第150話


食べ終わった彼らに、ダメ押しのハチミツ水を再度飲ませた。

7人を鑑定すると、完全に正常状態に戻っていた。



ホッとして話を始める海渡。

「俺は、カイト。こっちはフェリンシア。俺も両親を魔物の襲撃で亡くして、フェリンシアと2人でトリスターと言う都市にやって来て、今は商会もやってるんだ。

君達、働く気があるなら、うちの商会で働くかい? 済む場所と食事と給料はちゃんと払うし、真面目に働く気があるなら、応援するよ。」

と打診してみる。


すると、全員がパァーっと明るい顔して、

「本当か! 本当に俺達でも雇ってくれるのか?」と聞いてきた。

なので、

「本人のヤル気次第だよ。

色々勉強したり覚えて貰う事もあるけど、ちゃんと働いた分には報いるよ。何より、今日の食べ物も、今日の寝床も心配する事がなくなるよ。」

と伝える。

全員が「「「「宜しくお願いします」」」」と頭を下げて来た。


そうと決まれば、話は早い。

「じゃあ、みんなここから、移ろう。着いて来て!!」

と、全員を連れ出す。

まずは、洋服屋をみつけ、適当な着替えを上から下まで3着づつ買いそろえ、着替えさせる。

靴屋で靴を買い、穴だらけの靴から履き替えさせる。



病み上がりの彼らに7km以上の徒歩は厳しい様なので、どうしようかと思案しつつ、メインストリートの方へと出た。

すると、運の良い事に、丁度止まった乗合馬車を発見し、全員で乗り込んで、店舗へと向かう。


途中で、ヨーコさんには連絡して事情を話しておいた。


店に着いて、オスカーさんにも伝え、明日一緒にトリスターに連れて行く事を話す。

12歳未満の子供らは、当分託児ルームを担当させて、色々なお手伝い程度にする予定。

リーダー格のザイツ君13歳にはちゃんと店か生産部門で働いて貰う予定だ。

この子らの中には、料理スキルを持った女の子が2人居た。今から育て上げて、ちゃんとスキルを活かした道を用意してあげたい。


なにより、ザイツ君以外は文字も計算も出来ないので、そこら辺も教えて行く事になる。


今晩はこの従業員宿舎に泊まってもらい、明日はトリスターに行く事を全員に伝え、了承して貰ったのだった。


若干色々で遅くなったが、昼飯を用意する事にする。

宿舎の1階に作った食堂で、前にフェリンシアが森で乱獲したカモフラージュ・カウのステーキを作ってみる。


このカモフラージュ・カウ、鑑定によると、かなり美味しいらしい。

カモフラージュだけに、見つけにくく、殆ど市場に出回らない、幻の牛の魔物とされているらしい。

肉質は柔らかく、綺麗なサシも入っていて、A5ランクの和牛さながらである。


「これ、滅茶滅茶良いサシ入ってるねぇ。もっと早くに思い出せばよかった!」

とおもいつつステーキを大人数分焼いて行く。

肉の焼ける良い匂いがキッチンに漂い、その匂いだけで、ご飯3杯はいけそうだ。


和牛っぽかったので、大根おろしを付けた、下し醤油で食べて貰う事にする。


パンや焼きお握りも出して、みんなでウマウマと食べる・・・食べる・・・食べる。

何度も焼く嵌めになってしまいました。



「ああ、これ夢じゃないよね?」

とスラム脱出組が泣いてました。

大丈夫、夢じゃないからね! 頑張れば良い事もあるさ!と心で励ますのであった。



スラムのストリートチルドレンを、救い出す結果となった海渡ではあるが、別に誰でも平等に・・・とか、誰でも無条件に救われるべき・・・なんて事は微塵も思ってない。

単純に根っからの悪でもなく、必死に寄り添って助け合って来た彼らに働く意思も頑張る気もなければ、助ける事は無かっただろう。

最悪、治療して、それで終わりとなった筈である。



自分自身は女神様のお陰で、色々な恩恵を頂いた事で、こうして生き延びる事が出来たが、それがなければ、確実にあの森で終わりだったろう。

だから、彼らの境遇は他人事ではなく、一歩間違うと自分自身だったかも知れない。


ヤル気と覚悟を確認し、あるのなら、彼らにチャンスを!と思ったまで。


もし、彼らの口から、他人のせいや、運の無さや世間の無情さを嘆く言葉が出ていたら、つまり救われて当然、自分らは被害者だ等言う奴らだったら、助け出さなかっただろう。




この世界の文字は、平仮名の様に一文字一文字で構成され、口語と同じよう書けば、それが文字となる。つまり、英語の単語のように、RなのかLなのか?とか単語特融のスペルを覚える必要はない。


だが、この弊害は、同音異義語の例えば、凧なのか蛸なのかハッキリしなかったりする訳で、その点日本語が漢字と平仮名やカタカナを併用する事の便利さが実感できる。

そういう意味でも、元の世界の日本と比べ、文化が遅れている事が伺える。

もっとも、海渡の場合は、女神様から頂いている『言語理解Lv10』の恩恵で、単語の『たこ』を見ただけで、それが凧なのか蛸なのかがハッキリ判ってしまうと言う訳なのだが。

ちなみに、海渡が会話をする場合も同様で、本人は意識せず、日本語を話す感覚でいる訳なのだが、ちゃんとこの世界の言語として口から出ている。


まあ、ともかく、日本語で言う所の平仮名に相当する物さえ覚えれば、読み書きは簡単となる。

スラム組に文字を教える教材を近々に作り、文字を覚えさせるつもりである。

例えばリンゴの絵を描いた裏面には、『りんご』と書かれている様な簡単な教材を考えている。何故か、この王国にはそういう教材が無いのだ。

日本語の55音に相当する、67音分を完全にモーラして置けば、良いだけだ。


教材や習う機会は作ってやれるが、それを物にするか、しないかは本人の頑張り次第である。

しかし、彼らなら多分大丈夫だろう、と思っている。




明日の朝だが、距離が遠い為、北門集合は厳しいから、馬車をチャーターし、店舗から朝の7時半に出発する事にした。

勿論手配はヨーコさん率いる秘書部隊である。


帰宅組(孤児院出身の15名と大人5名)がまだ多く、不安もあるだろうからと、結局海渡達も宿舎に泊まる事にした。(アルマーさんには、また連絡しておいた)


夕食の準備を海渡がはじめ、ハンバーグとサラダ、ミネストローネスープ、あとは、新作のピザを焼いてみた。

海渡自身、生地からピザを作るのは初めてだったのだが、スキルの恩恵か、初っ端から大成功。


この世界の食材の美味しさも相まって、10枚焼いたピザがアッと言う間に失くなってしまったw

「これは是非トリスター組にも食べさせてあげねば・・・」

と思う海渡だった。


ベッドは子供らや従業員に譲り、海渡とフェリンシアはテントで使用する寝袋を使用して寝たのだった。

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