第149話
異世界1ヵ月と18日目。
日の出前に目覚め、朝食前に軽く朝の鍛錬を済ませ、現在のマジック倉庫を改造し、各店舗で共有できる倉庫・・・名付けて、『時空共有倉庫』にする。
これで、トリスターで生産した物を、各店舗で共有する事が可能となった。
困った事があっても、大抵は何とか出来る魔法。
「ああ、魔法のある世界って、素晴らしい♪」
と朝からご満悦。
朝食を取りながら、話を聞いたが、従業員曰く、
「いやぁ~、あの通信機の売れ行きが半端ないっすよ! もうストックルームに入れる傍から売れていってますよ。」
との事。
通信機目当てで、トリスターへと態々商人が集まり、大量購入していくそうだ。
なので、この数日の売り上げは、爆発状態らしい。
ヨーコさんは、売り上げの数字を見て、顔が引き攣っていたので、具体的な数字は、あまり聞きたくないかな・・・。
「そりゃあ、かなり大変だったんだね。色々迷惑を掛けるけど、ちゃんと報いるつもりだから、もう少しお願いしますね。」
とお願いしておいた。
しかし、これも各都市に支店さえできれば、分散される筈ではある。
王都支店の新人研修と一時的なヘルプの件は、オスカーさんが、何名かに打診していて、明日にでも・・・と話をしていた。
これは、ちゃんと正規のルートを飛行機で往復する必要がある。
「じゃあ、明日一度ピストン輸送するか。」
と言う事で、トリスターで先行して研修を受ける新人従業員にも連絡を入れてもらった。
トリスターでの色々が片付いたとの事なので、4人で再び王都の店舗へとゲートで戻る。
昨夜の内に設置しておいたカフェと宿舎を見て、爆笑するオスカーさんとヨーコさん。
また朝から店の外には人垣が出来て、色々噂していた。
9時を過ぎた頃、アルマーさんに電話して、明日の朝、一度トリスターに新人従業員を研修で送り、トリスターのスタッフをこちらに一部連れて来る予定と話す。
「おいおい、王都に置いてきぼりにはしないよな?w」
と念を押された。
「大丈夫です、そのまますぐに王都にとんぼ返りしますから。」
と答えたら、
「忙しいなwww」
と笑っていた。
まあ、パイロットも今のところ、自分だけ。機体も1機ではしょうがない・・・。
オスカーさんとヨーコさんの部下の4人には、当面彼らに随行して貰い、色々教えて貰う予定にしている。
早速今日は、ヨーコさんとその部下に、家具や調度類を揃えて貰う予定にしている。
オスカーさんには、先行して店舗の従業員教育をやって貰う予定。
どちらも早く慣れて貰わないと、オスカーさんとヨーコさんがヤバいし・・・。
王都のストックルームは、トリスターの時空共有倉庫と接続済みなので、後は従業員さえOKになれば、店舗の開店は大丈夫となった。
従業員宿舎の方だが、ベッドを幾つかトリスターで受け取っていたので、ある程度は設置してある。
あとは、従業員宿舎の調理スタッフも、雇わないといけない。
アルマーさんにも、一応心当たりを当たって貰っている。
まだまだ、課題が多くて嫌になる・・・。
10時になって、新スタッフが集まってきた。
彼らは、一晩で生えたカフェと従業員宿舎に唖然としていたが、宿舎の設備(特にお風呂)を見て、漏れなく大興奮していた。
孤児院の子だけでなく、店長候補の大人までもw
集まった新スタッフの面々に、トリスター研修組には明日の朝8時に北門に集合する様に通達し、海渡とフェリンシアは店舗を後にした。
王都は広い。
トリスターも広い都市だが、王都は王城を中心に約半径18kmの円形をしている。
門へと続くメインストリートは非常に栄え、人通りも多い。
その為、大きく移動する際は、乗合馬車等を利用するのが一般的である。
体力的に問題の無い海渡とフェリンシアは、全くそんな事を思いつきもせず、王都を散策しながら徒歩で彼方此方見て廻っている。
最終的な目的地は北門を目指しており、空港の土台を作る予定であった。
海渡の店舗は、北門から王城へ続くメインストリート上の、一番栄えているエリアにある。
所謂、商業の一等地である。
そこから、右へ行ったり、左へ曲がったりと、1本道を逸れた裏通りを散策しつつ北門を目指す。
1本外れた裏通りでも、ソコソコに栄えており、メインストリートよりも、若干値段が安い店等で活気がある。
