第95話

 泣いてるサンドラさんを置いて、魔道具ギルドを後にし、敷地・・・いや、我が屋敷へと向かう。


 店舗では、既に皆さん作業に入っている。


「おはようございます。今日も宜しくお願い致します。」

と挨拶して横を通りすぎる・・・が捕まった。


「おい、坊主、昨日見てたが、あの建て方、すげーな!!! あれだけの工程が一瞬じゃねーかよ!!」

と棟梁。


「あはは・・・本職の横で、お恥ずかしい限りなんですが・・・」

と頭を掻く。


「いや、あれはスゲーぞ! ちゃんと強度も考えて作られてるしよぉ、関心してたんだ。」と。


「こちらでの建て方は、判らないですが、他に2×4とかって、1つ1つのパーツを作っておいてそれを箱を作る様に組み立てて、現地での作業を短縮するやり方もあるみたいですね。」

と答えると、


 食いつく棟梁。

「ほー、面白いな。そんなのもあるのあか。 あの斜めのバツ印を入れたのは、強度を上げる為だろ?」

と聞くので、


「はい、あれが無いと、縦横の揺れがあった時に、倒壊しちゃいます。あれを入れるだけで、大幅な強度アップが図れます。」

と答えた。


「なるほどなぁ・・・。あ、時間取らせてしまってわりーな。また後でな!」

と仕事に戻っていった。



 屋敷に入ると、見覚えのある女性がヨーコさんとやって来た。

「おはようございます。カイト様、今日からお世話になる、メイドのリリーです。以前は、領主様の館でメイドをしておりました。」


「おはようございます。 ですよね! 見覚えあると思ったんですよ。 そうですか、であればリリーさんに他のメイドをお任せすれば、安心ですね。宜しくお願い致します。」

と頭を下げる。


 ヨーコさんも、

「おはようございます。リリーさんをスカウトしたのは私だったの、お眼鏡に叶ったようで安心しました。」

とホッとしたらしい。


「さて、今日は、カフェを完全に仕上げたりします。 今朝は朝の内に孤児院の方に寄って、園長やシスターに挨拶をしてきました。


 あと残りは・・・ ああそうだ。

 今日明日辺りから、砂糖のラインを本格的にスタートさせたいのですが、どうですかね?

 塩は岩塩ブロックのままなので、販売するには粉末状にする必要があると思います。そっちの粉砕機も明日中には作って置きますので、明後日ぐらにはスタート出来るかと。


 あとは・・・一応、当初話をしていたように、加工エリアは地下にしようと思ってまして、現在ある倉庫や旧武器庫では狭くなりそうなので、拡張する事を考えてます。


 他なんか忘れている事はありましたっけ?

 ああ、託児ルームだ・・・カフェと、屋敷の間の庭に託児ルームを作ろうかと思ってます。


 あとは・・・照明も作らないとな。

 あ、昨日言われたペグですが、鋳造する魔道具ラインを作るので、それで行いましょう。

 テントの出入り口の金具も。 他に何かありますかね?」

と思い出しながら伝える。これで全部だっけ?


 あとは・・・とヨーコさん。

「あとは、昨日中断してた料理人の料理の試食の件ですね。 私も今朝食べさせて貰いましたが、美味しかったです。 朝ご飯まだなら、まだ用意出来るようですが。」

との事だった。


「うーん、そんなにお腹減ってはいないけど、少しだけ作って貰って、先に味見した方が、本人たちも安心するだろうからね。」

とフェリンシアの方をチラリと見ると、


「私は普通に作って貰っても、食べられるから大丈夫ですよ。」

とほほ笑んでらっしゃる。


 では伝えてきます。とヨーコさんがキッチンへと向かう。


 食堂に行き、用意されるのを待つと、程なく2名分の朝食を持って、ヨーコさんとアニータさんがやって来た。


「おお、ベーコンエッグとトースト、それにスープですね。」


 スープをスプーンで掬って、口の中へ。

「おお!美味しい!!! これは何のスープなんですか? とても美味しいです!!!」


「ああ、良かった。それはジャガイモと、トウモロコシをすり潰し、出汁骨(出汁の取れる家畜の骨)の汁で割って、ミルクと塩で味付けした物です。」


「うん、これなら、何の心配もない。じゃあ、『料理長』、これからも宜しくお願いしますね。」

と『長』を強調して言っておいた。


 フェリンシアの方をみたら、完食して満足気だった。

 もしもし、フェリンシアさん、ちゃんと噛んで食べてますか?


