第442話
宿舎の部屋割りも終わり、全員で一度地下の工場へと降りてきた。
「ここが新設のラーメン工房です。一応、麵を製造する生産ラインは自動化したんですが、スープの工程をどれくらい自動化出来るかは、工程を知る必要があったので、未着手です。
流石に、何万食を人力だけでやるのは、ブラック過ぎますからねぇ~。
味を損なわず、どれだけ労力を減らせるか、一度工程を一緒に見学して見せて貰ってから打ち合わせさせて頂きたいと思いまして。」
と言うと、
「ほぇ~! カイトっちがスゲーって話は親父から聞いてたんすけど、マジでスッゲーじゃん!! なぁジェシカ」
とライ兄。
するとジェシカさんが、
「スゴイ」
と小さい片言で喋った。
「!!!!! なにーー!?ジェシカが喋った!!! おいおい、俺お前の声50年ぶりなんすけどwww」
と驚くライ兄。
「おいおい・・・50年って・・・信長もビックリだなw」
と思わず突っ込む海渡。
「誰それ?」
とキョトンとする一同。
「ああ、親から聞いた昔の人の話です。気にしないでくださいwww」
と笑って誤魔化す海渡だった。
まずは、必要材料と、手順やその際の火加減とか注意事項とかをメモに取る事にした。
豚骨スープで一番重要で面倒なのは、焦げ付かない様に火加減を調節し、かき混ぜる事だそうで、あの気軽に食べてる1杯に驚く程の労力が注ぎ込まれている事が判明。
材料にしても、その素材の下処理が必要だったり、細かな分量の割合を調節したりと、色々と大変だった。
更に、ラーメンの返し(ダシ)なる物も作る必要がある事が判明。
醤油ラーメンのスープの方は鶏ガラであったが、やはり似たり寄ったりで、大変な作業工程だった。
「いやぁ~、ある程度は知ってたのですが、奥が深いと言うか、本当に大変で繊細な作業ですね。」
と海渡が改めて感心したのだった。
必要な材料を2つのキッチンカウンターにそれぞれ用意し、実際の作業を行って貰う事にした。
一応、断りを入れて、作業工程を記録すべく、ドローンで撮影する事にした。
あと、分量の割合を出す為に、使った材料の記録も取る事にした。
~~
豚骨組と醤油組、それぞれの下地処理が終わり、煮込み作業へ突入した。
どちらも、ここからは目が離せない作業となるらしい。
ふむふむ・・・つまり現状の温度を維持して、時々かき混ぜ、灰汁を取る感じの作業か。
海渡は彼らの作業の合間に、一定温度を保ち、定期的なかき混ぜと灰汁取りを行う、時短の専用時空間調理機を2つ作成し、
「これで、各10時間を5分で終わらす事が可能です。ちょっと使って見ましょう!」
と言って、時短調理機を各キッチンカウンターに持って行った。
「マジか!! っぱねーー!!!」
「「本当ですか!!」」
と驚愕する豚骨組と醤油組。
そして、5分後、チーーンと鳴って、各寸胴を取り出した。
お玉で掬い、小皿に入れて、試飲する各組がOKサインを出したのだった。
「まさか、あの面倒な作業が・・・今までの100年・・・何やってたんだろうか・・・」
とorz状態の醤油組の美人姉妹に対して、対照的に狂喜乱舞する豚骨組は、
「ヤッベー!! マジ、テンション爆上がりなんすけどwww」
とライ兄。
ジェシカさんは、拳を握り、「Yes!!」と第2声目を叫んでいたwww
「あー、なんか一部落ち込まれている様ですが、決してこれまでの時間が無駄ではないと思いますよ?
時短調理機なんて、うちぐらしか、出してませんし、そもそもこの分量や火加減なんかは、時短では習得出来ないですからね?」
とフォローしておいた。
ラーメンの返し(ダシ)に関しても熟成時間が必要との事で、同様に時短調理機を作成した。
これに関しては、スープ側よりは注意事項や神経をすり減らす事は少なく、通常は継ぎ足して行く感じで日々追加して行くそうだ。
なるほど・・・焼き鳥屋や鰻屋のタレ的な感じか・・・。
「これ、それぞれのご実家の方にも1セット送りましょうかね。」
と海渡が提案すると、醤油姉妹は喜び、豚骨兄妹は「えー!? 親父に楽させるのかよ?ww」って感じだったwww
おいおい、おっちゃんにも楽させてやれよwww と内心突っ込む海渡だったw
「では、暫く生産ラインを作ってみますので、一旦休憩に入って下さい。ありがとうございました。」
とお礼を言って、王宮の地下工房へとゲートで移動し、生産ラインの作成に入った。
工程を見学した結果、特に面倒な、豚骨や鶏ガラの下地処理に関しても、魔道具によるラインの作成が、可能な感じ。
骨の下地処理や鶏ガラの下地処理の工程~、一緒に入れるネギ等の洗浄やヘタ部分のカット等、様々な必要作業の部分処理を作成し、それぞれを魔動CPUに接続していく。
分量に関しては、取りあえず、当面は重さによる割合を計算してラインを作ってみる事にした。
そして、1時間ぐらいで各工程をつなぎ合わせてた、スープと返し(ダシ)を作る生産ラインが、完成した。
早速作ったスープを持って、宿舎で休憩中の豚骨組と醤油組の所へ。
「すみません、お休みの所・・・。
スープの生産ライン作ってみたんですが、味見をお願い出来ますか?」
とスープの入った小皿を取り出す海渡。
結果は・・・OK貰いましたwww
「マジか・・・さっき俺の作ったのと遜色ないぜ!! マジかよ・・・」
と驚くライ兄。
「本当に、驚きました!こちらのスープも、バッチリですよ。」
と醤油姉妹。
「そうですかw 良かった。これである程度は自動化出来ますね。但し季節や原料の善し悪しによっても微調節が必要でしょうから、完全フリーって事にはならないと思いますが、全体的には、皆さんに掛かる負担は減ったと思います。
勿論、定期的に味見をして頂く必要がありますが、空いた時間で、良ければ王都でお店出しませんか? 面倒なスープとかは、ライン生産した物をそのまま使えるんじゃないですかね?
