第305話
取りあえず、神の実騒動は無事鎮火し、平常運転に戻ったヨーコさんに、就業時間後に食堂で全員にスタンダードなユグドラシルの実を全員に配る事を伝える。
各支店へも、食事用の時空間共有倉庫から配布して貰う様に連絡して貰う。
そして、大食堂の厨房へ行き、アニータさんに、全店舗の全スタッフ(孤児支援組や自宅組も含め)の分として、ユグドラシルの実を10個渡しておいた。
既に作ってある今夜の夕食は、そのままストックに回す様にとお願いする。
「これで、お腹いっぱいになるのでw」
と1口のサイズを切り出して、アニータさんに食べさせる。
「!!!!」
と至福の表情の後、満腹感に驚いていた。
お伽噺の中の架空の存在と思われていた、ユグドラシルの木、さらに500年に1度と言われるその実を食べられる!? と言う噂は、ものの20分もせずワンスロット王国内の全支店の全スタッフを駆け巡り、本日支給されるボーナスとこのユグドラシルの実で全員が浮かれ上がっていたのだった。
そんな事は全く知らない海渡は、暢気に地下工房でハンドガンの改良を行っていた。
ギリギリまでグリップを小ぶりにして、コンパクトにし、引き金に指が届くラインまで削り混む。
嬉しい誤算は、加護の影響か、それとも神の実の影響か、体全体が成長し、身長にして7cm伸び、それに伴い掌も大きくなっていた事。
実際の所、今の掌だとフェリンシアの掌よりやや指が短いぐらい。
お陰で、なんとか海渡が持てるボディのハンドガンを作る事に成功した。
一応、元のサイズと、コンパクトグリップ版の2種類の製造ラインを作成した。
あとは、3種類の弾のマガジンと弾を作成するラインをそれぞれ3つ作った。
そうそう、マガジンは当初の物から改良して、底部に3段階のダイヤルを付けた。
このダイヤル1~3で威力(電力)を調節する様にした。
でないと、オーバーキルになるからね。
「よし、あとは・・・少年少女の武器を作るか・・・」
とゲートで先日作った秘密基地へと飛び、地上の格納庫の横に土魔法で小屋を作成し、中には煙突と炉を作った。
「まずは、ラルク少年用の刀か。」
日本刀を作る訳だが、智恵子さんと素材を検討した結果、芯となる鋼材の代わりに、ミスリルと骨粉の合金で作る事にした。
まずは、元となるミスリル合金を精製し、インゴットを作成する。
そのインゴットを叩き、伸ばし、折り返し、を繰り返す。
12回折り返して形を整えた後、今度は外側用の骨粉入りの鋼材を精製し、同様に伸ばし、折り返しを繰り返す。
そして、それを2つに切り分け、再度加熱した上で、骨粉を撒き、同じく赤く熱した先のミスリル合金を置き、骨粉を撒き、切り分けたもう1つの鋼材を上に置く。
再度、炉で過熱して、一気に叩いてサンドしたミスリル合金が密着するように、気合いを入れて叩く。
ちなみに、このベースとなるミスリル合金をサンドした鋼材から、海渡は大小1本づつ、フェリンシア2本、ラルク1本、アン1槍、サニー2本の刀(槍の刃先)を作る予定である。
形を整えながら叩いては伸ばし、加熱し、叩いては伸ばし、必要な長さと本数分に切り分けた。
(実際には、これら全ての作業を身体強化、身体加速、クロックアップを使ってやっている為、異常な速度で作業が進行している。)
まずは、練習がてらに、海渡の刀を作成する事にする。
細身で薄く切れ味と頑強性をイメージしつつ、魔力を込めて叩いていく。
反りをいれて、剣先を作り、柄の部分を作って、最後に焼き入れをする。
ちなみに、焼き入れの時間は、初めての鋼材と言う事で、智恵子さんに情報を貰った。
焼き入れ後の最後の冷却は、贅沢だがタンカー・ホエールの肝臓から抽出した油を使用した。
ジュプ と言う音と共に、油の中で刀が神々しく光る。
今度は研ぎだ。これは少々面倒で、更に堅い合金を作り、最高高度でヤスリと砥石を生成した。
荒削りは、同様の素材を塗して作ってベルトサンダー(魔道具)で行う。
微修正はヤスリを使い、最後は砥石で刃を立てていく。
最後にカイト印を刻印して完了。
「おーーー!!!!」
と完成した自分の刀を見て、嬉しさとその美しさでウットリする海渡。
「悪く無い。いや、今まで作った中で、最高の出来だよな。」
今までなら反省点や不満が残るのだが、今回のは文句なしに良い出来映えだった。
「よし、今の感覚を忘れない内に・・・」
とフェリンシア用の2本を作成して行く。
更に、ラルク少年の1本・・・サニーの2本・・・アンの槍の刃部分。
全てが完了し、最後はアンの槍の柄の部分の作成。
これはアイテムボックスに死蔵されている、エルダートレントの枝を使う事にした。
当初ユグドラシルの枝を使おうか?とも思ったのだが、何気に世界最高の素材と言う事もあって、取りあえず止めておいた。
海渡とフェリンシアの刀の鞘はユグドラシルの枝から、少年少女の刀の鞘はエルダートレントの枝で作成し、ミスリル合金の補強材を両端と中央に使った。鞘の色はつや消しの黒にした。
鍔の部分は、オーソドックスな楕円形状の物をミスリル合金で作成し、柄部分はトレント繊維を編んだ紐で作った。
槍の石突き部分もミスリル合金で作成して装着した。
