第389話


海渡らはギルドのロビーを出て、裏口の外から、訓練場へ向かう。


訓練場は、屋外にあり、コロシアムの様な円形の形をしていて、真ん中の舞台の大きさは半径100m、周りには3段の観客席があった。


海渡らは、その舞台に入り、テーブルと椅子を出して、カフェオレやジュース等、思い思いの物を出して寛ぎつつ、時が来るのを待っていた。

その異様な光景に、観客席にやってきた見学者達(ロビーに居た冒険者達)は、息を飲む。


そして、そのテーブルの会話が微かに漏れ聞こえて来る。


「兄貴! 何処までやっちゃって良いすかね? 殺しさえしなければ大丈夫っすかね? まあ最悪、回復魔法もあるしw」

と珍しくラルク少年が荒ぶっている。


「ふふふ、あれだけの事をしてくれて、あれだけ笑い転げたんですもの、腕の1本や2本くらいは、ノーカウントですよねwww」

とフェリンシアも久々に好戦的な笑みを浮かべている。


「うちもな、今回は久々に頭に来たで。こうなったら、ステファニーの全開を見せたろかww」

とこれまた珍しく、ステファニーさんも怖い笑みを浮かべている。


「「「「私達の群れのボスに何て事を・・・。五体満足では帰しませんよ。」」」」

とケモ耳ズ。


「「この競技場って、良く燃えそうですね。ふふふ」」

とアンとサニーも不穏な発言を・・・。


「「「「「「「「「ああ、生け贄はまだですかねぇ?」」」」」」」」」

と9名の声がハモる。




その頃、さっき海渡達の相手をした腹黒美人受付嬢・・・ナニーニは、酷く困惑していた。

最初は子供のゴッコ遊びの延長で、金持ちの商人のバカ息子の遊びに、揃いのコスチュームを着せて粋がって居る程度に思っていた。

そこで、他のバカな冒険者へのウケを狙ったあざとい、良いおねーさんフリをして見せたのだが、余りにもその子らが示した設定が酷すぎて、バカ笑いし、痛い目を見せてやれと思っていた。


そう、途中までは・・・。


しかし、この大陸の冒険者ギルドにおいても、大原則として、ちゃんとすべき説明をし、どの相手にも平等で均一で誠実な対応をする事が義務付けられている。

今回、あまりの設定のぶっ飛び過ぎと子供と言う事が先行し、その果たすべき義務を怠ってしまった事。これが上司の目に止まる事となると、非常に拙い事になるのである。


予め、課せられた条件や説明は、冒険者が一方的な不利益を被らない様にする為、厳命されているのだ。


よって、これが露見すると、良くて減俸、悪ければ解雇となる。


つまり、露見させない為には、是が非でも彼らを不合格にする必要があった。

しかし、最後に海渡が漏らした殺気によって、不覚にも少しチビってしまう程の恐怖を感じ、まさか・・・本当に? と思っている訳である。

ナニーニは、指の爪を噛みながら、必死で誰を試験官とするべきか、考えていた。


今、このロビーに居る冒険者の中で、自分の言う事(闇オーダー)を聞いてくれる、最大戦力の冒険者・・・。


Cランク・・・いや、ダメだ。もしもの事がある。もっと強い者・・・Bランク・・・いや出来ればAランクの冒険者・・・と目を血走らせて見回していた。


しかし、海渡らが訓練場へ行った後、あれだけ居た冒険者達の殆どが、少し青ざめながら、後を追う様に訓練場へと消えていった。


ダメだ・・・このままでは非常に拙い。時間だけが刻々と過ぎて行く・・・。



とそこへ、神の気まぐれか、この王国で唯一のSSランクパーティ、『絶対領域』の5名がやってきた。


この『絶対領域』は5名のSSランク冒険者で構成されている。


しかも、本来は後輩受付嬢の担当だったのを、体を使った寝技を駆使し、当時Aランクであった『絶対領域』側から難癖をつけさせ、ナニーニに交代させた。

つまり後輩の担当を裏から手を回し、不当に奪った訳である。


そのショックで後輩受付嬢は、ギルドを辞めてしまった。

これが明るみに出ると、問答無用で完全に一発アウトである。


証拠こそないが、普段の裏表ある言動で、腹黒受付嬢ナニーニは同僚の受付嬢から総スカンを食っていたのだが・・・、あざとい仕草と、元々美人の可愛い笑顔で騙される冒険者が多く、冒険者からの人気は高い。



更に言うと、本来であれば、平等な対応が義務付けられているにも関わらず、ナニーニは、彼らのランクアップの為、Bランクの依頼をAランクに偽装し、報酬金額を上げたり、任務達成率を水増ししたりしていた。


これは、とてつもない背任行為であり、ギルドに対する裏切り行為である。

既に解雇で済む問題ではなく、確実に雇用時の契約に基づき、一生掛かっても払いきれない程の罰金が科せられる行為となる。


それは、結託していた『絶対領域』の5名に関しても同じで、同様の罰金を科せられ、冒険者資格は剥奪され、二度と冒険者登録は出来なくなるのだ。


ナニーニと『絶対領域』の5名は謂わば一蓮托生、同じ穴の狢と言う奴である。

最年少でSSランクまで上り詰めた彼らは、名声と同じくらいの悪評が付きまとう、非常に厄介な冒険者パーティであった。


綺麗な女性冒険者を見かけると、あの手この手で追い詰め、パーティ5名で廻し、ボロボロにして捨てるだけでなく、場合によっては、不慮の事故で亡くなる事も多い。

そんな鬼畜SSランク冒険者パーティ『絶対領域』、不正をしてSSランクに上り詰めたとは言え、戦闘力だけで言えば、この国の中では、ピカイチであった。


「あら、(良い所にwww) ザック、依頼は終了したの?」

と『絶対領域』のリーダーに話掛けるナニーニ。


「おう、ナニーニ。任務完了だ。 どうした? 何か顔色が悪いようだが? (今夜辺りどうだ?)」

とニヤつくザックと『絶対領域』のメンバー4名。


「(良いわよ! こっちのお願い聞いてくれるならw たっぷりとww) ああ、ちょっとね。 ああそうだわ、ザック、貴方達、ちょっと新規の冒険者登録をしたいって言う子供達の試験管やってくれない?

何か、作り話が酷くてねぇ。止めたんだけど、ヤルって聞かないのよ。

(絶対に、落として! 腕の1本でも2本でも不慮の事故で切り落としちゃって良いから。 あと女の私でもビックリするぐらい綺麗な女の子が8名もいるの・・・みんなで食べちゃってボロボロにしちゃって良いからw)

これが、その子達の登録申請書よ、目を通して見てw 凄いからwww」

と海渡らの登録申請書を見せるナニーニ。


「「「「「ププッ・・・ハッハッハッハッハ!!!! 何だよこれwwww」」」」」

と大爆笑する『絶対領域』の面々。


「判った。じゃあその期待の新人の能力テストを引き受けようじゃないか!(ぶっ壊して落とせば良いんだな? 女は落とした後、食べていつもの様に壊して良いだよな?ww)」

とニヤニヤとしながら、訓練場へと向かうのであった。

その後を少しホッとした表情で、イソイソと着いて行くナニーニ。


他の受付嬢は、これはかなり拙い状況であると感じ、1人は訓練場へ、もう1人はギルドマスター室へと走ったのだった。

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