しかし、店舗から7km程離れた場所まで来ると、裏通りの様相が変わって来た。
周囲に活気がなくなり、歩く人も段々とまばらに・・・。
「ん? なんか少し王都のイメージと違って寂れてるね・・・。」
とフェリンシアに囁く。
「なんか、町の人の元気が無いですね・・・」
とフェリンシアも同意する。
『海渡さん、ここは王都のスラムの入り口を入った所です。この先は、あまり治安が良くない場所です。』と智恵子さん情報が入る。
なるほど、これがスラムか。
日本に住んでいた頃、海渡の住んでいる地域では、ホームレスの人を見かける事は、皆無に等しかったのだが、この世界の王都のスラムは、かなり酷い有様だった。
とにかく、匂いがきつい。ゴミや汚物等が所々にあるようで、さっきまでの王都のイメージが、完全に崩れ去ってしまった。
唖然としてスラムの様子を眺めていると、マップに淡い反応があり、4人の7~13歳ぐらいの少年が近寄って来た。(敵意や悪意とはまた若干違う反応)
身なりは、みすぼらしく、所々破けた服を着ていて、顔や体は汚れ、髪の毛は油と汚れでベッタリとしていた。
何よりも、顔色も青白く、痩せこけていて、気の毒な程だった。
「お、おい、おまえ! 痛い目に合いたくなかったら、何か食い物よこせ!」
と一番せの高いリーダー格の少年が言う。
言っている内容はアレなのだが、顔はどことなく申し訳ないと思っているのが、窺える・・・。
そう言えば、孤児院出身の子供の働き口が無いと言う話を先日聞いたばかりであった事を思い出す。
あまりにも脆弱で、今にも倒れそうな彼らを見て、承諾を得ずに、コッソリ全員を鑑定した。
4人共に、飢餓状態と塩分不足であった・・・
特に一番小さい子の状態が酷い。立ってるだけでフラフラしている。
あ、その子が倒れた・・・
慌てて仲間の子が、手を貸し支えている。
見るに見かねて、海渡が口を開く。
「もう随分食べて無さそうだね。いきなり食べると、お腹に無理が掛かるから、まずは、これを飲みなよ。食べ物もあるからさ。」
と、目の前で岩塩を少し混ぜたハチミツ水をコップに入れて、4人に手渡す。
そして、彼らにクリーンとヒールを掛ける海渡。
体と服の汚れが取れ、茶色かった服が真っ白になる。
顔色が悪かった子も少し復活し、貰ったハチミツ水を口にして、小さい声で
「美味しい・・・」
と涙ぐむ。
サンドイッチを出してやり、4人の話を聞くと・・・リーダー格の少年がポツリポツリと話だす。
少年は去年まで孤児院に居たのだが、結局働き口が見つからぬまま、その日暮らしで何とかやっていたが、病気で数日寝込んだ事がきっかけで、スラムに流れたらしい。
一度スラムに入ると、今度は抜け出すにも抜け出せない(余計に仕事が見つからなくなる)らしい。
そして、スラムで知り合った孤児達7人と何とか食べ物を漁って、命を繋いでいたが、ここ数日は全く食べ物にありつけず、困り果てて、何とか動ける4名で、意を決して今回の行動に出たらしい。
聞くと、ねぐらにしてる場所には、もう動けなくなった子が3人居るらしい。
それを聞いて、すぐに案内させる。
連れられて行った先は、ボロボロの穴だらけ。
小屋と言うにはおこがましい様な場所だった。
床は無く、地面にボロ切れを敷き、その上に3人の女の子が、息も絶え絶えな状態で寝ていた。
海渡は即座に鑑定し、飢餓状態の末期である事を知り、即座に栄養不足による脳障害や内蔵の損傷等も回復するイメージでヒールを掛け、更にクリーンを掛けた。
そして、子供らと手分けして、ハチミツ水をすこしずつ飲ませる。
少しずつ少しずつ・・・一気に飲ませて気管に入らない様に、少しずつ・・・。
最初の1口が喉を通り、体へと浸透していくと、徐々に顔色が戻ってきて、息も正常に落ち着いてきた。
3人の女の子(7歳、8歳、9歳)は、次々に意識を取り戻した。
意識が戻った3人に、まずは軽めのスープを飲ませ、次にサンドイッチを渡し、徐々にユックリ噛んで食べる様にと指示する。
最初4人にも、のサンドイッチのお替わりとをスープ出した。
涙ながらに食べる子供ら7人。ありがとう、ありがとう・・・と。
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