第351話


異世界3ヵ月と15日目。


日々ゲルハルト帝国の軍の進行具合を確認しているが、相当に無理をしている様で、夜遅くまで行進が続いている様だ。


「ここまで酷使してると、国境に着く頃にはボロボロだよな?」

と末端の兵士に思わず同情してしまう海渡。


実際、ゲルハルト帝国の兵士はボロボロであった。

食糧事情も良く無いのに、我が儘な皇帝の一声で、日程が早まり、進行途中から、伝令によって伝えられた新しい命令のせいで、毎日ボロボロになるまで歩かされていた。

よって、開戦前から軍の士気はガタガタ。

既に脱走を試みた兵士が、何人も見せしめで処刑されている。

また、劣悪な環境で病に掛かってドロップアウトする兵士も少なくはなかった。

通常、兵士の士気を支える根底は、愛国心であり、家族への愛であったりするのだが、この国の兵士に至っては、愛国心など無い。

あるとしたら、野心や、権力を得た後の欲望を満たす事ぐらいである。



まあ、海渡としては、自分や自分の大切な仲間を害する者へ容赦する気は無いので、徹底的にやるだけだ。



海渡は朝の鍛錬の時間が来るまで、地下工房で、ショールーム作りに精を出す。

余り凝った建物ではないので、一軒建てるのに必要な時間も労力も少ない。

朝練までの1時間余りで、22軒のストック分を作ってアイテムボックスに収納出来たのだった。


各支店には、領主様へ空港横に設置の許可を取って貰う様にはお願いしてあるで、許可が揃えば、海渡、フェリンシア、ステファニーさんの3人で手分けして設置して廻る予定である。


「これで、弟子ズ全員が設置して廻れる様になれば、本当に楽なんだがなww」

と思わず願望が漏れてしまう海渡だった。



朝練は、昨日同様にプリシラの魔法特訓に付き合い、後半からは、全員にゲートの習得講習を行った。

やはり、若干プリシラが出遅れているが、スタート時期の問題だからしょうが無いだろう。

魔法に関してであれば、特に驚くべきは、少年少女隊の3名。

その3名の中でも、ラルク少年の進歩が目覚ましい。


「よし、全員ちゃんと自主練したり、魔力を使い切って寝る癖を付けている様だな。偉いぞ!! 日々上がる魔力量は微々たる物だが、それでも筋肉と同じで、蓄積が大事だからな。

そうする事で、レベルアップした際の伸び幅が増えるから、お得なんだよねw まあ段々使い切るのが難しくなるけど、出来るだけ続けて欲しい。」


「「「「「「「イエス・サー」」」」」」」


「あ、朝食の後は、また昨日のエルフの所に行くから、付いて来てくれる? パイロットスキルの講習会やるから。」

と海渡がお願いすると、置いてきぼりになっていた少年少女隊が目を輝かせる。


「「「「「「「イエス・サー」」」」」」」



朝食の時にステファニーさんに

「今日も『エルフの里』に行くけどどうする?」

と聞くと、他の農耕用魔道具もテストでもって行きたいとの事だったので、了承した。

女神様の加護と智恵子さんを持ってから、ステファニーさんの開発ペースが凄まじいww

本人曰く、乗りに乗ってる時期だそうだww



朝食も細事の打ち合わせも終わり、南門の滑走路から飛び立ち、上空でショートカットして『エルフの里』に到着。


「お!カイト様じゃ!」

とワラワラと集まるエルフ衆。


「良い所に! カイト様、ちょっと稲を見てくだせぇ!」

とガラスハウスに連れて行かれると、既に田植え段階の稲がww


「おお! これもう植え時だと思いますよ!」

と言うと、


「「「「よっしゃーーー!」」」」

と準備に散るエルフ衆。


「ふっふっふ、うちの魔道具の出番やね!w」

と田植え機(海渡が提案)を4台用意するステファニーさん。


種籾の木箱をセットし、エルフ達によるテスト開始。

3回程調節して、ベストな状態になると、本格的に田植え開始。


「ほう、こら便利だべ!! 手で植えるより、早ぇし楽だべさww」

とエルフの評価も好調。


「ステファニーさん、バッチリじゃないですか! これ、量産しましょう!」

と、田植えの最中にトリスターの地下工房に2人で戻り、生産ラインを立ち上げる。

ちなみに、弟子ズ達には、待ちの時間の間にパイロットスキル講習会をやってもらっている。


「なるほどなぁ、こないして生産ラインを作るねんなぁ。おもろいわ。」

と感心するステファニーさん。


海渡のレクチャー通りにもう1ラインを作り、稼働させた。

20分で10台の完成品を取り出して、舞い戻り、手分けさせて、一気に田植えを終わらせた。


更に、ステファニーさんにお願いし、テリラスのダンケさんの元へ生産完了した田植機を20台運んで貰う事にした。


パイロットスキルの生えた少年少女3名には慣熟飛行に送り出した。

その間に、自動車と飛行機を出して、手の空いたケモ耳ズ4名と海渡、フェリンシアの6名で手分けしてエルフ衆にパイロットスキル講習会を行う。


それから暫くして、ステファニーさんが戻って来た。


「次は稲刈り機やなww

この方法が上手ぅ行けば、コーデリアの収穫率も変わるで!! 米革命やで!! 田植機も稲刈り機も馬鹿売れやww」

と気合いが入っていた。


そして、1時間が経過する頃には、少年少女もエルフ衆も完熟飛行や走行が終わり、全員がLv3以上に上がったのだった。




昼食は、宿舎の食堂で、海渡がオークカツのカツカレーを全員に提供した。

勿論大好評で、ストックしておいたカレーが大幅に減る事となったww


食後のお茶タイムで、

「なぁ、カイト様、この村の名前を決めてくだせぇ! 名無しのまんまじゃ、カッコつかねぇーべさ。」

とエルフの1人が言うと、周りのエルフも、ウンダ、ウンダと頷いていた。


「えー、名前かぁ・・・ 一応、ワンスロットの王様へは、農業試験場って名目になっているんだよね。うーん・・・『さえじま商会農業試験支部』とかじゃ、野暮ったいよなぁ・・・

うーーん・・・さえじま商会農業試験支部『希望の岬』ってのでどう? 通称『希望の岬』。」

と言うと、全員から拍手で賛同を得た。


食後に早速看板を作り、3つの城門に掲げた。


更に、飛行場を正式に作り、格納庫も設置。岬から管制タワーも移設した。

格納庫には、飛行機2機を置き、エルフ衆に買い出しが必要な時等は使って良いと伝えた。



周囲を見回して、

「これで、一応ここも一段落だな?」

とホッとする海渡だった。

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