第88話


 次は屋敷側だな。


「まずは、料理人に挨拶かな。」

とキッチンへ向かう。


「アニータさん、今ちょっとだけ、お時間良いですかね? ご紹介します。

 こちらが、オーナーのカイト様、そしてそのパートナーのフェリンシア様です。」

とヨーコさんが声をかける。


「あ、初めまして。アニータです。この度は、私ども親子を拾ってくださり、本当に感謝しております。着の身着のままで避難してきて、生活も出来ず、途方に暮れてました。」

と深々と頭を下げてきた。


 アニータさんは、綺麗な顔立ちなのに、痩せてると言うより、窶れていて、この避難の苦労が滲み出ていた。26歳でサニーと言う6歳の娘が居るらしい。背は165cmぐらい。


「初めまして、カイトです。縁あって、こちらで商会を開く事になりました。

 当分は手が足りなくて忙しいかと思いますが、宜しくお願い致します。

 そうですか、それは大変でしたね。

 何か足りない物や、困った事があれば、私かヨーコさんか、オスカーさんに言って下さい。

 当面の衣服や生活用品等も無ければ、こちらで用意しますので。」


「着替えは2着あるので、何とか着まわせると思います。

 あの・・・それで質問なのですが、私で良かったのでしょうか?」

と不安を零す。


「そうですね、お人柄は問題無いです。 後は肝心の料理ですね。

 料理スキルをお持ちと聞いておりますので、今日のお昼を食べさせて頂いて・・・で宜しいでしょうか?

 まあ、あんまり心配しなくても良いと思いますよ。 悪い様にはしないつもりですので。まあ私も色々アドバイスも出来るでしょうし、逆に教わる事もあるでしょうし。」

と答えた。

 まあ、こればっかりは料理食べてみないと、何とも言えないもんね。


「はい、お口に合うように、頑張ります!」

と両手に拳を握り、胸の前でグッとしていた。


「ところで、今朝こちらに越してこられたと聞いてますが、朝ごはんとかは、ちゃんと食べられてますか?」

と聞くと・・・


「いえ・・・実は昨日からまだ何も食べておりません。今日からこちらで働いて、賄いも出ると言う事で・・・。」


「え?じゃあ娘さんは? と聞くと、娘にも食べさせてあげられなくて・・・少し今体を壊して、こちらの部屋で寝かせてます。すいません。」と。


 ええーーーダメじゃん、それ真っ先に行ってくれないと。

 大急ぎで、部屋に行って、娘さんを診させてくれ と頼んだ。


 大きな方の部屋の床に毛布に包って寝ている女の子が居る。俺より1つ上だけど、驚く程に細い・・・。


『知恵子さん、この子どんな状態?』


『現在熱が39.5℃で、かなり脱水症状と、飢餓状態になってます。かなり危険な状態です。原因は過労と栄養不足で、免疫力が落ちており、不衛生な物を水を飲んだようで、細菌に感染しています。』


『これって回復魔法は効く?』


『はい、回復魔法と、ラピスさんのお水にハチミツを解いた物をまず与えて下さい。 あと、お母さんの方も、38.2℃の熱がありますね。気を張ってらっしゃた用です。急いでください。ショックで心臓麻痺が起きる可能性あります。』


 よし、まずは、回復魔法のヒールだな・・・2人の熱を下げ、免疫を上げ、病原菌のウィルスがいれば、撃退するイメージで・・・


『ヒール』


 かざした手から、出た白い光が親子2人を優しく包み、悪かった顔色が戻ってくる。

 女の子、サニーも、顔色も息も普通になり、目を開けて意識が戻った。


 ラピスの泉の水を少し温め、そこにハチミツを1匙分ずつ入れて良くかき混ぜ、二人にコップを渡す。


「さあ、元気が出るので、これを飲んで下さい。」


 一口飲んだサニーが、

「ああ、甘くて美味しい」

と涙を零す。

 それを見ながら、アニータさんも涙を零しなら、ハチミツ水をゆっくりと飲む。


 すると、2人の顔に精気が戻って来た。

「やっぱり、ラプスの泉の水と、ハチミツは凄いな!」

と呟くと・・・。


「もう、やっと呼んでくれたよ・・・。いつまで待たせるのよ!!!」

とお怒りのラピスさん登場w


 突然現れた光る掌サイズの女の子・・・まあ精霊なんだけね・・・これを初めて見た4人は1人を除き、(アニータさん、オスカーさん、ヨーコさん)固まっていた。


「あ、可愛いー もしかして精霊さん?」

とサニー。


「ふふふ、私、ラピスって言うの、私の泉の水を飲んだのね? 美味しいでしょ?」

と自慢気なラピス。


「うん、ハチミツも入ってて、とっても美味しかったの!」

とサニー。


 するとラピスが海渡の所まで飛んできて、

「私にもハチミツを寄越せ!」

と強請る。


 しょうがないので、また小皿にハチミツをのせ、取り分けてやると、顔中をベタベタにしながら、ハチミツを舐めていた。

 横で、トントンと肩を突っつかれ、横を見ると、指を咥える、フェリンシア・・・。


 黙って、ハチミツを掬ったスプーンを渡すと、ペロペロ舐め舐め始めた・・・。


「あんたら・・・自由過ぎだろwww」

と笑うと、再稼働した3人も驚きつつも笑った。


 お替りのハチミツ水を親子に渡し、ついでにオスカーさんとヨーコさんにも渡すと、2人は一口飲んで、クワッと目を見開く。『物』が判ったようだ。


「こ、これは・・・」

とオスカーさんが呟く。


「お二人とも、危険状態を脱したようだから安心したけど、かなり危険な状態だったよ。 今度からは、何かあったら、絶対に誰かに言ってね。それを無視するようなスタッフは逆に要らないから。まあどんな状態でも、ある程度は何とか出来ると思うから、調子が悪かったら、無理せずに言う事!」

と強く伝えた。


 そして、消化の良さそうな、オークスープを皿に入れて、スプーンを手渡す。


「これ、消化に良いと思うから、暫くまともな物を食べてないだろうから、これから馴染ませてね。

 アニータさんも、今日は部屋でユックリ休んで、仕事は明日からね!!

 絶対に無理は禁物だからね!!」

とアニータさんに言うと、


「はい!」と嬉し気に微笑んでくれた。


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