第457話
異世界7ヵ月と26日目。
ラースデンの新拠点に一泊した海渡達は、朝練と朝風呂の後、大食堂で朝食を取りながら予定を考える。
「さあ、ラースデンでの仕事は終わったし、今日いっぱいは、王都の中を本格的に探索して、特に何もなかったら、明日は次の国へ向かおうかな。」
と海渡が言うと、
「兄貴、俺らもご一緒して良いっすかね?」
とラルク少年が聞いてきた。
「そうだな、折角ここまで来て、城壁拡張までしたんだから、分け前で思う存分買い物でもして楽しもう。」
と言って、昨日ジャールさんが持って来た、黒金貨35枚を11人で均等分けしようとしたのだが、ジャクリーンさんは、「私は全く役に立たなかったので・・・」と辞退。
弟子ズも、
「兄貴!お小遣い程度で十分っすよ。黒金貨なんて要らないと言うか、使い道ないっす。
せめて、金貨10枚程度あれば、十分っすから。」
とラルク少年に言われ、他もウンウンと頷いている。
「うーーん、じゃあ、全員金貨50枚を渡しておこう。何か面白い物見つけるかも知れないし。」
と全員に金貨50枚を渡し、35枚の黒金貨は、この拠点の運営資金の一部って事で、店長に渡しておいた。
が、店長も、
「カイト様・・・これ多分多過ぎますよ?」
と言っていたが、
「まあ、孤児とか孤児院とか色々あるだろうし、こっちはこっちで十分持ってるから。」
と海渡が言うと、意図を理解したらしく、ニヤリと笑って
「了解しました。」
と言っていた。
弟子ズ達と一緒に11人と1匹で、旧西門まで自動車2台で拠点を出発する。
まだ午前8時過ぎであるが、既に拠点の前には相当量の見物人が詰めかけていた。
勿論、通行途中で立ち止まって居るのが殆どなのだが、ある日突然現れた巨大な建物や見た事も無い、ショーウィンドーの巨大なガラス、それに何よりも自動車を展示しているショールームと、その上に流れるCM動画に目を奪われている様子。
よって、何故か拠点の前だけ大渋滞ww
門が自動で開き、中から自動車2台が出て来た時は、かなりの大騒ぎとなっていた。
海渡はクラクションを鳴らしつつ、門の前を空けさせて、速やかに脱出したのだった。
旧西門に辿り着き、城内に入る最後尾に自動車に乗ったまま並ぶと、城門から慌てて衛兵が飛んで来て、王室貴族用通用門に誘導され、そのまま通してくれた。
「カイト様達は、一般門では無く、こちらの門から待たずにお通り頂けますので、次回からはこちらをお遣い下さい。
商会の方達にもそうお伝え頂ければ・・・。」
と衛兵のおにーさんが言っていた。
「えー?そんな特別待遇しなくても良いんだけどなぁ・・・」
と海渡が言うと、
「いえいえ、この国に取っては、救世主と言うか、恩人でもある方達ですので、当然の権利です。」
とキッパリ言われ、ありがたくその恩恵に与る事とした。
城内に入る時に、自動車を収納し、徒歩に切り替える。
女性陣と海渡&ラルク少年の組みに別れ、それぞれ面白い物を見つけたら、連絡を取る事にした。
レイアは、食いしん坊万歳チームに入るらしいw
海渡と一緒に歩き始めたラルク少年は、しみじみと語り始めた。
「兄貴、俺本当に今の生活が、楽しくて、嬉しくて、毎日が夢の様っす。
兄貴に出会えて本当に良かったっす。」と。
「何だよ、いきなりだなw 照れるからそれぐらいにしてくれよ。」
と思わず、赤面する海渡。
「いや、だって、俺なんて、盗賊の洞窟で死にかけてたんすからね?