それに、麵も生麺をラインの途中で取れますし、あとはチャーシューとかを用意するぐらいになるかな?
ほら、店を出すついでに、味見も兼ねる的な感じとか。そうすると、店で食べ、ラーメンの魅力に嵌まり、旅先での携帯食としても売れ、こちらに来たら、本場の味を店で楽しむと言う、相乗効果ありそうですし。
どうですかね?」
と海渡が打診してみると、4名は大乗り気。
給料は普通にそのまま払うんだけど、要所要所を押さえて貰えば、実際には時間が滅茶滅茶余るしねww
そして、海渡自身にも、いつでも自分のお膝元で、ラーメンが堪能出来ると言うメリットがww ←ここ一番重要ww
「うほっw カイトっち、楽しくなりそうだなw 後で親父に自慢してやろっとw
ぜってー悔しがるぜwwww」
とライ兄がクックックと悪い笑みを浮かべていた。
「いや、あまりおっちゃんのHP削るのは止めてあげてーーww」
と海渡も笑いながら止めるのであった。
「じゃあ、店の雰囲気とか場所とか客席数とかは別途相談するとして、取りあえず、本日の必要事項は完了と言う事で。
いやぁ~、楽しいっすねwww」
と海渡はホクホクしながら、挨拶をして王宮へと戻ったのだった。
ふっふっふ・・・こうなると、鰻屋、蕎麦屋、寿司屋も欲しくなっちゃうなぁwww
そう言えば、こっちに来てからトンカツは食べてるけど、カツ丼って食べてないなぁ・・・。
とか考えていると、ヤバい!!カツ丼食べたい病が発症してしまった。
急いで、王宮の大厨房に行き、邪魔にならな隅の方で海渡は、独自にカツ丼を作り始めたのだった。
ちょっと甘めの割り下を作り、小さいフライパンに乗せて割り下を入れて千切りの玉葱スライスを入れ、切ったオークカツを入れ溶き卵を掛けてっと・・・半熟の状態で炊きたてご飯の上にソーッとのせてっと。
「でけた♪」
そして、マイ箸を取り出して、頂きます!
割り下の浸みたホカホカご飯と卵とオークカツをパクりと一口・・・
「!!!美味っ!!!!!」
と思わず声を上げる海渡。
忙しいアニータさんや、調理スタッフが凝視している。
そして3口目を食べたタイミングで、恐る恐るアニータさんが聞いてきた。
「あのぉ・・・カイト様、それは何と言う料理なんですか?」と。
「ああ、ごめんね。 これはカツ丼って言う食べ物でね、オークカツを割り下と玉葱スライスと卵で味付けした物を上に掛けた丼物なんだよ。」
と言って、直ぐにもう1杯カツ丼を目の前で作ってみせた。
「ほい、熱いから気を付けて食べてみてw」
と言って、丼を手渡した。
海渡は自分の分を食べながら、反応をチラチラと見ていると、箸で掬った一口分を食べたアニータさんが、
「美味しい!!!! うわっ、これ滅茶滅茶美味しいですね!」
と目を見開いて興奮していた。
早速、他の人へと1口ずつ味見させている。
とは言え、10人ぐらいにか廻らず、他の大半の人には廻らなかったwww
食べられなかった人の落胆振りが凄いw
なので、海渡は自分が食べ終わった後、急いで10杯分を追加で作り、食べてない全員に廻したのだった。
結果、全員に大好評で、割り下のレシピも含みでカツ丼レシピを作って、アニータさんに手渡した。
ふっふっふ・・・これで近々にカツ丼がメニューに増える事だろう。
「あ、これって今はフライパンで作ったけど、本当は専用の鍋が必要なんだよね。ちょっと作ってくるよ!」
と言い残して、地下工房へと消えていったのだった。
地下工房で、アルミの板を光シールドでプレスし、浅めの鍋の原型を作り木の丸棒で取ってを真上に付け、アルミの鍋にはアルマイト加工の代わりに、光コーティングで酸化防止を掛ける生産ラインを作成した。
別途、ジャストサイズの蓋を作り出す生産ラインも作成した。
直ぐに生産ラインを起動し、数十分で300セットが完成。
最初の300セットを持ってイソイソと大厨房へと納品しておいた。
後日、店舗側の厨房へもレシピと一緒に作成動画と完成品を流し、日本の新たな丼文化に花を添えたのだったw
ちなみに、その日の夕食時、地下工房から上がって来たステファニーさんと、ダンジョンから戻ったフェリンシア&ジャクリーンさんに、「「「海渡だけ食べてズルイです!!!」」」と詰め寄られ、またカツ丼を5杯程作る羽目になったのだった。
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