うむ・・・完成したな。
再度自分の刀を抜いて、目の前に掲げ、刃紋や刃先の曲線、握り心地、重量バランス等を確かめ、ニマニマと悦に浸る。
飛行機や自動車を作った時も確かに嬉しかったが、今回の嬉しさは別格だった。
前の世界で打って来た刀鍛冶での作品は、お世辞にも良い出来とは言えず、作る度に才能が無いのかとガックリしていた。
しかし、そんな自分がこの作品を作れた事の喜び・・・これは非常に大きかった。
暫し眺めていたが、試し切りをしてなかった事を思い出し、滑走路の下の地下室に移り、準備をする。
普通の木、トレント、エルダートレント、ユグドラシルの枝を取り出し、床に立てる。
そして、刀を正眼に構え、出した順番に袈裟斬りに斬り付ける。
シュン と言う音すら聞こえぬ程の瞬間で、普通の木が切れる。
今度は居合いの構えで、真横に2回斬り付けると、丸太の板が出来た。
ただ立てただけの木は倒れもしていない。
そして、トレントも同様に3回斬り付けるが、普通の木と変わらない抵抗感・・・と言うか抵抗を感じない。
今度はトレントより更に堅いエルダートレントに斬り掛かる。
袈裟斬りにすると、やや抵抗を感じるが、サクッと切れた。
立てただけのエルダートレントが、少しぐらつく。
居合いの構えで真横に斬りつけると、切れた事は切れたのだが、横にそのまま倒れた。
切り口を見ると、真横一直線ではなく、中盤辺りから若干斜め上に逸れていた。
ふむ・・・どうやらここら辺が通常状態での限界らしい。
次に『鋭利増加』『貫通増加』『斬撃加速』を1回付与し、魔力を纏わせてから、再度立てたエルダートレントに真横に斬り掛かる。
今度は全く抵抗を感じず、薄い板が出来た。
次にユグドラシルの枝を袈裟斬りにしてみる。
付与前のエルダートレントより、かなりの抵抗感があったが、何とか切れた。
「なるほど、1回の付与だとこれくらいなのか。」
とそれでもユグドラシルの枝(と言う名の丸木)を切断可能な訳だ。
ハッキリ言って、これは凄い。
斬った後の刀の刃を入念にチェックするが、刃こぼれ一つ無い。
「うむ・・・断言しよう。これは良い仕事だwwww」
気をよくした海渡は余った鋼材で6本のサバイバルナイフ(所謂ランバーナイフの小型版)と、2本の包丁を作った。
ナイフの鞘は、オーガの皮で作成し、ナイフと包丁のグリップ部分はトレントの端切れを合わせ、手に馴染む形状に削って作った。
最後にカイト印を刃と柄と鞘に刻印し、完了。
『フェリンシア! 今何処?』
と伝心で聞くと、
『今、託児ルームで子供らと遊んでます。』
と直ぐに返事が返ってきた。
『手が空いたらら、渡したい物があるから、基地の地下スペースに来れる?』
と言うと、了解と返事があり、3分もせずに、ゲートでやって来た。
「何ですか?渡したい物って♪」
とワクワク顔のフェリンシアが来る早々に聞いて来る。
「これ、作ったんだよ。」
と打った刀2本とナイフを渡す。
「わぁ! 刀作ってくれたんですね!!!」
と腰に2本刺して、早速抜いたり素振りしたりと、バランスを見るフェリンシア。
「もし、バランスとか改良点とかあったら、調節するから言ってね。」
と言うと、
「バランス・・・凄いシックリ来ます。 何か斬る物が欲しいですねw 絶界の森にでも行こうかな?」
とヤル気満々のフェリンシア。
「じゃあ、これで試せば?」
と先ほどの丸太を立ててやり、普通の木から順に試させる。
舞うように斬り付け、サクサク斬れていく・・・
エルダートレントまでは、付与無しで切れる事に大喜びのフェリンシア。
「凄い切れ味ですよ!これは凄いです!!! これならワイバーンもきっとサクサクですよw」
そこで、海渡はふとブラック・ワイバーンより堅かったヒュドラを思い出した。
「ねえ、試しにブラック・ワイバーンより堅いヒュドラ斬ってみるか! 俺もちょっと試したいし。」
とヒュドラの首を1本取りだした。
海渡は自分の刀を取り出した。
付与無しで斬り付けて見ると・・・ガキンと音がして、鱗に深い傷が入った。
刃をチェックすしたが、刃こぼれは無かった。
なので、『鋭利増加』『貫通増加』『斬撃加速』を1回付与し、魔力を纏わせて、再度同様に斬り付けると、ホットナイフでバターを切るぐらいの抵抗でサックリとスライス出来た。
それを見たフェリンシアも、最近使える様になった付与で、『鋭利増加』『貫通増加』『斬撃加速』を1回掛けて同じ様にスライス2枚を作ったww
「これ、最高じゃないですか!!」
と大喜びのフェリンシア。
喜んでくれるのは良いのだが、余りの嬉しさに両手に刀(付与しっぱなしで切れ味最高)を持ったまま、抱きつこうとするのは止めてほしい。
海渡は抱きつかれる寸前で、大きくバックステップして、
「フェリンシア!! 刀!刀!!!」
と叫びながら、冷や汗を掻いていた。
「てへ?」と舌をだしていて、可愛いけど、ヤバいから本当に止めてね?
海渡とフェリンシアは、試し切りした、ブラックワイバーンや木材を片付けて、地下工房へと戻ったのだった。
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