の視線を受けながら考えていると、涎を垂らした見窄らしい身なりの子供5人を発見してしまった。
顔色も余り良く無くて、フラフラしている少年少女達・・・明らかにここの所、食べ物にありついて無いのが見て判る感じである。
海渡は、堪らなくなって、席を立って、その少年少女達の所まで近付くと、見たまま不衛生な状態らしく、かなり臭っていた。
しかも、健康状態も悪く、2人は結核の症状が出ていた。
海渡は、即座にクリーンと更にヒールを5人全員に掛けた。
5人の少年少女の体が激しく光り、変な吐血混じりの咳をしていた2人の咳が止まり、ポカンと口を開けて驚いている。
「ごめん、急に。病気だったみたいだから、勝手に治療しちゃった。
まずは、これを飲んで!」
と海渡はハチミツ水を入れたコップを5個取り出して、強引に飲ませる。
呆気にとられている5人は、言われるがままにコップに口を付け、ゴクリと一口飲むと、
「あ、美味しい!」
と一人の少女が呟き、一気に飲み干し、他の子も同様に飲み干した。
すると、顔色の悪かった5人の頬に赤みが差してきて、目にも力が戻って来た。
「ねぇ、君達、作り過ぎちゃったから、少し一緒に食べて行かないか?」
と海渡が声を掛けると、
「本当か? 本当に何か食わせてくれるのか? でも俺達金持ってないけど、良いのか?」
と最年長っぽい少年(・・・と言っても海渡と同じ歳くらいの背格好)が聞いてきた。
「ああ、お金は要らないよ。大丈夫、心配は要らないよ。
食べ物は余ってるから、食べるの手伝ってよ。」
と海渡が言うと、大喜びする少年少女達。
聞くと、昨日の昼にパン1つを分けて食べたのが最後らしい。
海渡は椅子を出してやり、席に着かせると、スープやサンドイッチを出してやった。
「まずは、ゆっくり良く噛んで、お腹が驚かない様に食べるんだよ?
一気に急いで食べると、体に悪いからね。」
「ありがとう!」
「わーー!美味しそう!!」
「本当に食べるぞ? 良いのか?」
と、騒いでいる。
「まだ沢山あるから、遠慮しないで、どうぞ。」
と言うと、ガツガツと食べ始めた。
しかし、みんなサンドイッチを1つずつ、ポケットに仕舞っている。
「ん?ポケットに仕舞うと、具が零れるよ? 持ち帰りたいなら、ケースに入ったのを上げるから、それは食べなよw」
と海渡が、サンドイッチの入ったお弁当箱を5個出して目の前に置いてやると、安心した顔で食べ始めた。
どうやら、ポケットに入れた分は、仲間へのお土産だったらしい。
この少年少女は、推測通り、スラム街に住む孤児達で、子供ら37名で何とか日々助け合って命を繋いでいるとの事だった。
「ふむ・・・。そうか。じゃあさ、その37名全員、俺の所で働かないか? 住む場所も、食べる物も、服も、全部あるよ。」
と提案すると、
「マジか! 仲間全員雇ってくれるのか?」
と身を乗り出して聞いて来た。
「ああ、うちは商会やっててね、今度この王都に支店を作ったんだよ。
うちは、ちゃんと従業員宿舎もあるから、ベッドで毎日寝られるし、3食ご飯も出るよ。
勿論、給料も払うし、文字の読み書きや、計算も出来る様になるよ。
子供だけでなくて、他に大人でも真面目に働いてくれるなら、雇うし、子持ちで片親で困っている人でも大丈夫だよ。」
と海渡が言うと、
「やるよ! いや、やらせて下さい!! 仲間呼んで来て良いか? 大人でも良いなら、アリサおばちゃんや、メリンダ姉さんも呼んで良いのか?」
と席を立とうとする少年。
「但し、真面目に働く人だけだよ? 片親で小さい子供を抱えていて、働きたくても働きに行けない親子とかも大丈夫だよ。
あとは、病気や怪我している人でも、真面目に働く気があれば、サクッと治療しちゃうから、安心して!」
と海渡が補足すると、
「ちょっと行ってくる!!待ってて!」
と言い残し、飛び出して行った。
一応、海渡が逃げない?様に、4名は見張りで残して行くらしいw
しかし、肝心の4人の見張り役は、久々の満腹感と安心感で、椅子に座ったまま、ウトウトとし始めたのだった。
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