「あと、本当に今後は体調不良とかあった、ちゃんと知らせてください。

 大抵何とか出来ると思いますので。みなさんもですよ?」

と厳命しておいた。


 カフェの完成前に、キッチンへ寄って、食材庫へ幾つか、肉や果物等の食材を説明しながら入れていく。

 この食材庫は、時間経過遅延が掛かっているらしい。


 暇をみて、アップグレードしましょう と言っておいた。



 地下の工房へ移り、カフェで使うガラスを作成していく。手慣れてきたので、短時間でサクサク出来る。


 1階と2階の階段(これはカフェと独立した2階への入り口用の階段)も作り、アイテムボックスに収納。


 カフェへ行き、階段を設置し、ガラスを嵌め込んでいく。


 内装部分の間仕切りやなんかを完成させて、キッチン部分と店舗部分に別け、内装の不足部分を仕上げる。


 2階のレストラン部分は、L字型の壁部分がガラス張りなので、見晴らしが良い。


 2階キッチン部分には、換気扇の魔道具を作って設置し、屋根の上の煙突部分から抜ける様にした。


 また地下工房に戻って、今度は冷蔵ディスプレイをステンレス素材で作成する。断熱の為、真空2重構造にしてみた。

 後ろの扉がちゃんと開閉とロックが掛かるようにして取り付ける。

 魔石を嵌める台座を作って横に魔法陣をかきこむ。最後に棚のガラス板と外側の2重ガラスをはめ込んで完成。


 これをカフェに設置し、海渡の出番はエアコンや照明器具、トイレの便器等の設置のみ。


 ちなみに、これら今まで作った魔道具やガラスには、トレードマークのロゴを入れてある。カイト印だ。

 テントやバックパックやバッグ等の生地にロゴを印刷する魔道具10個、壺へのロゴを刻印する魔道具を10個、金属ケースに刻印する魔道具も10個、ついでに作っておいた。

 これらの魔道具は各持ち場へと手渡しす。


 また地下工房に籠り、今度はペグや留め具を作る魔道具を作成する。素材となるインゴットから入れて置けば自動でペグを作る物、留め具を作る物をそれぞれ2機作った。


 鉱石からステンレスのインゴットを作成する魔道具も2機作成した。


 岩塩ブロックを粉砕し、サラサラの粒の岩塩を作る魔道具も4機作成した。


 簡易結界用の立方体(中に魔石をセットできる)をミスリルインゴットから作れるラインも2機作成した。


 照明の魔道具だ。間接照明用、スポットライト用、さまざまな照明器具を作成し、魔道具スイッチと連動する仕組みを作る。謂わばリモコンの様な物。


 あとは岩塩の1m×1m×1mの立方体を取り出し、中を風呂桶の様にくり抜く。

 表にはカイト印のロゴを大き目に刻印し、中に照明器具を入れ光らせてみる。


 いいね、目立つね。これを1階のショーウィンドーのに飾ろう。 2階はテントを1つショーウィンドーに飾って、ロゴの面を前に向け、中で照明を光らせると、良いだろう。


 とここまで作った所で、フェリンシアが昼食が出来た事を教えに来てくれた。

 フェリンシアは、子供らと遊んでくれていたらしい。


 アニータさんの作る昼食も美味しかった。これで少し肩の荷が降りたなw

 一応、昨日の俺の行動を見て、大工さんや職人さんの分も、アンジェラさんと一緒に作って出してくれたらしい。



 昼食後に再度地下の工房に籠って、店舗やカフェのエアコンの魔道具も作成した。


 さて、目玉の1つと考えている、トイレだ。

 この世界のトイレは前に話したように、2種類。ボットン式と魔道具式。魔道具式は単純に水洗の代わりに便器内の排泄物を無害化してケースに溜めるだけ。

 なので、これを有機肥料に変える仕組みと、消臭する機能、適温の水のシャワーが出るあの機能を取り付けた物を考案した。

 便器や便座は土魔法による、硬化した陶器とし、シャワー部分はステンレス製にした。

 問題は、これが受け入れられるか? なのだが、一度使えば病みつきになる事は、日本と世界が証明している。


 この便器も3つのパーツを作る生産ラインを作成した。

 1つは便器と便座を作るライン。但し原材料は土が要る。

 2つ目は水洗に相当し、それを有機肥料のブロックに固めてくれる機能のケース部分を作るライン。

 3つ目は重要なシャワー用のステンレス製の機能部分を作るライン。(ステンレスのインゴットの補充が必要)


 で、重要な魔法陣の付与であるが、今までだと、海渡自身が、日本語の魔法陣を魔力を込めて描いていた。これのお陰で、チート機能使い放題だったのだが、

 日本語の魔法陣を描けるのは、海渡だけである。つまりどの魔道具の生産ラインにも海渡が必要となってしまう。


 これでは、面白い事は何も出来なくなってしまう。そこで、色々考えた結果、魔法陣刻印ハンコなる物を考案してみた。

 魔法陣を魔力刻印する魔道具。

 これを付与のスキル持ちが使えば、海渡が付与するのと同じに出来ないか?と。

 まあ行く行くはこれも自動化したいが、今は第一段階と言う事で。


 魔法陣刻印ハンコを作成し、ミスリルで作成したハンコ部分の板を取り返れば、何でも使える様にした。

 目玉の1つである、野営用簡易結界の魔法陣のハンコ部分を作り、ラインの試しで作ったミスリルのケースに付与スキル持ちのマルティーさん(昨日新規合流した)に、刻印を試して貰う事とした。


 屋敷の1階に戻り、マルティーさんを呼ぶ。

 魔法陣刻印ハンコの使い方を説明し、ミスリルの箱に刻印して貰った。


 庭に出て、10m以上離れ結界魔道具を起動してもらった。

 海渡が10m圏内に入ると、警報が鳴る。更に進むと7mで結界のシールドに阻まれた。

 海渡は 「Yes!」と大きくガッツポーズを決め、大喜び。


 魔法陣刻印ハンコ計画成功である。

 この魔法陣刻印ハンコは世界を揺るがす程の大発明であった。付与スキルさえあれば、魔道具の量産が可能となるものだ。

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