まあ、意識は無かったっすけど、あのまま人生終わってても不思議はなかった。
寧ろ、一般的にはあの状態から今の現状はあり得ないっすから。
だから、本当に感謝してるんすよ。多分、昨日のあの孤児達も同じ気持ちっすよ。」
と真顔で感謝の言葉を述べるラルク少年。
「まあ、これも縁だよ、縁。何でも運命って言葉だけで諦めるのは嫌だけど、まあ感謝するなら、俺よりも、そう言う縁を用意して下さった、女神様に感謝だな。
それにさ、俺ほら6歳じゃん。まあ他の6歳とはちょっと違って、オッサン臭いけど、周りって大人だらけだし、ラルクみたいに、同年代ぐらいで、普通に接する事が出来る奴は他に居ないからな。
こっちはこっちで、十分以上にありがたいと思ってるんだよ。だから相子だなw」
と照れながら言うと、ラルク少年も喜んでいた。
シンミリした話もそこそこに切り替え、凄い勢いで、屋台や露店を虱潰しに漁っていく少年2人。
美味しい物だといつもの様に爆買いして行く。
たまに、
「あれ?さっきも同じ様な色違いの服着た女の子達が爆買いして行ったけど、仲間かい?」って店のおじさんに聞かれたりする。
「ふふふ、なるほどw そうですか。それは明らかに俺達の仲間ですね。」
と笑う海渡とラルク少年。
「なあ、ラルク、余り他のグループと重なると、意味ないから、東門側に移動するか? まだあっち側には行ってないし。」
と海渡が提案すると、
「ああ、それが良いっすね。同じ所で買ってもつまらないっすからね。それにあっちには掘り出し物あるかもです。」
とニヤリと笑う。
海渡達は、一旦路地裏に入り、そこから飛行魔法で、空へと飛んで東門を確認して、その近所の路地裏にゲートで移動した。
そして、東門の付近からメインストリートの店を漁り始めるのであった。
屋台のおっちゃんから教えて貰った、フリマの様な市場もあって、会場と言うか、その一郭では、色んな魔道具や、武器から野菜まで幅広く売っていた。
軽食を屋台で提供している所もあって、メインストリート以上に混んでいる。
この市場は、開催運営元に売り場面積に応じた場所代(代金は安い)を支払えば、法に反しない限りは、なにを売っても良いらしい。
「ほう、なかなか盛況で面白いな。」
と海渡が呟く。
「兄貴、ここで先日のたこ焼きと鯛焼きの屋台やったら、凄い事になりそうっすよね?」
とラルク少年が、口走る・・・。
「ほう!! それ、面白そうだな。場所代も安いし、一回りしたら、チロッとやってみるか?」
とノリノリになる海渡。
ラルク少年は、若干『しまった・・・余計な事言っちゃったかな?』と言う顔をしていたが、もう遅いw
運営の所に行き、サクッと手続きを済ませると、空いた場所・・・既に出遅れている為、辺鄙な場所しか空いてないのだが、そこへ係の人から案内された。
「えっと、僕ちゃん達の場所は、ここだね。今度出す時は、もっと早い時間に来ないと、みんな良い場所は早い物勝ちだから。
時間も夕方の4時までで1日分の料金だから、今度からは、早めに来なさいね? まあこんな場所だから、今日はあまり儲けが少ないかもだけど・・・。」
と同情の目で色々と教えてくれた。
「でも、君達って、食べ物を売るって言ってたけど、これから持って来るの?何も持って来て無いみたいだけど?」
と聞いて来た。
どうやら、初めての人が物を売る際には、開店する前にチェックが必要だそうで。
「ああ、なるほど。そう言う事でしたら、ご心配無く。ちゃんと持って来てますよ?」
と海渡が、たこ焼きの屋台と鯛焼きの屋台をドドンと目の前に出す。
「・・・・」
係のおねーさんが、絶句。
「あ、アイテムボックスって言うスキル持ってましてね。」
と補足しておく海渡。
「売り物はこれです。これでチェックは大丈夫ですかね?」
とたこ焼きと、鯛焼きを一つずつ手渡し、聞くと、
やっと再起動した係のおねーさんが、
「屋台出たーーーー!」
と叫んだ。
そして、今度は渡された、サンプルの鯛焼きをパクリと一口食べて、
「何これ、美味しい!!!」
とバクバクと完食し、たこ焼きも同じ様に絶叫しながら、ハフハフと食べて、
「ねえ、君達、おねーさんに、もう1つずつ、売って!」
と滅茶滅茶食い付いて来た。
そんな最高のサクラ状態の係のおねーさんに、周囲もザワザワとし始める。
既に、おねーさんの後ろには、何人かが列を作り始めた。
「ヤバい。値段設定し忘れたw 幾らにするかな?」
と海渡がラルク少年に意見を求めると、
「え?今更っすかww」
と爆笑。
いや、君、そこ笑う場面じゃないからね? 既に列出来ちゃってるから!!
と内心焦る海渡。
すると、係のおねーさんが、
「何?値段決めてなかったの? そう・・・じゃあおねーさんが、物に似合った値段を付けてあげるわ!
こっちのお魚の形した甘くて美味しい物は、そうね、大銅貨1枚・・・いや、これだけの美味しさですもの・・・大銅貨2枚ね。
こっちの丸くて美味しい物、たこ焼き?これはそうね、大銅貨3枚。どうよ?」
とドヤ顔で指を指してきたw
なうるほど、まあそんな所だろうな。
「おーい、値段決まったんだったら、早くやってくれよ!」
と列の後ろに並んでいるおにーさんが、大きな声で叫んで来た。
げ!既に30人程集まってるよ?
海渡は慌てて、アイテムボックスから、作り置きの分を屋台に並べ、たこ焼きも焼き始める。
ラルク少年は、鯛焼き担当である。
最初の30人が捌けて、列を見ると、既にズラッと向こうまで列が続いている。
「あ、兄貴! これ、ヤバいっすよ!助っ人呼びましょうよ! 焼きながらお客さん捌くのは無理っす!」
と既にラルク少年に泣きが入って居る。
うむ。確かに・・・。
海渡は直ぐに伝心で、ヘルプを求めるのだった。
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