第211話

 異世界2ヵ月と7日目。


 新しい部屋で目覚める朝。日の出はまだである。


 新しい屋敷の屋上へと上がり、まだ暗いトリスターの街並みを眺める。

 最近早朝は、吐いた息が白くなる。

 そのうち、この世界でも雪が降ったりするのだろうか? と考えつつ、ラピスの泉の水を、コップ1杯飲んで、朝の鍛錬を行う。


 鍛錬が終わり、一旦部屋に戻ると、フェリンシアが起きて来た。


 イソイソとしてるので、

「どうしたの?」

と聞いてみると、


「せっかくだから、朝風呂に入ろうかと思ってw」

と嬉しそうにほほ笑む。


「ああ、そうか、同じ階にあるし、俺も入ろうっとw」

と海渡も一緒に部屋を出る。


 脱衣室の前で別れ、男風呂の脱衣所に入ると、既に数名先客が居た。


「あ、おはようございます!カイト様も朝風呂っすかw ここ最高ですよね!」

と従業員らが口々に称賛している。


「おはようございます。やっぱり、朝風呂って最高の贅沢だよねw」

と海渡も同意して笑う。


 やっぱり、鍛錬の後、一応クリーンは掛けているのだが、風呂で流すと気分が違う。


 湯船に浸かって、「ふぁーー」と手足を伸ばしていると、ドンドンと人が増えてくる。


「あ、おはようございます!」

と続々と。


 昨日貧民街やスラムから引っ張って来た小さい少年も混じっている。

 体を洗って、彼らが湯船に浸かりつつ、

「カイト様、ありがとうございます。ここ天国の様な場所です。俺、頑張ります!!!」

と涙ぐんでいた。


「まあ、苦労した分だけ、良い事もあるさ。頑張れよ!」

と言って先にあがる。


 振り返ると、朝日が昇っていて、照らされた町が綺麗だった。


 風呂から上がったが、まだ6時過ぎ。


 時間が余ったので、地下工房で、さっきクリーンで思い出した製品・・・ 洗濯機と食洗器を試作してみる。

 作ってみて思ったのだが、これは酷いwwww


「まさか、こんなにチート性能とはww 元の世界でこれを発表すると、白物家電は独占出来そうだよなw」

と苦笑する。


 洗濯機と言ってるが、実際にはクリーンを掛けて除菌するだけ。

 食洗器も同じ。


 凄いのは、その効果と所要時間。

 3秒っすよ、3秒! どんなに汚れていても、3秒で真っ白清潔。


「なんか、CMのコピーが浮かんで来そうww」

と1人でニヤッとしてしまう。


 しかし、あれだな。同じ物で形を変えて売るってのがなぁ・・・いっその事、1つに統一するか?


