第78話
本日で異世界21日目。
今朝も朝から忙しい。
今日は、昨夜決まったスタッフのヨーコさんも一緒に、敷地へと向かう事となる。
オスカーさんは、敷地に近い所に住んでいるらしいので、直接門の前で待ち合わせするようにしてある。
ヨーコさんを加えた3人で、早朝の町を移動しながら、屋台で肉串やサンドイッチや軽食類を多めに買って行く。
昨日と同じ8時半には、既に草刈り隊の16名とオスカーさんが居て、みんなで和やかに話をしていた。
「おはようございます。みなさん、早いですね!!」
と挨拶をして、門を開ける。
今日は、店舗側の出っ張り部分を先に刈って貰うようにと、みんなにお願いし、フェリンシア、オスカーさん、ヨーコさんと一緒に屋敷の中に入る。
一通り案内して、食堂へと向かう。
現在、打ち合わせが出来そうな場所は、この食堂のテーブルと椅子ぐらい。
黒いテーブルの上に、建設予定の模型を置き、現在取り掛かり中の事、発注済みの家具類等、孤児院や孤児達の雇用の件と、今回の草刈りの料金や待遇を伝えていく。
足りない家具類もかなりあるので、白金貨1枚をそれぞれに預け、応接室のソファーやテーブル等、必要な物を揃えてくれるように、お願いする。
住む場所だが、良ければこの屋敷の空き部屋を使って良いと打診すると、喜ばれた。
冒険者ギルドに行くので、後を宜しく!と、ギルドへと出発。
ギルドでは、まだ多くの冒険者が居た・・・が、今日は全く絡まれる気配がしなかった。
心なし、冒険者達がこっちを見てるので、目線を向けると目を逸らされた気がした。うん、気のせいだろう。
アニーさんを見つけ、手を振ると、こっちにやって来て、ハロルドさんを呼んで、ギルド裏の屋外訓練場へと向かう。
訓練場には、先日出したトレントが綺麗に枝を落とされて、丸太になって積まれていた。
本日のトレント50本を出して、地下の倉庫で自分用の解体した肉や素材を受け取り、ハロルドさんの部屋へ上がる。
「前日の清算分だが、この金額になる・・・またしても凄い事になってるぞw」
と金額を指さすハロルドさん。
「黒金貨2枚、白金貨25枚と金貨8枚と銀貨84枚に大銅貨22枚 ですかね?」
「だなw」
とハロルドさんが笑う。
トレントは結構需要があって、良い値段で取引されるそうだ。
建築物の柱に使用すると、滅茶滅茶強度が上がるので、貴族や大商人の建てる物に好んで使われるらしい。
まあ、加工し辛いのが難点なんだけど・・・との事。今回の分は、ギルドカードにそのまま入れておいて下さいとお願いし、ギルドカードを渡す。
「あと、領主様から指名依頼が入っている。知っているとは思うが、内容は『絶界の森』内部の偵察だ。出来るだけ早目に行って欲しいらしい。」
と依頼書を渡された。
ついでに、岩塩とサトウキビと他の鉱石類とかも調達しなきゃな・・・となると、最低でも2日、余裕を見て3日か・・・と頭で算段し、
「ええ、聞いております。了解しました。今日明日は無理なので、4日以内に出発します。出発前に一度報告入れますね。」
と答えた。
振り込みの終わったギルドカードを受け取り、ノントラブルでギルドを後にした。
海渡は知らなかったが・・・
先日のガーターとの絡みで見せた目に見えない動き、
ギルドマスター自らの対応の件、
アルマーの迎えの件、
商店で爆買いする幼児の噂、
商人ギルドで新しくSランクの商会が生まれた噂、
南の街道で目撃された信じられない速度で移動する幼児と少女らしき陰の噂・・・
どれもが幼児=海渡で繋がり、ギルドの冒険者内では、暗黙の内に『触れてはいけない存在、絡んではいけない存在』として認識されていたのだった。
ギルドの用事が終わり、一度、敷地へと戻る。
戻る途中で仕入れたバッグ、3つを目下改造中なのである。
素材的に、付与に耐えられないので、鞄の内側に余っているオークの皮を貼り付け、フェリンシアのマジックポーチと同じ魔法陣を描き込んで行く。
屋敷内を確認中だったオスカーさんと、ヨーコさんを呼んで、完成したマジックバックを渡し、説明した。
これから購入する物が多いので、「助かります!」と大変喜ばれた。
それと、3日後ぐらいには、一度『絶界の森』の偵察任務で出かける事を伝えた。
「岩塩と砂糖の元をついでに仕入れてきますので、2~3日は戻れません。」
と言うと非常に驚かれてしまった。
そして今、キッチンで昨日狩ったスイート・ボアを血抜きして解体している。
肉塊を焼肉用の厚さに切り分けていく。
ボウルにニンニクとネギと塩と醤油と日本酒と唐辛子の粉、ハチミツをよく混ぜる。
即席ではあるが、焼肉用の漬けタレである。
そして、そこに肉に馴染ませる。
切った肉を投入し、混ぜて馴染ませる。これをドンドン続け、解体した1/4の肉は漬け込んだ。
「醤油も日本酒も早く補充しないと、本当になくなりそうだな・・・」
と少し寂しい気持ちになる。
下準備を終え、今度は庭で、土魔法で竈を作成し、その上に石板を置く。
薪を出して、魔法で着火。