 と言う事で、横開きタイプの戸がついた、電子レンジっぽい大き目の四角い箱とし、縦置き横置きで使い分ける感じにした。


「命名、洗濯機+食洗器・・・略して洗浄機!」

 かなww


 これの生産ラインを作成し、動作確認後、10ライン製作して工場へと設置した。


 試作で作った40個はアイテムボックスに収納し、キッチンに10機配置し、朝食を作っているスタッフに利用方法を教えると、大喜びされた。


「わぁー、これで手荒れから解放されそうw」と。


 メイド部隊の使う洗濯エリアにも10機配置しておいた。

 メイド長のリリーさんに、洗濯機の事を話し、使い方を教えると、やはり大喜びされたw


 建物が大きくなり、人も増えた事で、洗濯物が増えた為、ちょっと困っていたらしい。


「ナイスなタイミングです!」

と親指を立てていたw


 ダスティンさんに、食洗器+洗濯機のラインを10機設置した事を知らせ、オスカーさんには新商品の値段どうする?と相談すると、


「金貨5枚でどうでしょうかね?」

と言うので、理由を聞くと、


「1人を1人増やすよりも2年使えば安くなる金額」

との事。


「うーーん、正直それを聞くと何か複雑な気分だな。」

と微妙な気分になるのだった。


 まあ、結局金貨5枚に決定したんだけどね。


 オスカーさん曰く、

「ご心配は御尤もですが、大丈夫ですよ。皿洗いしてた人が効率良く他の仕事をすれば、更に先に進めるし、店も儲かるんですから。

 でも、これも飛ぶ様に売れると思いますよw 特にこれからの季節はww」

との事。


 ふむ。そういう物なのかな。



 8時半を過ぎた頃、フェリンシアと町へと繰り出す。


 久々にトリスターの屋台のおっちゃん達に、

「おう!坊主と嬢ちゃん! 久々じゃねーか! あんまり来ねぇから寂しかったぞ!」

と挨拶され、


「ええ、ちょっと彼方此方に飛び回ってたもので・・・また近々に出かけるんですけどね。」

と言いつつ、爆買いして行く。


 色々おまけを貰ったりしながら、買い進み、領主館へとやってきた。


 門番のおじさんに、

「お久しぶりです! ちょっとアルマー様にお話しあって来てみました。」

と言うと、そのまま通され、ゲージさんに先導され書斎へとやって来た。


「ご無沙汰しております。」

と頭を下げる海渡とフェリンシア。


「おお、カイト君! 久々だね。 店もカフェも温泉も凄い状態みたいだね。 それと、あの建物!! 見たよ凄いね!」

と嬉しそうなアルマーさん。


「ええ、お陰様で、人をドンドン増やさないといけないので、必然的に収容人数の関係で、デカくなってしまいました。」

と少し申し訳なさそうに告げる。(なんか下手すると、ここより立派な感じもするしねぇ・・・)


「いや、君のお陰で、今やトリスターは『飛ぶ鳥を落とす勢い』と言われるぐらいに発展してるんだよ! いやぁ感謝感謝だw」

と満面の笑み。


「で、今日はですね・・・ちょっと込み入った情報が入りまして、その報告とご相談で来ました。」

と言うと、


 真剣な顔つきになり、

「ほう、どういった事か聞かせてくれるかい?」

と。


 そこで、海渡は女神様の情報で聞いた、問題の都市の話をし始める。


「まず、ラステン、ジェイラス、ドエイヤの3つの都市・・・これはエリンガ領と同じで、領主様が非常に拙い人らしく、更に悪いのは、塩不足で領民は、現在危機的状況の1歩手前。

 もし、我々が救援に行くと、十中八九エリンガと同じ騒動になる事が、ほぼ確定している様子。

 次に、トスゲド、ラスマニア、ギュート、グレッセン、グリス、ドゲラオ、ラリス、サスケード、ハリセンは、やはり領主様が非常に拙い人らしいが、まだまだ危機的状況まで余裕があるらしいとの事。

 但し救援に行けば、エリンガと同じ騒動になるのも確定と・・・。」

と一気に言う。


「うむ。今言った領主が先日頭に浮かんだヤバい貴族だ。良く調べたね。しかし、危機的状況の1歩手前となると、放って置く訳にもいかんな・・・」

とアルマーさん。


「なので、ここら辺は先日お願いした王様の兵に一芝居うって貰って、速攻で絞めてしまう感じで考えてます。

 しかし、それよりももっとヤバい話がありまして・・・。

 うちと言うより、国家的な問題なのですが、ゲルハルト帝国が、来年の1月下旬までに、ワンスロット王国とコーデリア王国に再度進行してくるみたいでして、現在下準備を始めているとの情報が入ってます。」

と言うと、


 ガバッと目を見開き、

「それはマズイじゃないか! 陛下へは報告入れたのか?」

と聞くので、


「いえ、これは昨日の夕方に入って来た情報なので、まだ。

 しかし、私が言って信じて貰えるか? または私が変に諜報活動や裏工作をしていると疑われ兼ねないレベルの情報なので、危惧してまして、一度アルマー様にご相談してからと思いました。」

と伝える。


 すると、アルマーさんは、

「確かにそういう事を疑うレベルの内容でもあるが、陛下は全面的にカイト君を信用するよ。現に今だって、君に好きに国内の事をやらせてくれているじゃないか。

 まあ、問題は他の家臣や、貴族レベルの問題はあるが、陛下の事は100%大丈夫だと思うぞ?」

との事。


「そうですか。それを聞いて安心しました。あと、そろそろ、絶界の森の最後の調査で、避難勧告の白紙化をした方が良くないでしょうかね?」

と言うと、


「そうだな。じゃあ、今日冒険者ギルドの方に依頼を出して置くよ。」

とアルマーさん。


「あ、あと面白い物を今朝作ったので、キッチンとメイドさん達にお渡ししたいと思って、2つ持ってきました。」

と洗浄機を2つ出す。


「ほう、これは結構大きいな。何に使う物なんだい?」

と言うので、


「これは、洗濯物や食器や鍋とかを綺麗にする魔道具ですね。」


「洗濯場に1個、キッチンに1個あれば、この中の物を3秒で綺麗にしてくれます。」

と言うと、


「ほう!それはメイドや料理スタッフが喜びそうだなw 相変わらず、君の発想は凄いねw」

とアルマーさん。


 早速、アルマーさんは料理長とメイド長を呼び、魔道具を渡す。

「おお、これは便利ですね。ありがとうございます。」

と2人に喜ばれた。


「では、後で王様へ連絡してみます。」

と海渡とフェリンシアは領主館を後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る