30分かけて、ジワジワと石の鉄板を温めていく。
石の鉄板に程好く熱が入った頃、昼食時間になる。
エンジ達にパンのみを買いにいかせ、オスカーさんと、ヨーコさんも呼んで、20名全員で焼肉とする。
熱の入った石の鉄板に、スイート・ボアの漬け込んだ肉を置くと、ジュワーと言う音と共に、肉の油と醤油に焦げる、良い匂いが辺りに充満する。
1巡目の肉は10秒も掛からずに無くなり、ドンドンと続きを焼いて行く。
子供達は「美味い美味い」と涙を滲ませながら、食べている。
「ちゃんと孤児院のみんなの分もあるから」と伝えてあるので、今日は遠慮なく食べているようだ。
オスカーさんと、ヨーコさんも、滅茶苦茶美味しいと大喜び。
時々「ああ、こんなに食べたら太ってしまいそうです」とか呟きながら。
フェリンシアは、
「久しぶりに海渡の焼肉だーーー」
と大喜びで頬張ってるw
良いな!異世界。 美味しい物が沢山あって・・・。
そして完食後、みんな食いすぎで座り込んでる・・・。
そりゃあ、あれだけ食べればねぇw
海渡は片付けをすませた後、昨日作った白砂糖生成魔動具の改良に着手する。
昨日の実験で判ったのだが、
抽出したカスを取る手間が非常に面倒で、少量ならまだ許せるが、量産時にはそれがネックになると考えた。
よって、カスを自動で取り除くか、手動でも取り出しやすさを考慮する必要がある。
「と言う事で、マップで発見していた、地下の武器庫?倉庫?にやってきました。」
と1人呟く。
一応、ここもクリーンの対象になっていたらしい。埃一つ無いようには見える。が、念のため再度クリーンを部屋全体に掛けた。
作業用の台を土魔法で作成し、メモ帳に考案するデザインを描き込んで行く。
デザインが決まり、早速2号機の作成に取り掛かる。
衛生面を考え、はやりステンレスで作るつもりでいたのだが、鉱石が足りない事に気付く。
『ねえ、知恵子さん、ステンレスに使う成分を多く含んだ鉱石って、この近所にないかな?』
『そうですね、昨日サトウキビを採取しに行った際、岩場があったと思いますが、あの岩場の地下20mぐらいに鉱石の反応がありましたよ。』
『そうか、判った。ありがとう。』
と言う事で、フェリンシアと連日の南門を通過し、岩場へと向かう。
そして今、マップの▲の真上。
「この真下20mに材料となる鉱石があるらしい。これから真下に向けて穴を開けるから、フェリンシアは周りの警戒お願い。」
とフェリンシアに伝える。
土魔法で真下に向け20mの穴を開けてみる。
穴の淵から覗き込み、鑑定するが、今一つ反応が無い。
『あれ、もうちょい下?』
と知恵子さんに聞くと、
『あと2m掘れば、鉱石の層に当たります。』
との事。
更に2m掘り進み、再度鑑定。
「鉱石みっけ!」
この鉱脈は、凡そ厚さ5.7mの層らしいので、その鉱脈から20トン分の鉱石を取り出した。一気に魔法で。
すると・・・地響きと共に、一帯が深さ5m程、地盤沈下しちゃった・・・。
そして、2人もそれに巻き込まれた。
穴から這い出して、
「さて、どうしようか? なんか派手に地形が変わっちゃったんだけど・・・」
と考え込む海渡。
まあ、人の来ない場所だし、このままで良いかww と忘れる事にした。
採掘も無事?に終わり、再び屋敷の地下に戻って、作業再開。
今回作る白砂糖生成魔動具は、かなり大型。
余裕を持ってステンレスのインゴットを作成していく。
20トンの鉱石から約10トンのステンレスが作れた。
今度は、そのインゴットで2号機を作成していく。
一応、作業効率を上げる為、未カットのサトウキビをそのまま使える様に工夫する。
原材料の投入口はスロープにして、途中の穴から砂糖、横の穴からはサトウキビのカスが出て来る様にした。
穴の下に砂糖を溜めるタンクを作り、そこから麻袋へと取り分ける仕組みとした。
やっと1時間掛で、2号機が完成。
魔法陣も描き込み、魔石を嵌めて、テスト開始。
フェリンシアに頼んで、ドンドンとサトウキビを入れて貰うと、200リットルぐらいのタンクにドンドンと砂糖が溜まって行く。
100リットルぐらい生成して停止。
カスの排出もスムーズにおこなえたので、問題ないだろう。これで量産できるようになる。
量産の為、更にもう3台を製作。
カイト印の砂糖製造機Ver.2 1~4号機が 整然と地下に並んだ。
1階に戻ると、オスカーさんと、ヨーコさんも買い物から戻って来てたので、地下室に呼んで、砂糖製造のラインを見て貰う。
タンクに溜っていく砂糖にと、そのスピードに驚いていた。
2人には原料の軟竹ことサトウキビをみせ、
これを2ヵ月毎に収集する必要がある事、
何処でも栽培は出来る事、
農家に頼んで栽培してもらうか、自生する物を2ヵ月毎に採取するか、
戦略に関しては2人に任せると伝える。
絶界の森に行く時に、ある程度採取してくる事も伝え、地下を後にした。
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